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138.オーマイガ

「どわぁっ!? げほっ、げほっ、な、何すんのさ!?」


「お前が言うな! あれは何だ!?」


「あれ?」


 リィザが指で示す先を見た。


「うわぁっ! クロアに剣が突き刺さっとる!」


「お前が刺したんだろ!」


「しかも霧に包まれとる!」


「目の前で見ただろ!」


「そもそもどうして剣がこないなとこに!?」


「お前が持ってきたんだろ!」


「そういやそうでした」


「バカムート!」


 むぅ。

 何でこんなことしたんだろう?

 自分がやった記憶はあるし、さっきまでは、クロアの胸を刺すことはやらなきゃいけないことのように思ってたんだけど……むしろ、やっちゃいけないことをやらかしちゃったんじゃ……。


「なんでこんなことに……」


 もうボーゼンって感じ。


「だからお前が」


「あ!」


「な!」


「え!? え!?」


 僕と聖女様の声に反応したリィザが、黒い霧に包まれたクロアへ目を向けた。


「あ……剣が、刺さっていく……?」


 リィザの言葉通り、黒い霧の中に薄っすらと見えるクロアの体に、剣が深く深く刺さっていってるように見える。

 けれど、刺さっていってるというより、


「いえ、あれは……同化?」


 聖女様の表現のほうが的確かもしれない。

 黒い剣がクロアの体の中へ溶け込むようにどんどんと沈んでいってる。

 そのまま柄の部分まで飲み込み、体を覆っていた黒い霧もクロアの胸の傷へと吸い込まれて消え、後には傷ひとつない綺麗な体のクロアが横たわっていた。


「……」


「……」


「……」


 何が起こっているのかさっぱり理解できず、困惑したまま三人してじっとクロアの様子をうかがう。

 そんな、静まり返った地下室内で、突然、


「ぐおおおおおぉぉぉぉぉああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 クロアが吠えながら、跳ねるように上半身を起こした。


「キャアァァァァァァァァァァッ!」


「ひょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 三人そろってビックリ仰天。


「ぶはぁぁぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、うぐっ、げほっ、げほっ、はぁっ、はぁっ」


 荒く息を吐きながら、死んでいたはずのクロアが起き上がろうとしている。


「ク、クロア……」


「デ、ディノ……」


「なんまんだぶなんまんだぶなんまんだぶ……」


 痙攣したように震える足に力を込め、よろけながらも、水色の髪に白い肌の人間状態のクロアが、整った顔を歪めながらその場に立った。


 生き返っちゃったよこいつ……。

 立っているのもやっとといった様子のクロアが、こちらへ顔を向け、


「き~さ~ま~ら~~~っ!」


 地の底から響いてくるようなおどろおどろしい声を吐き出した。


「よくもぉ……よくもぉ……よくもぉ、よくもぉ、よくもよくもよくもよくもよくもっ!」


 目玉をひん剥いて同じ言葉を繰り返す様が、これまた不気味だ。


「……デ、ディノ」


 そんなクロアへ聖女様がおそるおそる声をかけた。


「あ、あなた、生き返ったのですね……。い、一体、どのようにして……?」


 しかしクロアは、問いかける聖女様にではなく、自分のことを刺したリィザにでもなく、なぜか僕を睨みつけてきた。


「バハムートォォォ……」


「……(ゴクリ)」


 危ない雰囲気で気色悪いので、とりあえず聞こえなかったふりをしてリィザの後ろに隠れ


「バハムートッ!」


 ようとしたけど無理っぽい。


「……はい」


 知らない番号から電話がかかってきた時みたいなテンションで返事した。


「お前がぁ……お前がぁ……お前がぁ、お前がぁ、お前がお前がお前がお前がお前が」


「オーマイガ?」


「黙れぇぇぇっ!」


 そう聞こえたから。


「ぐっ、げほっ、げほっ、ごほっ」


 興奮しすぎたのか咳き込むクロア。


「お、おい、大丈夫か?」


 リィザがクロアを心配して近づこうとした。


「ちょっとちょっと姐さん、近寄っちゃダメっスよ。あいつ敵なんスから」


「あ……うん、そうだったな……」


 そう言いつつも、リィザは落ち着かない様子でソワソワしてる。

 条件反射的なもので、世話を焼こうとしちゃうのかね。


「げほっ、ごほっ、バ、バハムートォッ! お、お前、げほっ、げほっ」


「……生き返ったんスね」


「げほっ、あ、ああ」


「……すごいっスね」


「ごほっ、あ、ああ」


「……生き返ったところで誰も喜ばないのに」


「うるさいっ!」


 怒られた。


「お前がぐだぐだせずにさっさと行動していれば……クソッ!」


 ぐだぐだ?


「何のこと?」


「剣のことだ!」


「剣?」


「なぜ素直に命令を聞かんのだ!」


「……何言ってんの?」


「なるほど、そういうことでしたか」


 聖女様が、謎が解けた探偵のようにしゃしゃり出てきた。


「聖女様、わかるんですか? あのキチ……タフガイの言ってることが」


「わからいでか。ズバリ!」


 聖女様が僕へ人差し指をズビシッと突きつける。


「あなたは操られていたのです!」


「な、何ですと!?」


 僕が操られて……。

 聖女様の隣でリィザもコクコク頷いてる。

 どうやらこちらもわかってたっぽい。


「そ、そんな!? 一体全体どうやって!?」


「おそらくディノの剣が関係しています」


「剣が!? 剣でどうやって僕を操ったんですか!?」


「それは……剣にかけられた……魔法? 的なもので?」


「魔法的なもの!? つまり剣というより魔法的なもので僕は操られていたと!? でも僕にはそんな感覚ありませんでした! どうしてですか!?」


「……なんか…………そういうもんだから?」


「なんかそういうもんだから!? なんて奥の深い言葉だろうか!? 深すぎて理解が及ばない! そういえばさっきから喉が渇いて……ハッ!? ま、まさかっ、これもクロアに操られていたせいで!?」


「……はい。あ、やっぱ違」


「そうか、そうなのか、そうだったのか。僕の知らぬ間に喉までカラカラにされてしまっていたのか。さすがは魔人の力をその身に宿せし男よ……」


 あやうく喉が渇きすぎて自動販売機のことしか考えられなくなるところだった。


「しかぁし! 僕を操ろうなんて十年早いぞっ、魔人クロア!」


「……もう操り終わったんだがな。あと、ラララの言っていることは、最初以外適当だ」


「ギクリ」


「プププ。おいおい、クロちゃんよぉ。うちの聖女様に全部見透かされたからって、そんなウソは通用しないぜ。ね、聖女様」


「……」


「ほら、聖女様もバカバカしくて言葉もないってさ」


「私の剣は、私自身の魂を削って作り出したものだ。この肉体にあった魂は殺された。だが剣の中にある魂までは殺されていない。そこで、剣に触れた貴様を剣の持つ力、『魅了』で操りこの体に魂を移させたというわけだ。喉が渇いている理由は水分を補給していないだけだろう」


 ……ほほーう。

 確かに、剣は自分の魂から作ったとか言ってたな。けど、


「聖女様、クロアのやつ何だかそれっぽいことを言ってやすが、あんなん全部ウソっスよね?」


「そんな方法で……」


「……聖女たま?」


「あ、私が言ったの適当です。しかしディノ! 生き返ったからといってここから逃がしはしませんよ!」


 ウソついたばっかなのに、悪びれることなく胸を張るその堂々としたお姿と言ったら。

 やはり光の聖女の二つ名は伊達じゃない。


「ラララ様……」


 リィザは悲しそうな目をしてるけど。

 そーいや、ご飯食べて以来何も飲んでなかった。


「チッ。おいっ、バハムート! 貴様が素直に操られていれば、私はここから逃げられたかもしれんのだぞ!」


「知らんがな」


 つーか、逃げられないようにしたってんなら、それは僕らにとって良いことだし。


「それを貴様は、剣を置いて行こうとするわ、剣が黒いままであることがおかしいと喋ろうとするわ、首を斬ろうとするわ……貴様の頭の中はどうなっているんだ!」


「知らんがな」


 あ、でもその三つって、記憶がぼんやりしてるやつだ。


「なるほど、そういうことでしたか」


「聖女様」


 またしゃしゃり出てきた。


「クロア、何が言いたいのだ?」


 しかし、リィザが割って入った。


「リ、リィザさん?」


「そうだ、わかるように言え」


 僕が続いた。


「バ、バハムートさん?」


「貴様を操るために魔力を使ったということだ」


 クロアが話し出した。


「……私、わかったのに」


 聖女様がすねた。

 聖女様をほったらかしてクロアが話を続ける。


「命令するには魔力がいる。剣で私の胸の傷をなぞるように刺せと命令し、サッチュウザイに近寄るな、首ではなく胸だと言っただろバカムート、などさらに命令を追加し、加えて非力なお前に力も貸し魔力が尽きた。剣に入っていたのは魂の欠片ゆえ、微々たる魔力しか持っていなかったからな」


 色んな命令出されてたんだな。


「出す命令を一つ二つで済ませることができていれば、自力で逃げられる算段もあったというのに……」


 クロアが悔しそうに拳を固く握った。

 つまり、僕って知らず知らずのうちにファインプレーしてたってことか。


「でも、魔力がないとか話しちゃっていいの? あ、もしかして、魔力がないってウソついて、僕達を油断させてその隙に」


「私が気づいているからですよ」


 そう答えたのは聖女様だ。


「せっかく私が説明しようとしたのに……」


 まだ無念そうだ。


「私が魔力はゼロだと気づいているから、ディノは話したのですよ」


「フンッ、そういうことだ」


 腹立たしそうに言ってくるクロア。

 そっか。聖女様って復活した後すぐに、クロアの魔力がないって見抜いてたもんな。

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