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149.バハムート召喚

「ただ、ディノを倒すために必要なものは多々あれど、その中でも最も重要なものがあります」


「それは?」


「それはですね、いいですか? よくお聞きなさい。よくお聞きなさいよ。魔人となったディノを倒すのに一番大切なもの、それは……勇気です! 決してくじけることのない勇気なのです!」


「ふーん」


「『ふーん』!?」


「んなことより」


「『んなことより』!?」


「僕にも何か下さい」


「……奥義、『鉄の拳』お教えしましょう」


「おお! 教えて教えて!」


「一日十万回鉄を殴りなさい」


「ふむふむ」


「死ぬ頃には鉄の拳が完成するかも」


「死の間際に完成してもしゃーないっスよ」


 しかも曖昧。


「あっと、さすがにそろそろ限界のようですね」


 聖女様が自分の手足を見る。

 聖女様の体も服も八割方透けていて、ほぼ透明だった。


「リィザさん、短い間でしたがお世話になりました」


 聖女様が右手を差し出してくる。


「いえ、それはこちらの言うべきセリフです。ありがとうございました」


 リィザも右手を出し握手を交わした。


「バハムートさんも、ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそありがとうございました」


 僕も聖女様とガッチリ握手。


「鉄の拳、頑張って下さい」


「はい」


 がんばらん。


「それではリィザさん、バハムートさん、お元気で。あまり無茶はなさらないように」


 離した手を小さく振る聖女様。


「最後までお気遣い、ありがとうございます」


「僕達のこと見守ってて下さい」


「ええ、天国から見守っていますよ。お二人の未来に幸のあらんことを」


 聖女様の姿が、朝日に溶けるようにして消えてゆく。


「……日の出とともに消えるって、アンデッドモンスターみたいっスね」


「……バハムートさんの未来に幸なんぞあらんことを」


 幸あれって意味だろう。

 聖女様の体はさらに透き通り、やがて視認することが困難なほどに薄れ、手を振る姿のまま天国へと昇っていった。

 丘の上を、夏の朝の涼しく乾いた風が通り過ぎてゆく。


「行ってしまわれたな……」


「優しい人でしたね……」


 まだ側にいるような温もりさえ感じ


「バハムートさーーーーーーーーーーんっ!」


「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 耳元で叫ばれた。

 聖女様の声だった。

 まだいた。


「オホホホホホ、フェイントですよ。オホホホホホ、オホホホ、ッ!? げほっ、げほっ、オホホ、げほっ、げほっ、げぇっほっ、げほっ、ごほっ、ごほっ、し、死んじゃう、ごほっ、ごほっ、ごほっ…………」


 むせる聖女様の声がだんだんと小さくなり、やがて聞こえなくなった。

 今度こそ本当に行ったようだ。


「行ってしまわれたな……」


「エキセントリックなミイラ様でしたね」


 そのまましばし、聖女様のいなくなった丘の上に佇む。

 やっぱりお別れってのは、いつでもどこの世界でも寂しいものだ。最後アレだったけど。


「……なぁ、バハムート」


 朝日に輝く黄金色の髪を風に揺らしながら、リィザがどこか遠くを見つめたまま僕を呼んだ。陽の光の中でその横顔を見ると、昨日に比べ幾分大人びたように感じる。


「……」


「……バハムート? どうした?」


 返事をしない僕へ顔を向け、首を傾げるリィザ。


「……いえ、何も」


「そうか?」


 見惚れてたなんて、恥ずかしくて言えやしない。


「んで、どうかしました?」


「……クロア、倒せると思うか?」


 倒せるか、ね……。


「……ん〜、なんとも言えないっスね。これからの頑張り次第とは思いますけど、ククもいるし、ミラとレアも戻ってくるかもだし、リィザさんもすごい聖印手に入れたから、いつかは倒せるんじゃないかなぁ、ってとこですかね」


「……はぁ」


 肩をすくめてため息吐かれた。


「お前は気が利かないなぁ」


「と言いますと?」


「こういう時は、『もちろんです!』と言っておけばいいんだ」


「そんなもんスか」


「そんなもんだ。もう一度聞くぞ」


「オス」


「クロアを倒せ」


「もちろんです! 質問変わりましたね」


「アハハハハハハ」


 目を細めてリィザが笑う。

 その笑顔には、まだあどけなさが残っている。


「約束だぞ。クロアを倒せよ」


「無理っスよ」


「そうか?」


「そうっス」


「フフ……でもな」


 リィザがこちらへ顔を近づけ、超至近距離から僕の目を真っ直ぐに覗き込んできた。


「お前ならできると思ってる」


「え? え?」


 くっつきそうなほどのリィザの綺麗な顔にドキドキ。


「お前なら、なんとかしてくれそうな気がするんだ」


 リィザの碧い瞳は、ふざけているようには見えない。

 でも、なんとかって言われてもな。


「さぁ! 気合いを入れていくぞ!」


 顔を離したリィザに、背中をバシンッと叩かれた。


「オ、オス」


 ノリが体育会系だ。

 僕が魔人のクロア相手にまともに戦えるとは思わないが、頼りにされるのは悪い気はしない。

 これだけ期待されたら少しは応えたい気持ちが湧いてくる。

 僕って単純だなぁ。


「では、ククを喚ぶとするか」


「あ、そうっスね」


 日の出の後、できるだけ早く喚ぶって伝えていた。

 早すぎる気もするが問題はないだろう。


「魔力は回復したんスか?」


「仮眠をとったからそこそこ回復してる」


 じゃあ大丈夫か。


「では……」


 リィザが右手の平を前へ突き出し集中力を高めると、地面と手の平に青白く光る魔法陣が描き出され、


「おお〜、魔法陣カッコイイ〜」


「フフフ。『我が喚ぶ者言葉に応え顕現し汝が主の意思を受けその力を我が前に示せ』」


 呪文を詠唱し、青く色づいてゆく空の下、力強く叫んだ。


「『バハムート召喚』!」

 お読みくださいましたこと、心より感謝の言葉を述べさせていただきます。

 ありがとうございました!

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