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100.満月

「リィザさん。どうしてクロさんは、リィザさんの聖印に興味を持ったんでしょうね?」


「は? 今言ったろ。パルティア教に入信するなら、私のものを持っておきたいからって」


「あ、ああ、そうでしたね」


 クロア信者のリィザは、クロアの言葉を鵜呑みにしてるよな。

 失敗失敗。えーと、


「じ、じゃあ、何でクロさんがパルティア教に興味持ったか聞きました?」


 もどかしいが、焦点をずらして尋ねた。


「聞いてない」


 ないか。


「興味を持った理由とか想像つきます?」


「ふぅむ……」


 右手をアゴに、左手を腰に当て考えるリィザ。


「む~…………急に興味を持ったことを不思議に感じてはいたんだ」


 気にはなってたのか。


「だから、街から帰ったら聞こうと思っていたんだが……」


 いなくなってたと。


「想像と言われてもなぁ……」


 ピンとくるものはなさそう。

 ククがいれば、何か気づくことがあったかもな。


「ただ……」


 リィザが、今は何もつけていない、自身の胸元に手を当てた。


「お前が還った後、じっと私の聖印を見てたな」


「ん? 僕が還ってすぐに、クロさんと聖印を交換したんですか?」


「いや、クロアがずっと持ってたんだ」


「ん? ん? 僕が還る前、すでに交換を済ませてたってこと?」


「違う違う。お前がクロアに、その……変な攻撃をしたろ?」


 リィザの頬が少し赤い。変な?

 ……ああ。


「電気アンマのことっスか?」


「何だその技名は……」


 僕もよくわからない。


「クロアがその変な技を受けて意識が戻った後、支えていた私の手を打ち払ったの憶えてるか?」


「ええ」


 私から手を離せ、とか言って。


「その時に、クロアの手が私の手だけでなく、ネックレスにも当たって留め具が外れたんだ」


 留め具が外れた……。


「で、明星のランプが少し割れて穴が開いてたんだけど、外れて飛んでったネックレスがそこにちょうど入ってて、クロアが拾ってくれてたんだ」


「……」


 そういえば、リィザはあの日、ネックレスの留め具の調子が悪いとブツブツ言っていた。

 それで、払ったクロアの手が当たり、ネックレスが首から外れてしまった。

 明星のランプが割れた音も聞き覚えがある。

 その結果、割れたところから中へ入った。

 そして、クロアはネックレスを拾い、僕が還った後リィザの聖印をじっと見てたってことか。

 ……クロアのやつ、懐中電灯も明星のランプから取り出して、手に持ってたよな?


「なるほど、そういうことでしたか」


「うん」


 ふむふむ。


「あの時聞こえた『カツン』って音は、聖印と懐中電灯がぶつかった音だったんですね」


「そんな音したのか?」


「ええ。気になってたんですよ。音がした後、あの危ない気配を感じたんで」


「ふぅん」


 リィザは興味なさげだが、僕としては色々考えてしまう。


 スイッチがオンになっている懐中電灯が入った明星のランプの中に相当な代物である聖印が落ちた。その直後、不快な気配を感じた。

 そして、僕が還された後、クロアが聖印を貸してくれと言い、明星のランプと懐中電灯も借りて持って行った。


「……」


 だから何だ、とは思う。

 しかし、クロアの行動に言い知れない不気味さを感じる。

 あいつ、他にもどこかおかしなところはなかっただろうか?

 何かあったような気がするんだけど、ハッキリと思い出せない。


「はぁ〜。今夜も満月が綺麗だな〜」


 夜空を見上げるリィザに倣って、僕も顔を上向けた。

 視線の先には食事前にも見た、星空の中で煌々と照る満月が、夜の支配者のように妖しく世界を見下ろしていた。


「今日は忙しかったから、お月様を見るの忘れてた」


「いつも見てるんスか?」


「いつもじゃないけど、満月って不思議と見たくならないか?」


「ああ、何となくわかります」


 我が家の愛犬ケルちゃんと夜の散歩をしている時などに、ふと夜空を見上げて満月だと、しばし見入ってしまう。


「だろ? だから満月の時は、見るのを楽しみにしてるんだ」


「なるほど」


 今日は、大変な一日だったもんな。

 頭上に輝く満月を見る余裕も……頭上に輝く……頭上に……頭の上……


「……思い出した」


 カツンって音がした後。

 明星のランプの中にリィザの聖印付きネックレスが落ちた直後、クロアの頭の上で一瞬何かが強く光ったように見えた。

 気配が去って、クロアに、「頭の上で何か光らなかった?」と尋ねると、「いいや」と答えが返ってきた。


 あの時、クロアの答えに違和感を覚えたが、今ようやく理由がわかった。

 夜空に満月があっても、首を上に向けなければ見えないように、自分の頭の上で何かが光っても、微動だにしなかったクロアにわかるわけがない。

 しかも、明星のランプの灯りに照らされてる状態で光ったんだ。気づくこともないだろう。

 ならば返答は、「知らん」になるはず。

 なのにあいつ、しれっとした顔で完全否定しやがった。

 光に気づいてたのに隠したんだ。


「……つまり、こういうことか」


 リィザの聖印が明星のランプの中に落ちて、そのタイミングでクロアの頭の上が一瞬光り、巨大で不快な気配が現れ、消え、クロアは懐中電灯と聖印を拾っていた。

 それと、あいつってその後、一人で豪快に笑ったかと思ったら、憑き物が落ちたように晴れ晴れとした表情になって、心にゆとりがある対応をしてきてたな。

 そして、僕の質問にも爽やかに、「いいや」と顔色ひとつ変えることなくウソをつき、僕が還されたら、明星のランプと懐中電灯、リィザからは聖印が付いたネックレスを借り、姿を消した。


「……」


 こうして話を並べてみると、クロアとあの巨大で不快な気配は、何か関係があるように思われる。

 よくわからないことだらけだが。


 魔物に詳しいというクロアに、巨大な気配について尋ねたら、「あの様な気配初めてだ」みたいなことを言われた。

 しかし、クロアとあの気配に関係性があるならそれもウソということになる。

 なのに、知ってることを隠し、みんなに何も告げずに姿を消したのだとしたら……


「なんつー薄気味悪い……」


 何考えてんだ、あいつ。


「さっきから何考えてるんだ、お前」


 リィザが僕の顔の前で、手をヒラヒラ振ってきた。


「パクリ、モグモグモグ、ゴックン」


 何か食べながら。


「……何食ってんスか?」


「ハチミツパン」


 またか。


「どこで買ったんスか?」


「手売りの女の子が寄ってきたんで買った」


 またか。


「僕の分は? 次は取っといてって言いましたよね?」


「あ」


 またか。

 リィザの手にあるのは、ハチミツパンが一欠片。

 今回も僕の分は見当たらない。

 リィザは、持っているパンの欠片をじーっと見つめた後、


「……これ」


 僕に差し出してきた。

 超渋々って感じで。

 パンをカツアゲしてる気分だ。


「食べかけじゃないっスか」


「一個丸々のが良かった?」


「それが常識でしょ」


「常識って、一体何だろうな?」


 何の話だよ。


「もういいですよ。次こそは、ちゃんと僕の分買っといて下さいよ」


「お前の分も買ったんだけど、私が食べちゃっただけで」


「次は、僕の分しっかり取っておいて下さいよ。できれば二個」


「私の分と合わせて三個……そんなに食べられない」


「取っておいてって言ってんでしょ!?」


「アハハ、冗談だ。冗談」


 すでに二度やらかしといて冗談て……。


「じゃあこれは私が。アーン、パクリ、モグモグモグ」


 ハチミツパンの欠片を口へ放り込んで、とっても幸せそうな顔で食べるモグモグリィザ。


「ゴックン。んはぁー。あー、おいしかった。で、さっきから何を考えてるんだ?」


 クロア信者のリィザではあるが、今気づいたクロアのおかしな行動について伝えておいたほうがいいだろう。

ついに100部まできました。

初めましての方も、いつも読んでくださっている方もありがとうございます。

よろしければ、引き続きお楽しみくださいませ。

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