107.塔内部
「外の様子を見に行ったんじゃないっスか?」
「……かな?」
「もしくは、今日の光の塔の営業は終了したとか」
「営業って言うな。終わったなら入れないはずだろ」
「それもそうっスね」
「……でも……そうだな。夜なんだよな……」
リィザが何事かを考えながらつぶやき、僕を見つめてきた。
「何スか? 夜ってつぶやいて見つめられるとドキドキしちゃうんですけど」
「心臓を止めろ。本当に服屋のおじいさんは、こんな夜中にクロアを見たと言ったのか?」
疑わしそうに聞いてくるリィザ。
こっちを見つめてたのは、僕がウソをついてるんじゃないかと考えてたようだ。
「本当っスよ。けど、見たって言ったんじゃなく、僕がクロさんの特徴を言ったら、お店に来たお客さんの特徴と合致したんです。それと、夜中でなく夕方にクロさんがお店に来てたんですよ」
「夕方に……。おじいさんは、他に何か言ってたか?」
「さっきも言いましたけど、クロさんは北のほうを見つめたまま、『古い知り合いに会いに行くんだ』って言ってたそうです」
「北のほうを見てただけなら、光の塔へ行ったかどうかわからないだろう」
「それを聞いたときは、まだ確信はなかったですけど、お店を出た後、街が不快な気配で軽いパニックになってる時、光を見たんですよ」
「光?」
「ええ。リィザさん達が持ってた明星のランプって、僕の懐中電灯を光源に使ってたんで、オレンジ色の光を放ってたじゃないですか?」
「ああ」
「その独特の光が、塔の上に降りるのを見たんですよ」
「……」
「それでですね、明星のランプを持ってるのはクロさんなんで、光の塔に降りたのもクロ」
「でかした!」
「さんってことに……え?」
突然叫んだリィザの声に説明を中断した。
「でかしたぞバハムート!」
もっかい言われた。
「あ、はい、どうも」
「フフ、フフフフフフフ」
今度は目をぎらつかせて笑い出した。
「ついに見つけたぞ……」
変質者みたいで怖い。
「え、ええ、ついに見つけましたね」
「……ああ、見つけた……犯人をな」
「……」
犯人?
「姐さんも、クロさんが盗人だって認めたんですか?」
リィザは、クロアが荷物やお金を盗んだんじゃないって言ってたのに。
「違う、おたんこなすムート」
おたんこなすムート……。
「では、どういうことで?」
「留守番していたクロアから、荷物やお金、そして明星のランプを盗んだ犯人を見つけたと言ったんだ」
「ああ」
そう考えちゃったか。
「お前は、クロアが光の塔の上に降り、中へ侵入したと考えたようだがそれは違う」
「考えたっつーか」
「なぜならっ!」
めっさ声デカい。
「クロアが光の塔に無断で侵入するわけがないからだ。盗人が、浮遊の魔道具でも使って塔の上から侵入したんだ」
浮遊の魔道具。
すんごく欲しい。
今度買おう。
「やはりクロアは、盗人を追って村を出たんだ」
「でも、今話しましたけど、服屋のおじいさんがクロさんと同じ特徴を持ったお客さんがいたことを教えてくれたんスよ?」
「それって本当にクロアだったのか?」
「ええ。夕方僕が、服屋さんの前にこっちをじっと見てる白いローブ姿の人がいるって言ったの憶えてます? あの人がクロさんだったんですよ」
「なんだ、人違いじゃないか」
「え?」
「クロアなら、私達を見たら声をかけるはずだ。しかし、何も言わずに立ち去ったならクロアではない」
「いや、それはですね」
「もういい。話は後だ」
「……」
まぁ、中に入ってクロアを見れば、リィザも僕の言ってることが合ってるってわかるだろう。
「中へ入って盗人を見れば、お前も私の言ってることがわかるだろう」
今まさに僕が思ってたこと。
「我々の荷物を盗むだけでなく、光の塔へも侵入した不届き者め。何をしようとしているのかは知らんが、その前にこの手でとっ捕まえてやる」
気合十分で塔内部へ続く扉へ歩き始めるリィザ。
リィザがクロアを説得すれば、封印を解くなんて馬鹿げたこと止められるかもな。
「サン金貨十枚分の寄付をしてないし、白い服も着てないけど、状況が状況だ。大目に見てもらおう」
「オス」
お金払わずにすんだ。
呪いの服着ずにすんだ。
「でも、教会の人に注意されたら寄付して、服も着るんだぞ」
「……オス」
「……フー」
扉の前でリィザが一度止まり、息を吐いた。
「……まさか、こんなカタチで光の塔へ入る日が来るとはな。フフフ」
嬉しそうに微笑むリィザ。
塔の中へ入れることに加え、盗人を捕らえればクロアが帰ってくると想像しているのかもしれない。
「盗人はどこにいるかわからん。油断するなよ」
「はい」
盗人っつーかクロアだけど。
「では」
リィザが手を伸ばし、扉の取っ手を掴んだ。
「……なぁ、バハムート」
が、すぐには開けず、こちらを見た。
「何です?」
「今気づいたんだが、中には聖杖騎士団の巡回員がいるはずなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。だが、盗人が侵入したにしては静かすぎないか?」
「だったら、もう捕まえた後とか?」
そうであってくれればいいんだけど。
「もしくは、中の団員も始まりの森へ行ったのかな?」
「その可能性もあるっスね」
とはいえ、こんな重要な場所空にするだろうか。
「……ふむ。ともかく、慎重に行動するとしよう」
「ウス」
「……開けるぞ」
今更ながらリィザが声を潜めて、両開き扉の右側をそっと押し開けた。
「う」
「ぐ」
その途端、中から漏れ出た強烈に甘ったるい匂いが鼻孔をついた。
過剰につけられた香水のようで、少し嗅いだだけでも胸焼けしたような気持ち悪さを覚える。リィザと僕は、すぐさま扉から顔を背けた。
「何だこの匂いは? 一瞬で気分が悪くなる」
「光の塔の中って、いつもこんな匂いがしてるんですかね?」
「そんなことはないと思うが……盗人が何かやったのか?」
リィザが、開いた扉の隙間から、恐々と中を覗いた。
僕もリィザの頭の上から中へと目を向けた。
光の塔内部は、間仕切りや階層などは一切なく、円形吹き抜けのさっぱりとした空間だった。
壁には、ガラスではなく木の板で塞がれた明かり取りの窓があり、黄色い光を放つランタン、壁に沿って天井まで続く螺旋階段が取り付けられていた。
そして、視線を下げていくと、白い床の中央には地下へと続く階段があり、その側には、
「リ、リィザさん……ひ、人が倒れて……」
「……ああ。騎士団員二人と……あれはオリビアさんだ」
白銀甲冑を装備した女性二人と、白いローブを着た五十歳くらいの女性が一人、仰向けで倒れていた。
管理人のオリビアさん、いないと思ったら塔の中にいたのか。
三人は、まったく動く様子がない。
「あ、あの人達、ピ、ピクリともしないっスよ?」
「……うん」
「そ、その、ま、まさか、あ、あの三人って……」
……死んでる、とか?
「……わからん。だが、あの三人が倒れてるのは、この匂いが関係してると思う」
僕もそう思う。
ならば、簡単に中へは入れない。




