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113.アップリケ

「リィザさん! 明星のランプ取って!」


 リィザから明星のランプまではクロアと同じく一メートル。

 一歩近づき手を伸ばせば取れる。


「え? え?」


 しかしリィザは、いきなりのことでとっさに動けない。


「早く!」


「あ、ああ」


 リィザが戸惑いながらも頷き、左へ移動し、腕を伸ばして明星のランプを手に取る


「あ」


 前に、クロアがリィザの手を掴んだ。

 クロアは空いている手で明星のランプを持ち上げ、僕へ顔を向けた。


「気づいていたか、バハムート! フハハハハハハハハハハッ」


 愉快そうに笑うクロア。


「な、何?」


 意味がわからず首を傾げるリィザ。


「ぐっ」


 マズい状況に奥歯を強く噛みしめる僕。


「なぁ、バハムート。他にも気づいていることがあるのではないか?」


 リィザの手を放したクロアが、明星のランプを脇に抱えながら聞いてくる。


「ううん、全く」


「本当か?」


「うん。そもそも僕、何にも気づいてないし」


「今さら何を言う」


「本当だって」


「そうか……」


 クロアが僕へ観察する視線を向けながら、ローブのポケットから、四つの輪っかが串団子のように並んだパルティア教の聖印付きネックレスを取り出した。

 不快な気配の主を操るために必要と思われるアイテムのひとつだ。


「あ、私の……」


 リィザがそれを見て、ボソリと声を漏らした。


「……」


 だが僕は、何もリアクションをせず、「それが何?」って顔でクロアの持つ聖印付きネックレスをぼんやりと見つめた。


「……ふむ。何の反応もなしか」


 うまくいった。


「リィザが、『私の』と言ったにもかかわらず」


 あ。


「クハハハハハハハハハハッ、これがリィザのものだと知っていたな!? ハハハハハハハハハハッ」


 またやってしまった。

 リィザが『私の』と言ったんだから、『どうしてクロさんがリィザさんの聖印を持ってんの?』ってのが正解だった。


「くぅぅ……」


「フフ、悔しいのか、バハムート。貴様、案外わかりやすいやつだな。ククク」


 また僕を見て笑うクロア。

 なんつー腹立たしいやつだ。


「リィザ。お前、聖印のことバハムートに話したのか?」


「あ、そ、その……」


 気まずい表情でリィザがクロアを見つめる。

 クロアに聖印を貸してくれと言われ渡した時、このことは誰にも言わないよう頼まれたそうだからな。

 リィザとしては、申し訳ない気持ちになるのだろう。


「え、えっと」


「僕が気づいたの」


 だが、僕が強引に聞き出したのであって、リィザは自分から話しておらず何も悪くない。なので、口を挟ませてもらう。


「ほう……」


 今度は感心した目で僕を見てくるクロア。


「なぜ気づいた?」


「たまたまリィザさんが持ってた聖印見たら、前に見たやつより小さくて、クロさんの持ってた聖印と同じ大きさだったから、強引に白状させたの」


「ふむ。よく見ていたな」


「どーも」


 褒められているのかもしれないが、まったく嬉しくないので適当に返した。


「ク、クロア、あ、あの、ご、ごめんなさい」


 何も悪くないのにリィザが謝った。


「そ、その、何とか隠そうとしたんだけど、バハムートのやつ、気づいてるというか、見抜いてるみたいで、それでごまかしきれなくて……」


「そうか……」


「あ、あのあの、本当にごめ」


「もういい。黙っていろ」


「……うん」


 冷たく突き放すように言うクロアに、悲しそうに頷くリィザ。

 再会の喜びもどこへやら、すっかりリィザはおとなしくなってしまった。

 クロアとリィザって、二人だけの時は、こんな感じだったんだろうか。


「さて、バハムート」


 クロアは、明星のランプに付いているメロンのヘタのような持ち手部分を回して上部を外し、中にリィザの聖印を入れた。懐中電灯が入っているのは、半透明のガラス越しに見える。


 僕の予想では、明星のランプにオンになった懐中電灯とリィザの聖印付きネックレスを入れ光らせると、クロアの頭の上で何かが光り、不快な気配が発生するはず。

 今から使う気か?


「……」


「フフ、カイチュウデントウの入った明星のランプに、聖印を入れただけで、随分と目つきが険しくなったな」


「う」


 なるなってほうが無理だ。


「しかも、目が一瞬私のここを見た」


 クロアが自分の頭の上を指差す。


「あの時言ったウソもバレていたみたいだな、ククク」


 三日前、僕がクロアに「頭の上で何か光った?」と聞くと、クロアが平然と「いいや」と言った件だろう。


「なぁ、バハムート。そろそろ腹を割って話さないか? 貴様、全て気づいているのだろう?」


「全てって?」


「私がここへ来た目的にも気づいているんじゃないのか?」


「……」


 悔しいが、クロアの手の平の上で踊らされているような気分だ。


 クロアが光の塔へ来た理由は、悪魔の封印を解いて力を手に入れることだと思う。

 僕が予想している内容を知られてそれが当たっていた場合、僕だけでなく、話を聞いたリィザも何をされるかわかったもんじゃない。

 知らぬ存ぜぬを貫き通さないと。


「……言うつもりはない、か?」


「何もわかんないからね」


「言わせることもできるんだがな……」


 クロアが明星のランプの中に手を入れ、懐中電灯のスイッチに触れた。

 今ここで、あの気配の主を出して、僕を襲わせるつもりか?


 ヤバイ。

 あんなわけのわからない不快な気配を持ったやつに襲われたら、一般人の僕は確実に命に関わる。


 逃げるか?

 投げられるか?

 クロアに体当たりでもかますか?

 間に合うか?

 どうする?

 どうする?

 どうす


「ダ、ダメだーーーーーっ!」


「ッ!?」


 ビクッと緊張に強張っていた体を跳ねさせた。

 突然リィザがクロアへ向かって声を張り上げた。


「……黙っていろと言ったはずだぞ」


 クロアがリィザを一瞥して、冷めた声で言う。


「ご、ごめんなさい……。で、でも、バハムートが怯えてるみたいだったから。あ、汗もすごくかいてるし」


 汗?


「……うわ」


 言われて気づいた。

 額や握り締めていた手の平が、汗でびっしょりだった。


「だ、だから、よくわからないけど、仲良くしよう? な? せっかく久々に会ったんだし。な? な?」


 リィザが恐々と、それでも笑顔を作って言うも、クロアの反応は、


「……はぁ」


 肩をすくめて、呆れたため息ひとつ返すだけ。にべもない。

 だが僕としては、ひとまず助かった。

 リィザに感謝しつつ、こちらは安堵のため息をついた。


「……え、えーと……あの……」


 クロアの冷めた態度を見て、どうしていいかわからない様子のリィザ。


「えーとえーと……あ! そうだ! クロアに渡すものがあったんだ!」


 何かを思い出したようで、リィザが背負っていた荷袋の中を調べ、


「ん〜とん〜と…………あ! あった! これ!」


 つぎはぎだらけの黒い布を取り出した。


「ほら! これ! クロアのズボン!」


「私の?」


 ハーラスの村に忘れていったと言って、リィザが持っていた、補修された跡が何箇所もある黒いズボンだった。

 リィザがそれを自分の前に広げた。


「クロアの部屋に置きっぱなしになってたぞ。所々に穴が開いてたから繕っておいたんだ」


 エッヘンという感じに胸を張るリィザ。


「繕って……?」


 一方のクロアは、眉をひそめて首を傾げている。


「穴を塞げばまだまだ穿けるだろ? フフフ。だから、はい」


 リィザがニコニコと笑顔で、ズボンをクロアの前に差し出した。

 しかしクロアはそれを受け取らず、広げられたズボンの一箇所で目を止め、じっと見つめた。


「あ、それな、狼さんのアップリケだ」


 リィザがいつ使おうかと大事にとっておいた、デフォルメされた青みがかった銀色の毛並みの狼が刺繍されているアップリケ。

 クロアは、それが縫い付けられた左足の腿の所を無言で見ていた。


「そこに大きな穴が開いてたから、アップリケを縫い付けて塞いでおいたんだ。クロアは狼さんっぽいところがあるから、きっと似合うだろうと思ってな。どうだ? カッコイイだろう? クフフフ」


 リィザが笑みを濃くして、楽しそうに笑い声をこぼした。

 喜んでくれることを微塵も疑っていない、あどけない笑顔だ。


「狼……」


 話を聞いたクロアが、腕を伸ばしてズボンを受け取った。

 そして、目の前でズボンを広げ、眺め、明星のランプを石棺の上に置いてから、指を狼のアップリケに引っ掛け、


 ビリィィィッ


「へ?」


 一切のためらいなく、剥がし取った。

 剥がされた音が、やけに地下室内に大きく響いて残り、リィザの呆けた声も、やけに耳に残った。

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