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112.もうっ!

「へ? どこって、クロアのとこに決まってるだろ」


 当然のように言ってくるリィザ。

 決まってるだろじゃないっての。


「今の見たでしょ? おじいちゃんからクロさんになったところ」


「うん」


「だったらわかるでしょ? 明らかにクロさんおかしいって」


「だな。そのあたりのことも聞かないとな」


 と言って歩き出そうとするリィザ。


「いやいや、そうでなく。そうでなくて」


 腕を引っ張って止めた。


「何なんだ?」


 リィザが眉根を寄せてウザったそうにこっちを見る。


「近づくと危ないでしょって言ってんスよ」


「は? 何で? どうして?」


 どうしてって……頭大丈夫か、この人。


「おじいちゃんの件以外にも、クロさんが光の塔に侵入した事実があるんですよ」


「うん」


「しかも、塔の中にいた人を、何とかの鱗粉っての使って眠らせたんですよ」


「うん」


「そんな人、危ないでしょ?」


「何か事情があるんだろう」


 と言ってまた歩き出す。


「だから! お待ちなさいっての!」


 また腕をひっぱった。


「何なんだお前は! いい加減にしろ!」


「いい加減にするのはそっちでしょ! 事情って何スか!?」


「だからそれを聞くの!」


「近づいちゃダメですって! さっきの見たでしょ! 聖女様の棺に木の棒を差し込んで石を振り上げてるところ! 多分その事情ってのは」


「あー! もー! うるさいうるさいうるさい! いいから離せ! ん~っ!」


 自分の腕を引っ張って、僕の手から逃れようとするリィザ。


「ダメだってば! 大人しくしなさいっての!」


「う~~~っ、は~な~せ~~~っ!」


 足を踏ん張って、歯を食いしばり、顔を赤くして必死だ。


「ぐぬぬぬっ、行っちゃダメだってば~~~っ!」


 僕も両手でリィザの腕を掴み、引き留める。しかし、


「ん~っ、もうっ!」


 ガリッ


「あいたっ」


 リィザが僕の手の甲を、猫のように引っ掻いた。

 痛みから思わず手の力を緩めると、リィザはそのスキを逃さず僕の手を振り払って駆け出し、クロアの腕に飛びついた。


「アハハハッ、クロアっ、クロアだ! アハハハハッ」


 笑顔を爆発させてクロアの腕にしがみつくリィザ。

 御主人様にじゃれつくニャンコのようで、微笑ましい光景ではある。

 だがクロアは、その場に突っ立ったままで喜んだ様子もなく、無機質な目をリィザに向けていた。


「リィザ」


「アハハハ……え? 何?」


「腕が重い。離れろ」


「へ?  ……あ! ご、ごめん! そ、その、つい……」


 リィザが頬を赤く染め、慌てて離れた。


「い、痛かったか?」


 腕を揉むように撫でるクロアをリィザが気にかけるが、


「バハムートはもう喚ばないと言っていたが、結局喚んだのだな」


 クロアはそれに返事をせず、僕をチラリと見て言った。


「あ、うん。プリンちゃんを喚べるだけの魔力がなくなったりとか色々あって」


「……ふむ。ククは外か? ミラとレアはどこにいる?」


 クロアが今度は地下室の入り口を見た。


「あ、それは……」


 リィザが言い淀む。


「どうした?」


「……昨日まではみんないたんだけど、今朝起きたら誰もいなくて……。ククは、ここへ来る途中に合流できたんだけど、今は遠くに出かけてるというか……」


「そうか、今はお前たち二人か」


「でもでも、クロアが戻ったことを知れば、みんな」


「他に光の塔へ入った者はいるか?」


「え? ほ、他? いや、私とバハムートだけだ。その、クロアはどうして光の塔に」


「なぜトレアドールへ来た?」


 次に次にと、リィザの話を無視して自分の聞きたいことだけを尋ねていくクロア。

 前にも増して、傲慢っぷりがパワーアップしてる気がする。


「え、えっとえっと、クロアの捜索依頼を出すために、トレアドールのセイヴズへ行こうと思ったんだ。クロアは何でこの街に来たんだ?」


「……ここへ来たのは偶然か」


 やはりリィザの質問を流して、クロアがボソっとつぶやき、


「バハムート」


 水色の瞳をこちらへ向けた。


「何さ?」


 リィザに引っかかれた血のにじむ手の甲をさすりながら、クロアを睨むように見つめ返した。


「フッ、そう怖い顔をするな。少し聞きたいことがあるだけだ」


「こっちは山ほどあるっての。夕方服屋の前でこっち見てたのクロさんだったんでしょ?」


「まぁな」


 まぁなじゃないよ。


「え!? 本当だったのか!?」


 リィザビックリ。

 ようやく僕の気のせいでないとわかってもらえた。


「んで、その後僕達のことつけてたでしょ? 噴水広場からこっちを見てたでしょ?」


「……さぁな」


 さぁなじゃないよ。

 さっき、「ククは外か? ミラとレアはどこにいる?」って聞いてただろ。

 ククと二人を分けて聞いてる時点で、僕達の状況を把握してるって丸わかりだっての。

 ククが噴水広場のほうを向いて、「誰か見てる」って言ってた誰かってのは、クロアだったんだ。


「それより、先程貴様が言ったことで気になることがある」


「何さ?」


「私があの強大な気配の発生源だと言っていたな」


「ああ」


「なぜ、そう思う?」


「何でそんなこと……」


 聞くんだ? と逆に聞き返そうとして、やめた。

 普通なら一笑に付すような話だ。

 リィザが良い例。

 クロア自身についての想像なのだから、外れているならなおさら。

 しかしクロアは問いかけてきた。

 『なぜ、そう思う?』と。

 それの意味するところは考えるまでもない。

 やっぱり、こいつが気配の持ち主を出してるんだ。


「答えろ。なぜ私が発生源だと思った?」


「あ、あの、クロア」


 リィザがおずおずと声をかける。


「それってバハムートのただの想像だから、許してやっ」


「怒っているわけではない。静かにしていろ」


「……うん」


 クロアに言われ、シュンとしょげたように口を閉じるリィザ。

 確かに、怒ってるんじゃないよな。

 探ってるんだよな。

 僕が、クロアがあの気配の持ち主を操っていると確信しているのかどうかって。

 確信しているなら何らかの対処を。

 していないなら、僕達を放っておいてやるべきことをさっさと済ませようってところだろう。

 仕方がなかったとはいえ、おじいちゃん状態だったクロアに正直に答えるんじゃなかった。


「さぁ、言え。私が発生源だと思った理由は?」


「……」


 クロアの目的は、封印を解くことのはず。

 おじいちゃん状態の時、棺の蓋を開けようとしてたし間違いない。

 しかし、どうして僕達がここへ来るまでに、あの気配の持ち主を使って行動に移らなかったんだろう。

 おじいちゃんだったこと、その状態から元に戻ったこともわけがわからないが、その点もわからない。


 とにかく、あの気配の主を操る前に、クロアを取り押さえて……は無理だな。

 そんなことしようとしても、リィザに邪魔される。

 となると、狙うは気配を発生させるための必須アイテムだと思われる明星のランプと懐中電灯とリィザの聖印。

 そのどれかを取り戻して壊してしまえばいいんだ。


「おい、さっさと言え」


 クロアが答えを急かしてくる。


「……別に。特に理由はないよ」


 とぼけたフリして油断させて、その間に奪い返そう。


「本当か?」


「うん。リィザさんも言ってたじゃん。僕の想像だって」


「その想像だけで、貴様はここへやって来たと?」


「うん。それに、光の塔の中にズンズン入ってったのはリィザさんだし。『盗人を捕まえるんだー』って。僕はその後について行ったって感じ」


「そうなのか?」


 クロアがリィザを見る。


「うん」


 リィザもすんなり首を縦に振った。


「……ふむ」


 クロアが右手で顔を隠すようにして、無意味にカッコつけたポーズで、明後日の方向へ視線を向け何事かを考え始めた。


 奪うなら今だろう。

 明星のランプは石棺の上にある。

 そこまでは、大股で七歩ってところだ。

 石棺から見て八時の方向に立っているクロアと、明星のランプの距離は一メートルほどだが、カッコつけて考え事してるクロアに近づくように見せかけて、素早く


「……」


「……」


 いつの間にか、こちらを見ていたクロアと目が合った。

 クロアは僕を見つめてから、横目に石棺の上にある明星のランプへ視線を動かし、もう一度僕へ水色の瞳を戻し、指の間から覗く目をスーっと細め、


「……貴様、気づいているな」


 口元を笑みの形に歪めた。

 マズい。

 目線を読まれた。

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