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120.大好きだ

「……え、えっと……え? な、何だ? ど、どういう……」


「聞こえなかったのか。まったく……」


 面倒そうに、クロアが後ろ髪をガシガシと掻く。

 戸惑うことさえできないほど思考停止しているリィザに、クロアは、


「よく聞け」


 しっかりと視線を合わせ、


「お前は、もういらない。どこへなりと好きな所へ行け」


 今一度同じ言葉を突きつけ、突き放した。


「……」


 リィザはしばしクロアを見つめ、


「……あ! そ、そっか! こ、これも冗談か! ハ、ハハ、そ、そっかそっか、そういうことか、ハ、ハハハハ」


 強引に笑おうとしたが、かすれたような声が出るだけで、うまく繕うことはできていなかった。


「リィザ」


「ハハ、ハ……ん? な、何?」


「私は冗談を言っているように見えるか?」


 クロアが何の感情も載っていない顔をリィザへ向けた。


「で、でも、じ、冗談じゃないなら、い、一体……?」


「……」


 クロアは答えない。

 同じ表情でリィザを見ている。


「ク、クロア……」


 リィザの瞳が戸惑うことを思い出したように不安に揺れた。


「……ほ、本当に?」


「……」


 クロアからの返答はない。が、その他人を見るような黒い目が、口以上にはっきりと語っていた。


「ク、クロア、こ、答えてくれ。わ、私は、その、ほ、本当に……」


「はぁ~」


 クロアが面倒臭そうに、またため息を吐き出した。


「あのな、私は皆の荷物と金を盗んだ。荷物は売った。金にして必要なものを揃えるためにな。お前の聖印は、用が済めば捨てるつもりだった。パルティア教に興味が出てきたというのはウソだ。上にいた連中に眠り薬を撒いたのは私だ。お前達が騒いでいた巨大な気配は私のもの。光の塔へ侵入したのはラララの心臓に剣を突き刺し封印を解くため。お前も見ていたろう? 結果、私の中にあった封印は解け、私は魔人として復活した。全て事実だ」


「……」


「もちろん、お前をいらないと言ったこともな」


「ッ!?」


「理解できたか?」


「……」


 リィザが顔を俯け、両拳を固く握り締める。

 全身が小刻みに震えていた。


 悲しいのか、寂しいのか、くやしいのか、切ないのか、苦しいのか。恐らく、ありとあらゆる感情がうねりにうねって、リィザの心の中をぐちゃぐちゃに掻き乱しているのだろう。


「やれやれ、こんなことをわざわざ説明せねばならんとは」


「……ハ、ハハ……ハハハハハ」


 俯いたままのリィザの口から、感情の読めない笑い声が漏れた。


「クロアが、そんなこと言うわけない……」


「……」


「だって私達は、ずっとずっと仲間なんだから……」


「……」


 願うように言葉を紡ぐリィザ。

 それを黙って聞いていたクロアは、


「本当だ」


 ただ一言、事実であることを告げた。


 こんなの、ずっとクロアを心配していたリィザに対してあまりに酷すぎるとは思う。

 けれど、リィザもこれで、クロアが危険人物だと認識を改めることができただろう。


「リィザさん、もうわかったでしょ? だからさっき、さっさと逃げときゃ」


「黙れ……」


「良かっ……え?」


「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 悲鳴のような絶叫が、聖室内の空気を震わせた。


 リィザがゆっくりと顔を上げた。

 その目からは、とめどなく涙が溢れ出していた。


「うぅっ……言って、くれたもん……ぐすっ……だ、誰も、仲間に……んぐっ……なって、くれなくて……ひっく……ず、ずっと、ひ、ひとりで……えぐっ……た、旅を、してて……ふぐっ……さ、寂しくて、お、お腹も空いてて……」


 顔をくしゃくしゃにして、リィザがクロアを見つめる。


「そ、そしたら……んぐっ……ク、クロアに、出会って……えぐっ……い、一緒に、来いって……ぐすっ……な、仲間になろうって……ふぐっ……い、言って、くれたもん」


 涙も拭かず、心から信頼する相手を真っ直ぐに見つめている。


「い、色んな、く、国のこと……ぐすっ……お、教えて、くれて……ひぐっ……せ、世界中を……んぐっ……た、旅しようって……ぐすっ……わ、私達は……ふぐっ……ず、ずっと……えぐっ……ずっとずっと、仲間だって……うぅっ……い、言ってくれたもん……ぐすっ……言ってくれたもん!」


 温かい言葉を求めて仲間を見つめ続ける。


 ……なんとなくリィザがクロアに、それでもそれでもと信頼を寄せる理由がわかったような気がした。

 かけてもらった言葉のひとつひとつが心震えるほど嬉しかったんだな……。


 しかしクロアが、そんなリィザに返したものは、


「あんな言葉、ウソに決まっているだろう」


 あまりに残酷すぎる現実だった。


「うぐっ……うえぇぇぇぇぇっ、うわぁぁぁぁぁっ、ウソじゃないっ! ウソじゃないもんっ!」


 リィザの泣き声は一層大きくなり、


「……チッ」


 泣き止まないリィザに、クロアがイラ立った目を向けた。


「あのな、お前を拾ったのはただの気まぐれだ。その時にかけた言葉も適当に言っただけだ。お前に対する思い入れなど私にはない」


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、クロア! クロア!」


「そもそも私は、お前のことが嫌いだったよ」


「ひぐっ!?」


 リィザの顔が凍り付いた。


「私の喋り方を真似、私の動きも真似、私の言うことをなんでも信じ、どこへ行くにも私の後を犬っコロのようについてくる。鬱陶しくて仕方がなかった」


「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 クロアの本音を聞いてしまったリィザが、気がふれたように泣き叫ぶ。

 叫びを聞いている僕にまで、リィザの発狂しそうな哀しみが伝わってきた。


「フンッ。どうせお前は、一度言っただけでは理解できんだろう。何度でも言ってやる」


「ヤだぁぁぁぁぁっ! 言うなぁぁぁぁぁっ!」


「リィザ」


「ヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


「私は」


「聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない!」


「お前のことが」


「言うなぁっ! 言うなぁっ! 言わないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


「心底大嫌いだったよ」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 リィザは、目を閉じてコートの胸元を強く握りしめ、壊れそうになる心を守るようにその場にうずくまってしまった。

 クロアは、リィザのそんな様子を、醜く歪みきった薄ら笑いを浮かべて見下ろしていた。


「フッ、これで私も少しは気が晴れた」


「……」


「バハムート。貴様もこの女をバカだと思ってるんだろう?」


 黒い炎に包まれてる中でも、僕がリィザにバカと言ったのが聞こえてたんだな。


「……」


 チラリとリィザへ目を向ける。


「えぐっ、ぐすっ、うぅぅぅっ」


 もちろん泣き止む様子はない。


「泣いて、叫んで、わめき散らして……。勝手に私を信じたリィザがバカなだけだ。そう思うだろう?」


 バカ、か……。


「……確かに、何でこの人こんなにクロさんのこと信じるんだろう? とか、何で僕の言うことは信じないんだろう? とか、正真正銘のバカなんじゃないか? とか思う」


「フハハハハハハハハハハッ、聞いたかリィザ!? ついにバハムートにも見捨てられたな! クハハハハハハハハハハッ」


「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ、お、お前まで、えぐっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


「ハハハハハハッ、この調子だとククにも見捨てられるかもな! どうせもともと一人だったんだ! また一人で旅をすればいいだろう! 寂しい旅をな! クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」


「ヤだぁぁぁっ! イヤぁぁぁぁぁっ! もう一人はイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「……でもね、確かにね、信頼しすぎだろうとは思うけど、そこはリィザさんの良いところだよ」


「ハハハ……ん? 何だ?」


「うぅぅぅ……ぐすっ……バ、バハムート?」


「たとえ周りに何と言われようと、一度信じると決めた相手のことは、とことん信じ抜く。なかなかできることじゃないよ」


「はぁ?」


「ぐすっ……お、お前……」


「確かにバカだなぁ、とは思う。でも、僕はリィザさんのそういうところ大好きだ」


「……」


「……」


「ハハ、お前とは逆だな、クロア」


「貴様……」


「自分を信じたリィザさんがバカ? ハッ、違うね。リィザさんの信頼を裏切ったお前がクズなだけだろ」


「バハムートォォォォォッ!」


「女の子泣かせて威張ってんじゃねぇよっ!」


「図に乗るなぁっ!」


 クロアが漆黒の剣を抜き放ち、こちらへ駆けてきた。

 殺気をはらんだ真っ黒な目が、僕を捕らえていた。

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