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143.言っちゃった

「さぁっ、私の体につかまって下さい!」


 つかまるって、


「どうやって外へ行くんです?」


「天井の穴からです! そこが一番早く出られますから! さぁっ、お早く!」


 聖女様の体が少しづつ上昇していく。


「さぁっ!」


 聖女様が強く急かし、


「わ、わかりました!」


 その勢いに押されるようにリィザが頷き、


「失礼します!」


 断りを入れてから、聖女様の足にしがみついた。


「バハムートさんも!」


「え!? で、でも、天井の穴って大人一人分くらいの幅だから……」


 聖女様につかまると、リィザもつかまっているので通れなくなるだろう。


「ほらっ、もう行っちゃいますよ!」


 聖女様の体がさらに上がっていく。


「ち、ちょっと待って! えーとえーと……姐さんっ、ごめんなさい!」


 仕方がないので、ちょうど目の前の高さにある黒いガーターベルトとストッキングを着けた、リィザの白い両太ももに抱きついた。


「ひゃあっ」


「では行きます!」


 それを見た聖女様の体が、早歩きほどに上昇スピードを上げ、天井の穴へと入っていった。


「あんなところに穴が!? 皆さん! あの者達を追います!」


 リヴィエラ様の命令に、団員さん達の、「はっ」という綺麗に揃った声が聞こえ、階段を上る足音が続いた。

 どうやら結果的に、聖杖騎士団の人達も外へ出ることになりそうだ。

 それにしても、どうして聖女様は急いで外へ出ようなんて言い出したのやら。

 顔を上げてリィザの上にいる聖女様へ目を向けるが、暗くてほぼ何も見えない。


「あ、そうだ」


 ズボンのポケットにしまってあったものを取り出した。


「ひゃっ! コ、コラッ、バハムート! あんまり動くな!」


 柔らかしっとり太もものリィザに怒られた。


「あっと、すんませんです。でもこれで……」


 カチッと、上向けた懐中電灯のスイッチを入れた。


「おー、見える見える」


 リィザの白い太もももよく見える。


「あら、これは良いですね」


 聖女様もお気に召したようだ。


「ラララ様、魔力は上まで持ちますか?」


 少し不安そうに聞くリィザ。


「飛んでる間って魔力を消費し続けるんスか?」


「通常はそうだ」


 だとしたら、魔力が切れて落下なんてこともあり得るってことだ。


「大丈夫ですよ」


 しかし、聖女様がそう言ってくれて一安心。


「ただ、飛んでから気づいたんですが、体がもたないかもです」


「体?」


「体がミイラなの忘れてました。二人分の体重ってかなり重いんです。お腹の辺りから千切れたらごめんなさい」


 頼む、もってくれ。


「なぁ、バハムート」


「ここに」


「知ってる。お前、クロア達が外にいたとして、あいつらを捕まえる良い方法思いつかないか?」


「う〜ん、そうですねぇ……」


 方法か……。

 ブランは、超強いって話だし、超エロい太もも……あ、いや、違う。超危ない目をしてるんだよな。

 優れた頭脳、肉体を持つ竜人族の中でもさらに優秀な人ってことだから、見事な張りと艶の太ももを……あ、いや、違う。見事な剣と魔法の腕を持ってるだろうし。

 しかも、黒のガーターベルトに黒のストッキングを着けたエロもも……あ、いや、違う。帝国の盾なんて異名がついてる強者で、ブランとクロアを捕まえる方法と言われても、


「う〜む……」


「思いつかないか?」


「そうですねぇ……」


 思いつかないというか、考えようにも全く集中できないというか。

 だって、リィザの太ももがすんごくエッチなんだもの。


 この足はなぜ、こんなに長いの? この肌はなぜ、こんなに白いの? 教えて、リィザさん。教えて、リィザさん。教えて。僕ん家の、庭の木よ。


 クーンカクンカクンカクン クーンカクンカクンカクン クンカクンカークンカークンカークン


「おい」


「クンカ?」


 メコッ


「バイジッ」


 顔面がメコッてなった。


「な、なぜ?」


「鼻息が本気で気持ち悪かった」


 そりゃメコッてされるわな。

 しかしこのおみ足、できることならずっとくっついていたい。


「聖女様」


「何です?」


「ここいらで休憩しません?」


「頭わいてんですか。てか、もう着きます」


 確かに。

 月明かりが穴の中に射し込んできていた。


「外に出ますよ」


 聖女様は、スピードを緩めることなく上昇し、そのまま穴の外へと飛び出した。

 最後尾の僕が穴から出たところで聖女様がブレーキをかけ、空中で体を停止させた。


「無事到着しましたね。お二人とも、私の体が千切れる前に降りて下さい」


 むぅ。

 名残惜しくはあるが仕方がない。

 リィザの足から腕を解き、僕、リィザ、聖女様と順に地面へ降り立った。


 僕達が出てきた場所は、湖に向かってなだらかな下り坂になっている、辺り一面草原の光の塔の裏手だった。

 百二、三十メートルほど離れた所には、真っすぐに立つピサの斜塔のような光の塔が建っており、僕達を挟んで反対側の同じほど離れた所には、夜空を水面に映す森に囲まれた広大な湖があった。

 湖から吹いてくる涼しい風がとても心地良い。


「良い風っスねー」


 久しぶりに外の空気に当たったような感覚だ。


「うむ。開放感があるな」


 目を細め、風になびくふんわりショートボブの金髪を手で押さえるリィザ。

 ちょっとした仕草でも絵になる美少女さんだ。


「本当に。二百数十年ぶりのシャバの空気は最高です」


 聖女様も気持ちよさそうで、深呼吸をするように両腕を広げ、胸を反らしている。


「クロア達の姿が見当たらないな」


 周囲へ目を向けるリィザ。


「もう遠くへ逃げちゃったんスかね」


「そうなのでしょうか……」


 僕と聖女様も同じく周りを確認するが、クロアどころか人影すらない。

 それでも聖女様はキョロキョロ首を振っている。

 急に外へ出ようと言い出したのはクロア達が関係しているようだ。

 でも、あの二人は空を飛んで逃げたわけだし、今頃は優雅に空の散歩とシャレこんで……


「あ」


「どうした?」


「どうしました?」


「いました、クロア達」


「え?」


「どこです?」


「あそこです。塔の上」


 懐中電灯のライトをクロア達に当ててリィザと聖女様に教えた。


「あ、ホントだ」


「あんなところに!」


 目を凝らして見るリィザと驚いたような声を上げる聖女様。

 

 二人は、光の塔の上、数メートルの上空で、クロアが前、ブランが斜め後ろに控えるような格好で街のほうを向いていた。

 ライトを当てられた二人は、チラリとこちらを見たが、すぐに視線を前へ戻した。


「何やってるんだ?」


 リィザが二人を見たまま首を傾げる。


「さぁ? バカと煙は高いところが好きって言いますからね」


「コラーーーーーッ! 降りてきなさーーーーーい! 馬鹿たれーーーーーっ!」


 拳を振り上げ怒鳴る聖女様。

 しかしもちろん、クロアは降りてくるはずもなく、僕の懐中電灯でライトアップされる中、大きく息を吸い込み、


「トレアドールの者共よ! よく聞け!」


 マイクでも使っているような大声を、街へ向けて放った。

 空気を震わせて響き渡る声。

 街の隅々まで届いているんじゃないだろうか。


「何ですか、あのバカでかい声?」


「『大鳴き鳥』から作り出した、『拡声の首輪』をつけているんだろう」


 リィザが教えてくれた。

 拡声器みたいなもんか。


「あ、あの人、何を言うつもりでしょうか……」


 とても不安そうな聖女様。

 そんな僕達三人が注目する中、クロアが更なる大音声で言い放った。


「我が名は、ディノ・クライハーツである!」


 クロアの声が街にエコーする。

 それが萎むようにして消えると、街から人々のざわめきが聞こえてきた。


「……騒ぎになってますね」


「……突然ディノ・クライハーツ様の名を出されればな」


「……ま、まさか、あのことも言ったりしないでしょうね」


「三百年前、封印直後の宝玉を奪い、悪魔を我が身に取り込み、私は魔人となった!」


「言っちゃったーーーーーーーーーーっ!」


「しかし、アシュリー達は魔人の力を私の中に封じて無力化し、私に情けをかけて荒野へと逃がした!」


「もひとつ言っちゃったーーーーーーーーーーっ!」


「それでも三百年後、私は私の中の封印を解き、今ここに魔人の力を取り戻したのだ!」


「結局全部言っちゃったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 全部言われた。


「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわどどどどどどどどどどどうしましょうどうしましょうどうしましょう」


 これ以上ないってくらいオロオロアタフタ動揺している聖女様。

 クロアの話を聞いた街の人達のざわめきも、より大きくなっている。


「我が目的は、再びこの世を悪魔が闊歩する世界に戻すこと! 我と道を共にせんと望む者は我が元に集え! 旧ルベール帝国皇城にて待つ!」


 自分の目的を言って人材募集をかけるクロア。

 そんなアホなことのために集まるやつなんているのかね。

 女の子ばっか集まりそう。

 言いたいことを言ったあと、クロアは自身の真下にある光の塔へ顔を向け、


「忌々しい……」


 不快気につぶやき、後ろへと下がりながらブランへ小さくアゴをしゃくった。


「はっ」


 それを見て力強く頷いたブランは、両腕を夜空へ向かって伸ばし、一呼吸の間をおいて、


「『天に焦がれ雲を纏いし空の支配者よ 穢れた有象無象を誅する者よ 我に力を授け 腐敗した地上に憎悪の光を落とせ』!」


 呪文と思われる文言を詠唱し、


「『首無し竜の雷』!」


 叫んだ言葉と同時に両腕を振り下ろした。

 次の瞬間…………瞬間………………瞬間…………………………


「……」


 何も起きなかった。

 一年に一回くらいやってくる、かめ◯め波が出せそうな気分の日に、本腰入れて「かめ◯め波ぁっ!」と叫んだけど何も起きなかった時のような恥ずかしくも虚しい空気が漂って


「来い!」


「え? うわっ!?」


 いきなり手を掴まれ、光の塔とは反対方向へ走るリィザに引っ張られた。

 隣では聖女様も、陸上短距離選手のようなキレイなフォームで走っていた。

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