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135.ゴイスー

「さすが聖女様です。アホなことをしたクロアをそれでも仲間って言うなんて。聖女様は超聖女様っスね」


「オホホホ、さほどのことでも」


「もしかして、聖女様とクロアって仲間以上の恋人って関係だったとか?」


 ポカッ


「あた」


 リィザに頭はたかれた。


「失礼なことを聞くな」


「だって、すごくクロアのことを考えてるというか、想いやってるというか」


 クロアが正しい心を手に入れたら、自分も目覚めるようにセッティングしてたし。


「申し訳ありません。うちのバハムートがバカムートで」


 頭を掴まれリィザと一緒に下げさせられた。


「オホホホ。まぁまぁ良いではありませんか。バハムートさんもお年頃。恋バナに興味を持つのは、いと仕方なしですよ」


 しかし、聖女様に気にした様子はなく、大人のお姉さんな対応が返ってきた。


「当時も、私とディノがアベックだと思っている方がたくさんいたものです。しかし私達は、ねんごろな間柄ではありませんよ」


 違うのか。


「ただ、ディノは私にお熱だったでしょうけどね」


「おお、さすがは美聖女様。あのスカしたイケメンさえも夢中にさせてしまうとは」


「ええ、本当に私ってさすがです。普段歩いている時でもディノは、やたらと私に『前を歩け』と言って、後ろからねぶるような視線を送り」


 ガタッ


「ズボンのポケットに手を入れるふりをしてオナ……あら、何でしょう?」


「何スかね?」


「ん?」


 聖女様の思い出話の途中で音が聞こえ、僕達がそちらへ顔を向けると、石像の台座に立てかけておいたクロアの黒い剣が床の上に倒れていた。


「ああ、ディノの剣ですか。ホホホ、過去の恥ずかしい話をされて、止めようとしたのかもしれませんね」


 あいつプライド高いから、生きてたら即止めてただろうな。


「これ以上ディノの変態性を白日の下にさらすのは可哀想ですね。やめといてあげましょう」


「じゃあ、クロアのとこに行きますか」


 そう思い、聖女様に尋ねると


「あ、私荷物回収しないと」


 リィザが、クロアの遺体の七、八メートルほど手前で散らばっている物に目を向けた。中には殺虫剤も転がっている。

 なるほど。確かに拾っておかないといけな……


「……あれ?」


 なんだかとてつもなく重要なことを聞き忘れているような気がする。


「どした?」


 リィザが僕の顔を覗き込んでくる。

 リィザ……そう、こちらへ戻された時、リィザが殺虫剤を手に持っていて、クロアは目を押さえて苦しんでいて、リィザの側では荷袋の中身が散らばっていて、でも再召喚される前はそんな状態では……召喚?


「……そうだ」


 思い出した。


「姉御」


「何?」


「どうやって僕のこと還したんスか?」


「あ」


「もう魔力ないって言ってましたよね? どうやって還してどうやって再召喚したんスか?」


 魔力がないからこっちに残ることになったのに、還されて、また喚ばれたんだった。一体どういうことだ?

 と思い尋ねたが、


「……えーと……あー……」


 リィザは目を泳がせ、気まずそうな顔。


「どしたんスか?」


「……あー……それは……」


「それは?」


「……百年後に説明してやる」


「どんなに頑張ってもギリギリ死んでると思うんで今頼んます」


「なんの話です? 召喚って?」


 アゴに指を当て、可愛らしく首を傾げる聖女様。


「実は、僕はですね――」


 聖女様に、僕が召喚獣バハムートとして喚ばれたこと、日本という違う世界からきたこと、あとクロアと戦っている最中、魔力がないはずのリィザに一度還されてまた喚ばれたことも話した。


「なるほど。それはまた不思議な話ですね」


「でしょ?」


「ふむふむ。異世界ニッポンですか。召喚人間というのは本当だったんですね」


 そういや最初に言ったんだった。


「あなたの召喚については謎ですが、リィザさんが魔力を作り出した方法はわかりますよ」


「作ったんですか?」


「ええ、生命力を魔力に変えて」


「生命力を……」


「治癒魔法をかけた時に、命を削って魔力を作り出した跡がありましたよ。あれって、バハムートさんを帰還させて召喚するためだったんですね」


「……」


 それって、クロアが魔力を作り出した方法と同じじゃないか。


 ……いや、なんとなくそうじゃないかとは思ってたんだ。でも、本当にその方法を使うなんて……。


「リィザさん……」


「……」


 僕に呼ばれたリィザは、気まずそうにあさっての方向を向いていた。


「今の話、本当ですか?」


「……うん」


 うんって……。


「何考えてるんですか!?」


 感情が溢れ出し、つい声を荒げてしまった。


「どうしてそんな無茶……」


 ……どうしても何もないよな。

 それ以外に方法がない状況だったんだ。

 殺されかけてた僕を助けるためには。

 そして、僕を信頼してくれたからこそ、リィザは命を削って魔力を作り出し、僕のやろうとしてたことに賭けてくれたんだ。

 だったら、僕が言うべきは、


「……大声出してすみません。僕のこと信じてくれて、すっごく嬉しいです。ありがとうございます」


 非難の言葉ではなく感謝だ。


「……うん。私のほうこそごめんな。黙ってて。教えたらお前、気にすると思って……」


「そりゃあ……」


 気にする。

 僕のために寿命を減らしたんだ。

 気にしないわけがない。

 リィザが気まずい顔をして口をつぐんでたのは、そういう理由があったからなんだな。

 しかし、聖女様が教えてくれて良かった。

 もし気づくのがもっと遅かったら、自分のマヌケっぷりに号泣してた。


「聖女様、教えてくれてありがとうございます」


 ペコリと頭を下げた。


「いえいえ、お礼を言われるようなことは何もしていませんよ」


「リィザさん」


「ん?」


「もう一度、ありがとうございます。これからは、不平不満を言わず、リィザさんについて行きます。よろしくお願いします」


 腰を折って深く頭を下げた。


「……ああ、こちらこそ末永くよろしくな。フフフ」


 頭を上げてリィザを見ると、あどけない表情で、可愛らしく微笑んでいた。


「……もしかして、私ってお邪魔?」


 聖女様が変なことを言い出した。


「何言ってんスか。聖女様にいっぱい助けてもらってるのに、お邪魔なわけないですよ」


「そういうことでは……あー、まぁいいです」


 何なんだ?


「リィザさん、今日は大変な思いをしましたね。命を削ることになるだなんて」


「お気持ち、痛み入ります……」


「ですがその命、私が元に戻しておきましたよ」


「え!?」


「マジんコっスか!?」


「マジんコっス」


 リィザも僕も目を丸くして聖女様を見つめた。


「私は聖女。それくらいできずにどうしますか」


「すごいです聖女様!」


「え、何です?」


「すごいです美聖女様!」


「え、何ですって?」


「超ゴイスーです美聖女戦士様!」


「え、どれくらいですって?」


「宇宙で一番のゴイスーです!」


「そんなにゴイスーですか?」


「ゴイゴイスーです!」


「それは褒めすぎですよ。オホホホ」


 まさか、怪我だけでなく命の修復までできるなんて。


「……聖女ラララ・トレアドール様」


 リィザが潤んだ瞳を聖女様へ向けている。


「ケガを治していただいたばかりか、命まで元に戻していただいて……私は、何とお礼を言えば良いのか……」


「気になさる必要はありませんよ。治せるから治した。ただそれだけのことです。ささ、涙をお拭きなさい」


「……はい。真に、ありがとうございます」


 リィザは、片手を胸に当て、うやうやしく頭を垂れてお礼を言った。


「オホホ、本当にお気になさらず。あまりに多くの生命力を魔力に変えていたならば、全てを元に戻すことは難しかったでしょうが、今回はさほどでもありませんでしたから」


 さほどでもか……。


「聖女様、リィザさんは寿命でいうと、何年分くらいを魔力に変えたんですか?」


「そうですね……約二」


「二年分も!?」


「回呼吸をするくらいでしょうか」


「………………二回呼吸をするくらい?」


「ええ、二回呼吸をするくらい」


「吸って吐いての?」


「吸って吐いての」


「二回?」


「くらい」


「……」


 すーはーすーはー。

 三秒くらいじゃね?


 そういや、僕って喚び出すのにほとんど魔力使わないんだった。

 還す時も少しでいいんだろう。

 だから、還すのに呼吸一回分、喚ぶのに呼吸一回分って計算か。


 三秒か……。

 いや、三秒でも僕のために命を削ってくれたことに変わりはない。

 とてもありがたいことだ。

 たとえそれが三秒でも……三秒でも…………三秒か……。

 寿命がきて死にそうになっても、三秒くらいなら粘れそうな気が……でも、その気合を込めて生きた分から三秒引かれるってことで……でも、引かれたところから三秒粘ったらいいじゃんってことで…………よくわからん。


 とにかく、リィザは僕を信じて命を懸けてくれたってことだ。

 そのことに変わりはないんだよ。うんうん。

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