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13.『さん』な

「どうした?」


「……」


 お前の世界……。


「……あの」


「うん?」


「ここってどこ?」


「お前、さっきから変なことばっか聞いてくるな。ここはハーラスという廃村だ」


 廃村。どおりで小屋はあるのに人気はないはずだ。でも、


「そういうことでなく、ここがどういうところで、何でハーラスとやらにいるの?」


「ん? ん? ここは人が住まなくなった村で、生前に恨みのある人間しか襲わないはずのゴーストミストが、お墓参りに行くたびに取り憑こうとしてくるようになったんで何とかしてほしい、と相談を受けて私達がやってきたんだ」


 それでネクロマンサーがいなくなったら、ゴーストミストは僕を追ってこなくなったんだな。なるほど。でも、


「廃村の意味は知ってるし、皆さんがここにいる理由が知りたいんでなく、えーと……この世界と、僕がここにいる理由が知りたいってことなんだけど」


「世界? ん? お前がここにいる理由なんて言うまでもないだろ? 世界? 世界が知りたい? ん?」


「……」


 全然話が進まない……。


「あー……あ、そうだ。日本って知ってます?」


「二本」


 ピース。


日本(にっぽん)って知ってます?」


「ニッポン? ニッポンって何だ? 人? 食べ物? 地名?」


「地名っス。じゃあアメリカは? ドイツは? おフランスは?」


「私は聞いたことない。けど……」


 金髪さんが水色イケメンに目を向ける。


 イケメンは、いつの間にやら胸当てと剣を外し、黒シャツ黒ズボン姿のラフな格好になって、折りたたみ椅子のようなものに座っており、金髪さんと目が合うと、眠そうな顔で首を左右に振った。


 やることないなら薪拾いに行けばいいのに。


 しかし、二人いてどっちも日本やアメリカを知らないとは。

 

 でも何か、知らないって言葉にとてつもない違和感が……あ。


「そう! そうだよ! 二人とも日本の言葉喋ってるじゃない! しかも会話だってできてるじゃない! だったら日本知ってるでしょ!?」


 日本語で意思疎通できてるのに、知りませんなんてありえない。

 僕をからかってるとしか思えない。

 しかし、


「「?」」


 二人とも真顔で首を捻っている。

 僕をからかってる雰囲気ゼロ。


 イケメンなんて、首を捻ってヤレヤレポーズきめて、人差し指で自分のこめかみをトントンしてる。頭がおかしいのはお前だってのに。


 そのイケメンで頭のおかしい水色が、ため息交じりに僕に言う。


「あのな、私達が話しているのは中央大陸語だ」


「中央大陸語……」


 何それ?


「私達はニッポンという場所を知らん。アメリカもドイツもオフランスも知らん。もちろんニッポンの言葉もな。私達が会話できているのは、私達の言葉がお前の耳へ届くとき、お前が最も使う頻度が高いであろうニッポンの言語に変換されているからだ。同時にお前の言語も私たちの耳に入るとき、中央大陸語に変換されている。お前が主人とつながっているからな」


「つながってるから…………え? 主人?」


「こんなことを説明せねばならんとはな。お前、召喚獣としてどこか抜けているのではないか?」


 ……………………………………………………召喚獣?


「……」


「何をアホみたいに口を開けている?」


「アホはお前だ。その召喚獣って僕のこと?」


「そうだ。言うまでもないだろアホ召喚獣」


「言うまでもあるだろアホ水色。何で僕が召喚獣?」


「貴様はバハムートだろうが。召喚獣ごときが私になめた口をきくなアホが」


「そんなこと言うアホだからこんな口きかれてんだろアホ。思い出したんだけど、何でみんな僕のいじられネーム知ってんの? 金髪ガーターベルトさんも『イッケーーーッ! バハムートーーーッ!』って馬鹿の一つ覚えみたく叫んでるしさ」


「き、金髪ガーターベルト!? ば、馬鹿!?」


 金髪ガーターベルトさんがもともとの猫目をさらに吊り上げた。


「……貴様、ふざけるのも」


「ふざけるな! 主に向かって馬鹿とはなんだ!」


 椅子から立ち上がりかけたイケメンのセリフに割って入るように、怒りの言葉をぶつけてくる……主さん?


「たかだか二度の戦闘に勝利したくらいで調子に乗っているんだろ! まったく、お前のような常識外れの召喚獣など見たことがないぞ! それとよく聞け! 私の名前はリィザ・ライン・ハイエスだ! 金髪ガーターベルトではない! 良く憶えておけ!」


「……」


「……なぜ黙る? どうして驚いたように目を見開いて私を見つめる? まさかこっちの男が主人だと思っていたのか? いくらお前が常識外れと言っても、さすがにそのようなことはないと思うが」


「……」


 ……今朝の巨大な蚊、さっきのゴーストミストとネクロマンサー、ファンタジーでしか見ないような格好をした五人、喋るポメラニアン、あるらしい魔法に怪我を瞬時に治す薬、召喚獣バハムートと呼ばれる僕。


「……マジか」


「何が?」


「……これは現実か?」


「だから何が?」


「……僕は、召喚獣として、異星だか異次元だか異世界だかへ喚ばれたってことなのか……」


 問いかけたわけではなく、ただ独り言のように呟いただけだったが、


「ああ、そうだ。お前にとっては異世界だな。今さら何言ってんだ?」


 しっかりと、金髪さん改めリィザから答えが返ってきた。


「……」


 その僕のご主人様らしいリィザ・ライン・ハイエスさん。ショートボブの金髪女子で、何を着ても似合うだろう雑誌のモデルさんのような長い手足に、これ何頭身になるの? ってくらい小さな頭で、真っすぐ人を見つめてくる魅力的な碧い瞳を持った、テレビでもなかなかお目にかかれないほどの、メイクいらずの美少女さんなのだが、


「……ふぅ」


「……何で私の胸見てため息ついた?」


 夢……じゃないよな。

 夢ならここももっとあるはず。


 しかし、目の前の彼女の姿が教えてくれる。

 違うんだって。


 夢じゃ……ない。

 胸が……ない。


「これが現実か……」


「さっき、『これ()現実か?』って言ってなかったか? なんで『が』になった? なんとなく殴っていいか?」


「……」


 ……異世界か。


 すべてを今すぐ受け入れられるわけじゃないし、信じられないという気持ちも残っている……が、あれこれ考えるよりも、今はできることをやるほうが賢明だろうな。


「……それで、何で僕はここに喚ばれたの?」


「は? お前、さっきも同じようなこと聞いてたな? どうしてわかりきったことを尋ねる?」


「わかりきってないからなんだけど」


「……いや、お前どうしてあんな小物相手に自分を召喚したのだ? と言いたいのか? なら理由は単純だ。お前の実力を試すためだ」


「実力を?」


「ああ」


「……てことは、イケイケってのは僕に戦えって言ってたと?」


「当然だろ」


 確かに。僕が召喚獣ならば、だけど。


「……もしかして、朝もさっき戦ってるときも、手助けしてくれなかったのって、僕の実力を試すためってこと?」


「まぁ、そういうことだ」


 なるへそ。

 そうとは知らずイケメン君に突っかかって悪いことしたな。


 ……そうでもないな。

 あいつの言動に問題があるわけだし。


「じゃあ、どうして僕はこの世界に喚ばれることになったの? 昨日まで喚ばれたことなかったのに」


「昨夜から入っていた洞窟でお前を喚ぶための召喚術式を見つけてな」


「召喚術式?」


「うむ。それで今朝早速私が喚んでみたのだ。召喚術を操れるのは私しかいないし、なにより私が発見した術式だからな」


 召喚術というワードはなんとなくわかる。が、


「どうして洞窟に僕を喚ぶ術式が?」


「知らん」


 知らんて……。


「みんなは、こんな何でもない洞窟にバハムートの召喚術式なんかあるわけない、ヘンテコな召喚獣の術式だろうと言っていたが、私は確信していた。立派な召喚獣バハムートを喚ぶことができるとな」


 キラキラした目で僕を見るリィザ。

 そんな目で見られると言いづらいが正直に伝えるしかないよな。


 えーと、名字はハイエスでいいのかな?


「あのですね、ハイエスさんの言ってる」


「リィザでいい」


「リィザの言ってる」


「『さん』な」


「……あのですね、リィザさんの言ってるバハムートって、ドラゴンみたいなやつのこと?」


「もちろん」


「それが僕だと?」


「もち」


 もちか……。


「僕って人間に見えない?」


「見える」


「じゃあ、何でバハムート?」


「擬態してるんだろ。わかってる」


「擬態……」


 イケメンも「擬態したままで倒すとは」って知ったかこいてたな。


 小さい頃からこの名前のせいでバハムートとからかわれることはあったが、まさかバハムートとして召喚される日が来ようとは。


「えーと、色々期待されてるようで言いづらいんですけど、はっきり言いますね。僕の名前は羽場武刀。似てるけどバハムートじゃないです。そして、擬態してません。ただの人間で、召喚獣なんて呼ばれる獣じゃないです」


「……」


 リィザが、小首を傾げて目をパチパチした後、首を戻し僕をじーっと見る。


「……ハバ……ムトー……」


「うん」


「っていう名前のバハムート?」


「違う」


「人間……」


「うん」


「の娘に恋をして自分も人間になりたいと願うバハムート?」


「違う」


 何その乙女な発想。


「……では、その……ホントに?」


「ホントに」


「……」


 ビックリ眼のまま硬まってしまった。

 これはわかってもらえたってことかな。


 納得してもらえるまでもっと時間がかかると思ってたけど、案外すんなりと僕の言ってることを受け入れてくれた。


 いや、僕のことを召喚獣バハムートだと思い込んでいたことのほうが不思議ではあるか。


「フフフ……」


 あっさり理解を得られてホッとしていると、ふいにイケメンが笑い出した。

 きっとアリの巣穴にツバでも垂らして楽しんでいるのだろう。


 そっとしておいてあげよう。

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