15.いい返事だ
僕が顔をしかめてクロアを見ていると、
「ん?」
髪と同色の水色の瞳と視線が合った。
クロアはじーっとこちらを見つめた後、椅子から腰を上げ、僕へ近づいてきた。
目の前まで来ると、クロアはズボンのポケットに手を突っ込み、不審者を観察する刑事ような眼をこちらへ向けながら、僕の周りを歩き始めた。
「……何? 気持ち悪いんだけど」
「……」
クロアは何も答えず一周して僕の正面で足を止めた。
「どこから見ても人間だな」
「お前さっきまで召喚獣だって言ってたろ」
「歳は十六、七か……」
スルー。
「名前は確か……」
「ジョ◯ー・デッ◯です」
「ハバムトウだったな。ハバムトウ……バハムート……なんともややこしい名前だな」
フゥ、とため息を吐いて左手を腰に当て、顔の下半分を隠すように右手を口元に当て、アイドルが写真撮影でもするような立ち姿で僕を見るイケメンクロア。
ちょっとした仕草でも人目を意識してカッコよく見せようと必死な人みたいで逆に笑える。
そのまましばらく僕をじっくりと見てから、くるりとターンをきめて僕に背中を見せ、後ろにいたリィザと向き合い、
「なぁ、コレどうするつもりだ?」
リィザに尋ねながら、背後の僕を肩口から親指で差してきた。
コレときたもんだ。
ケツ蹴りたい。
「へ? あ、え、えと……ど、どうするって?」
まだ先程のクロアの発言を引きずっている様子のリィザ。
自分に言われたと思うんなら、僕にやったように蹴飛ばしてやりゃあいいのに。
「バハムートではないがこれからも召喚するのか? ということだ」
「あ、ああ、そういうことか」
質問の意図を理解したリィザが、クロアの肩越しに僕を見て、
「……え、えっと、ゴホン、二度召喚して二度ともいい働きをしたから、これからも喚ぼうと思う、けど……」
どうかな? と意見を伺うように、上目づかいに視線をクロアへ移した。
機嫌を窺っているようにも見える。
「……そうだな。では、これからも使ってやるとするか」
クロアが賛成してリィザの肩をポンと軽く叩くと、
「あ……うん!」
リィザ、超笑顔。
男なら誰もが見惚れるほどの極上スマイルで嬉しそうに頷いた。
そんな笑顔を向けられているにもかかわらず、クロアは表情を変えることなく、また折りたたみ椅子に座った。
何なんだろう、この二人の関係は?
リィザの反応を特に気にしないクロア。
クロアの反応を特別気にしているように見えるリィザ。
リィザは随分とクロアのことを慕っている様子だ。
だって、クロアが自分の考えに同意してくれただけなのにこの喜びようで…………あれ? これからも?
「よし! ではバハムート! これからもよろしく頼むぞ!」
「……」
「おい! 聞いてるのかバハムート! 返事をしろバハムート!」
「……僕の聞き間違いかもしんないんだけど」
「敬語」
「僕の聞き間違いかもしんないんですけど、これからも喚ぶって仰いました?」
「仰ったぞ」
仰ったか……。
「一応もっかい言っとくけど」
「敬」
「言っときますけど、僕バハムートじゃないっスよ?」
「そのようだな」
実際そうなんだっての。
「それでも喚ぶと?」
「喚ぶな」
喚ぶか……。
「あー、そのー、えーと」
「何だ? 何が言いたい?」
てっきり僕がバハムートじゃないとわかってもらえた時点で、もう喚ばれないもんだと思ってた。
異世界にはとても興味がある。
だが、他にもいると思われる変なものと毎回戦わされるのは勘弁願いたい。
勝てそうにない相手の場合、「これは無理です」って言えば、戦闘は勘弁してもらえると思うけど、う~ん……
「……あの~、ちなみにですが、もし僕がもう喚ばないでと言ったら、リィザさんは僕を喚べなくなるんですか?」
「いや、私が喚ぶか喚ばないかの問題だ」
ひどい話だ。
ゲームの中の召喚獣の気持ちが少しわかった。
今まで好き勝手喚び出してごめんよ。
「……お前、もしかしてもう喚ばれたくないのか?」
悲しそうな顔で言うリィザ。
女の子にそんな顔されると胸が痛い。
「……えと……もし、その……お前がどうしても嫌だって言うなら……」
もう喚ばない?
「強制奴隷の劇薬を飲ませて主人の命令に応えるだけの生き人形に」
「よろしくお願い致します御主人様」
「うむ、いい返事だ」
そりゃするよ。
胸を痛めた僕が馬鹿だったよ。
なんて物があるんだ異世界。
なんてものを飲ませる気だ異世界女。
「フフ、言っておくが薬のことは冗談だからな」
「あ、なぁんだ。そんな物あるわけないっスよね。アハハ」
「それはある」
「……」
よく見たら、この人目が笑ってないよ。本当に冗談なのか?
「では改めて! これからもよろしく頼むぞバハムート!」
「……僕、羽場武刀って名前なんですけど」
「バハムートとして喚んだのだからお前の名前はバハムートだ!」
まぁ、別に馬鹿にしてバハムートって呼んでるわけじゃないからいいけど。
「しっかり働くんだぞ!」
「はい」
「声が小さい!」
「はいっス!」
「スはいらん!」
「はい!」
「うむ!」
満足そうな顔でニッコリ笑い頷くリィザ。
この笑顔を見ることができるってだけでもここに喚ばれる価値はあるかもな。
こうして僕は、御主人様であるリィザ・ライン・ハイエスさんによって今後も異世界へ喚ばれることが決定したのだった。




