110.知り合い?
「最早逃げることは叶わん! おとなしくお縄につけ!」
「……」
「そこにある明星のランプを持っていた男に何をした!?」
「……」
「水色の髪の男のことだ! 憶えているだろう!?」
「……」
リィザが何を言ってもおじいちゃんは反応なし。
「おい! 聞いてるのか! なんとか言え!」
「……もう少しか」
しまいには、自分の手を見て顔を触り、わけのわからないことをつぶやく始末。
「ぐ、ぐぬぬぬっ……こ、このジジイ……!」
リィザが歯を食いしばり、怒りで体をプルプル震わせ始めた。
「姐さん、少し落ち着きましょう」
「こいつ殺す」
「僕の話聞いてる? 落ち着きましょうって。殺したらクロさんのこと聞けないでしょ?」
「でもこいつ、何も喋らないんだぞ」
「多分、この距離でも聞こえてないんですよ。言動もちょっとアレだし」
「む……」
僕の言葉を聞いて、リィザがじっくりとおじいちゃんを観察する。
「……言われてみれば、アレかもな」
リィザも僕に同意のようで、寂しそうな目でおじいちゃんを見つめた。だが、
「自分の言っていることもやっていることもわかっている。貴様等の声も聞こえている。哀れんだ目を向けるな」
おじいちゃんに叱られてしまった。この人、声はしわがれてるけど、喋り方はしっかりしてる。
「お前は、相変わらず無礼なやつだな」
おじいちゃんが僕を見て言ってくる。
「いや、その、すみま……」
相変わらず?
「……お前、この盗人と知り合いだったのか?」
リィザが不審げに目を細め、僕を見てきた。
「え!? い、いやいやいや! 全然知らないっスよ!」
「……(じー)」
「な、なんスかその目は!? 本当ですって!」
「でも、相変わらずって」
「ホ、ホントに知らないっスよ! だいたい僕と姐さんいつも一緒にいるでしょ!? 僕が知ってたら姐さんも知ってますって!」
「……ふむ、それもそうだ」
わかってもらえたようで、リィザの視線がおじいちゃんへ移った。
「虚言で我々を謀ろうとは……この盗人ジジイめ!」
「……フッ」
リィザを見て鼻で笑うおじいちゃん。
「さぁ吐け! クロアに何をした!? 今どこにいる!?」
おじいちゃんを問い詰めるリィザ。
なぜか、おじいちゃんがクロアの現在について知っていること前提の聞き方になってる。
おじいちゃんは、また無視するか、わけのわからないことを言うかと思ったが、
「クロアのことならすぐにわかる」
ちゃんとした答えが返ってきた。
しかも、クロアについて知っているようだ。
「……ククク。やはりクロアの行方を知っていたな」
リィザが昏く笑って声を低くし、
「……クロアはどこだ?」
レイピアの柄に手をかけた。
「お前もお前で、相変わらずせっかちだな」
「ふんっ。言葉で惑わそうとしても」
「レイピアから手を離せ、リィザ」
「そのようなこ………………今、何と言った?」
「レイピアから手を離せと言ったんだ、リィザ」
「……」
リィザが目をまん丸にして、おじいちゃんを凝視した。
そんなリィザに、もちろん僕は尋ねた。
「……リィザさん、お知り合い?」
「え!? い、いやいやいや! 全然知らない!」
「……(じー)」
「な、なんだその目は!? 本当だ! 会ったのも話したのも初めてだ! 私に盗人の知り合いなんていない!」
「でも、リィザって」
「ほ、本当だもん! 本っ当に! 全っっっ然知らないもん!」
ロリっ子リィザが出てきてしまった。
まぁ、ウソではないだろう。
ウソをつく意味がないし。
ならば、名前を知っている理由は、以前どこかで会ったことをリィザが忘れているか、おじいちゃんが一方的に知っているだけか、もしくは、
「あっ、そうだ! きっとあれだ! 私達が名前を呼び合ってるのを聞いて、それで知った風に言ってるんだ!」
「多分それでしょうね……」
ただ、この地下に入ってからは、名前を呼び合ってないように思うのだけれども。
「クックックッ、名前を呼んだだけで何を驚いているんだ、お前達は?」
リィザと僕の慌てた様子を見て、おじいちゃんが可笑しそうに笑う。
やっぱりからかわれているんだろう。
「バハムート」
おじいちゃんが、今度は僕の名前を口に出した。
僕の名前がバハムートってわかると、みんな何かしらの反応を返すのに、このおじいちゃんは気にならないのだろうか。
ハムスターにさえ笑われたってのに。
「何スか?」
「どうしてお前はここへ来たんだ?」
「盗人のお前を捕まえるために決まってるだろ!」
僕ではなくリィザが怒鳴って答えた。
「リィザは黙ってろ」
「ジジイこそ黙れ!」
「バハムートが私の質問に答えるなら、クロアのことを教えてやる」
「ぐっ……うぅぅっ」
クロアのことを出されると弱いリィザは、悔しそうに口をつぐんだ。おじいちゃん、リィザの性格をよく知ってる。クロアとつるんでるって線かな。
「フフ。で、バハムート。どうしてここへ来た?」
「水色クロさんがここにいると思って来ました。いたのはおじいちゃんだったけど」
「なぜクロアがここにいると思った?」
この話に何の意味があるのかわからないが、おじいちゃんの瞳は、興味深そうに僕を見ている。
「光の塔の上に明星のランプの光が降りるのを見たんで」
「……その時、街の人間全てが、大きな音が響いてきた『始まりの森』の方を注視していたはずだが、お前は光の塔を見ていたと? なぜ、こちらを見ていた?」
「おじいちゃんが始まりの森に何か仕掛けたの?」
「私が聞いている。お前は聞くな」
「……」
超がつくほどの年上なので、上から目線で話しかけられるのは別にいいんだけども、ものの言い方が高圧的なのがイラッとする。
「おい、さっさと答えろ」
「服屋のおじいさんに、夕方来店したお客さんのことアレコレ聞いたらクロさんだって判明したの。そんで、北の方を向いて、『古い知り合いに会いに行く』って言ってたって店主さんに聞いたから、音を無視してずっと光の塔の方を見てたの」
「全てはバハムートの気のせいだったわけだけど」
ボソリと言ってくるのはリィザ。
服屋のおじいさんが言ったことは気のせいではない。
「だからといって、なぜ音を無視して光の塔がある方を見続ける?」
おじいちゃんが続けて聞いてきた。
「僕は、クロさんがあの巨大で不快な気配の発生源じゃないかって予想を立ててたから、街が気配に覆われた時、クロさんがいるはずの光の塔の方を見てれば、クロさんと気配の関係が何かしらわかるんじゃないかと思って、目を離さないようにしてたってわけ」
「はぁ?」
アホを見るような目を向けてくるリィザ。
「お前、服屋さんに行く前も、そんなこと言ってなかったか?」
「言ってたっス」
そして、リィザがキレかけた。
「クロアとあの不快な気配に関係なんてあるわけないだろ」
「だって、おじいちゃんが聞いてきたから、とりあえず話そうと……どしたの?」
おじいちゃんを見てみれば、しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにしていた。何だこの人?
「……」
「大丈夫おじいちゃん? トイレ間に合わなかった?」
「……ブハッ」
「?」
「ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」
おじいちゃん、突然大笑い。
さっきのしわくちゃ顔は、笑う直前の表情だったようだ。




