142.人気者
「ほえ~。昇竜の鱗ってのは、たいした代物ですね〜」
「ええ。あれがなくても私は飛べますが」
「聖女様、クロアのやつ逃げますけど、ほっといていいんですか?」
「よかないです。しかし、目の前にこの人がいますからね」
「ですよね〜……」
顔を正面へ戻すと、ブランの殺し屋みたいな鋭い目が僕へ向けられていた。
「ア、アロハー」
「……」
「た、大将行っちゃったよ? 追っかけないの?」
「……」
反応ないし。
さっきから超怖いんだけど。
「……おい」
やっと喋った。
「な、何ですか?」
「貴様、ディノ様に対し随分と失礼なことを言っていたな」
失礼……。
「ウ◯コマンのこと?」
「……そんなことも言っていたのか」
ヤベ。
「ディノ様に『お前』と言っていただろう!」
「……」
そんだけ?
「しかも、貴様のディノ様に対する軽々しい態度は何だ!?」
……もしかしなくても、この人が僕に怖い目を向けてた理由って、僕のクロアに対する言動が気に食わなかったからなのか?
でもそんなの、敵でもあり元仲間でもあるんだから何もおかしくないでしょ。
と言いたいけど、この人雰囲気が怖いというか危ない。なので、
「えっと、つい調子に乗っちゃったと言うか何というか……あの、すんませんです」
ペコペコ頭を下げて謝っといた。
あ、ちょびっとだけ表情から険がとれた。
「……簡単に頭を下げて、情けない男だ」
「ええ、自分情けないっス。サーセン」
「態度を改めろ。いいな」
「わかりました」
「おい」
「はい?」
「貴様、名は?」
「山本です」
「ヤマモトか。その名、憶えておくぞ」
言って、ブランは懐から昇竜の鱗を取り出し、拳で叩き、鱗が薄っすらと緑色に輝くのを確認して、クロアのように天井の穴へと飛んで行った。
「ふぃ〜」
額の汗を拭って一息ついた。
「目つきの危ないやつだったな。絶対あいつ変態的な性癖持って……何です?」
リィザが呆れた顔で僕を見ていた。
こっちを向いてる聖女様からも同じ空気を感じる。
「……お前、ヤマモトじゃないだろ」
「……バハムートさんですよね?」
「ええ。それが?」
「それがって……」
「どうしてウソの名前を言ったんです?」
ああ、そういうこと。
「危険な雰囲気の人だったから、名前憶えられたら厄介なことになりそうだなと思って」
ああいう類のやつとは深く関わらないほうがいい。
「ナイス判断でしょ?」
「クロアからすぐバレると思う」
「余計怒らせちゃうでしょうね」
「……」
「今気がついたって顔だな」
「厄介なことになりそうですね」
……もう会わないことを願おう。
「ジーナ! 室内の状況確認を!」
「はっ! 行くぞ!」
僕が異世界の神様に心の中でお願い事をしていると、聖室の出入口から声が聞こえてきた。
「どうやら聖杖騎士団の方々が到着したようですね」
聖女様の言う通りで、そちらを見てみれば、白銀色の甲冑を身につけた美人が三人、剣を手に持ち中へ入ってきた。
「……む?」
「煙が……」
「一体何が……」
聖室内を見回す団員さん達。
三人の目が一度こちらへ向けられたが、わずかに残る土煙で僕達の姿は確認できなかったようだ。
そんな中、一人の団員さんの視線が、正面百メートルほど先にある聖女様の石棺で止まり、
「……」
じっと目を凝らし、
「……あああっ!」
驚きの声を上げた。
「どうしました!?」
入り口手前で待機しているらしい団長様の美声が尋ねてくる。
「せ、せ、聖女様の、ひ、棺が……!」
声を震わせる団員さんを見て、残る二人も聖女様の棺へ顔を向けた。
「……あ、あ、あれは!?」
「な、なな何てこと!?」
さらに重なる団員さん二名の驚愕。
「ジーナ! どうしたのですか!? ……くっ! 総員っ、突入!」
団長様は状況を報告してこない三人に焦れたようで、他の団員さんを引き連れて聖室へなだれ込んできた。
「ラララ様の棺がどうしたと……なっ!? ひ、ひ、棺のフタが、ひ、開いている!?」
一度見たら死んでも忘れない、ウェーブがかった金髪ロングの絶世の美女が、フタが外された棺を見て大きく目と口を開けた。
後から入ってきた二、三十人くらいの団員さん達も、
「ど、どうして!?」
「キャァァァッ!」
と、口々に驚き、悲鳴を上げ、フラついてその場に膝をつく人までいた。
「フタが開いてるだけで大騒ぎっスね」
「それだけラララ様が愛されているということだ」
「私って、今でも人気者」
「これで中身がないって気づいたら、さらに大騒動になるんじゃないっスか?」
「だろうな」
気絶する人とか出てきそう。
「聖女様」
「はい?」
「一回棺に戻ります?」
「アホですか。……あの長い金髪さんが、リヴィエラさんとやらですか?」
「そうです」
「ふむふむ。……私のが勝ってますね」
「へ?」
「これ以上の騒ぎになる前に、聖杖騎士団の方達と合流しましょうか」
それはそれで、「聖女様が動いてる!」って騒ぎになるだろうけど。
「ディノ達は、すでに遠くへ逃げた可能性が高いでしょうが、事情を説明して辺りを捜索してもらいましょう。近くにいた場合、魔力のないディノはともかく、ブランは超危険ですからね」
「オス」
「はい」
ブランか……。
クロアを敬う男のなんて存在するんだな。
男の友達いなさそうなのに。
友達ではなく、部下だけど。
…………部下?
「あ、そっか」
軽く手を打ち合わせた。
「どうした?」
と、リィザ。
「いえね、始まりの森のほうから大きな音が聞こえたじゃないっスか? あれのせいで、クロアが光の塔に侵入できたり、腕に覚えのある人達がいなくなったけど、あの音ってブランが何かやったんだろうなぁと思ったんです」
「ああ、なるほど」
何をやったのかはわからないけど、ブランがやったのは間違いないだろう。
「確かにそうかもしれませんね」
聖女様は直接見聞きしていないが、僕が話した内容を思い出したようだ。
「空が光った後に大きな音がしたとなると、ブランがよく使っていた、あのオリジナル魔法を森に…………」
「ラララ様?」
「どしたんスか?」
突然フリーズしてしまった。
「ラララ様はどうされたのだ?」
「さぁ? 予定より早くお迎えが来たとか?」
「『聖女の三百年後』(ピラリ)』
「ギャアーーーーーーーーーーッ! ミイラーーーーーーーーーーッ!」
「美の化身と謳われた私に向かって失礼でしょう!」
「自分でやったんでしょうが!」
「お二人とも! 急ぎここから脱しゅ」
「そこにいるのは誰ですか!?」
リヴィエラ様の声だ。
ようやく僕達に気づいたようだ。
えーと、何と答えたもんやら。
「騎士団の皆さん! 今すぐここからお逃げなさい!」
僕が考えてる間に聖女様が叫んだ。
逃げる?
「くっ、土煙が邪魔で顔が……あなたは誰ですか!? 教会の者ですか!?」
当然、顔も名前もわからない人に言われても聞き入れるわけはなく、リヴィエラ様が僕達の素性を問い質してきた。
「私は光の聖女ラララ・トレアドールです!」
聖女様自己紹介。
「そんなわけないでしょう!」
失敗。
「本当ですよ!」
「本当なわけありません!」
「みんな大好き聖女様なんですって!」
「ウソおっしゃい!」
「ウソ!? ウソと言いましたか!? あなたちょっと美人だからっていい気になるんじゃありませんよ!」
「何の話ですか!?」
「私だってお肉がついてた頃は世界中のイケメンから求婚されるほどのマブい女で」
「聖女様聖女様」
「みんな私をオカズに……ん? 何です、バハムートさん? 急用ですか? 急用でないなら後に」
「急用があるのは聖女様なんじゃ? すぐにここからお逃げなさいって」
「はうあっ!? そうでした! あの人が自分の美しさを自慢するからつい!」
「そんなんしてました?」
「騎士団の皆さん! 光の塔から出るのですよ! いいですね!」
「ですからあなたは何者ですか!? 塔から出ろとはどういうことです!?」
「私達もすぐに外へ出ますよ!」
まだアレコレと聞いてくるリヴィエラ様には取り合わず、聖女様が僕達も急かしてきた。
「何を慌てておられるのですか?」
リィザが説明を求めるが、
「私の杞憂かもしれませんので話は後ほど!」
とだけ言って、
「『風を纏わせ天翔ける我を支える神の名はハーミエル』!」
魔法で体を空中へ浮かせた。




