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1.プテラノドン

「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」


「……」


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」


「……」


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」


「……」


 ……何の前触れもなく突然現れ、自身の前方を指差し、イケイケと叫ぶ金髪ショートボブの女の子。

 その金髪さんを呆然と眺める僕。


 ……誰、この人?

 お父さんかお母さんの知り合い?

 今までどこにいたの?


 全く状況が飲み込めず、視線も動かせずにいると、金髪さんは、猫目が特徴的な綺麗なお顔をこちらへ向け、


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」


 もう一度同じ方向を指差しながら、同じセリフを言って僕を真っすぐに見つめてきた。


 どうやら、イケというのは僕に言っていたようだ。


 見ず知らずの女の子がどうして僕のいじられネームを知ってるんだろう? と不思議に思いながら、とりあえず金髪さんの指差す先を見てみると、


「……」


 森だった。


 どことも知れない、朝特有の湿った緑の匂いが濃い、人の手が入っていなさそうな草木生い茂る森の中に僕はいた。

 少し離れたところには、こちらへ背を向け立っている変な格好をした三人がいた。


 しかし、金髪さんの人差し指はその人達ではなく、さらに森の奥にいる……


「……蚊?」


 へ、向けられているようだった。


「……」


 念のため、両目をゴシゴシこすってからもう一度確認する。


「……蚊だ」


 夜明け前という時間帯、さらには鬱蒼とした森の中ということもありかなり薄暗くてわかりづらいが、白黒模様のやぶ蚊が一匹飛んでいる様子が見えた。


 サイズがプテラノドンくらいあるけど。


 一体なにがどうなってんだ……?


 今の今まで、自分の部屋のベッドでグースカ寝ていたのだが、耳の近くで「プゥ~ン」というあの独特な蚊の羽音が聞こえ目を覚まし、面倒だな~、どっから入ったんだろ? 六月も半ばだしそろそろそういう時期か、などとぼんやり考えながらベッドから起き上がり、枕元に一年中置いてあるものを手に取り、蚊が飛んでいったと思われる部屋の中央へ体を向けると金髪さんがいた。

 森だった。

 ほかにも人がいた。

 蚊がデカかった。

 超、デカかった。


「……これってもしかしてアレか?」


 つい最近読んだ小説を思い出す。

 その内容のようなことが僕の身にも起きているのかもしれない。

 でも、現実にそんなことがあり得るだろうか。

 とは言えこの状況、それ以外に説明が……。

 つまり今、僕の身に起きていること、それは……


「……病気になった」


 ってことなのかもしれない。


 前に読んだ本の内容は、


『夏休み前、若くしてよくわからんけどそこそこアレな病気にかかってしまった高校二年生の三郎は、病気になったことを想い人である幼馴染みのヴェロニカに隠して毎日を半笑いで過ごしていたが、夏の終わり、


「オ前スゴク変ジャネ?」


 と、ヴェロニカが三郎の様子がおかしいことに気づき、


「実は……」


 三郎はその場でそこそこアレな病気であることを告白し、優しい想い人に迷惑をかけてしまうことを怖れ、彼女のもとを去ろうとしたが、


「私ガオ前支エタル」


 ハンパないヴェロニカの優しい言葉でそばにいることを決心し、


「私トダーリンニ任セトケ」


 やっぱり去った』


 という切ない物語だった。


 僕も今高校二年生。時期もほぼ同じ。

 サブ同様、僕もこの年でそこそこアレな病気にかかってしまったのかもしれない。


 もしそうだとしたら、僕の病気は、幻覚が見えてしまう類のものだろう。


 けれどもよーく考えてみれば、今僕はまだ眠っていて、自分は起きたという夢を見ているって可能性のほうが現実的な気も


 バシッバシッ


「いてっ、いてっ」


 あれこれ考えている途中金髪さんに肩を叩かれた。で、


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」


 また言われた。

 距離近いから耳痛い。

 この人こればっか。

 なぜだか怒ってるように見える。


 しかし、怒ったお顔もなかなか可愛い人だ。

 ……なかなかどころかこの人よく見ると、腰抜かすほど可愛い。


 ふんわりとした丸みのある黄金色のショートヘアー、碧い瞳の大きな猫目、すっきりとしたアゴのライン、北欧系の白い肌をもつ小顔美少女さん。

 服装は、薄手の白いコートに、赤いミニスカ、腰には剣を差していて、足に黒のガーターベルト&ストッキングを装着していらっしゃった。

 個人的に、ガーターベルトは世界一エロい衣料品だと思っている。

 その黒くエロい衣料品が、白く長いおみ足にとてもよく似合っていた。


 お顔は極上の美人。

 さらにはモデルさんのようなスラリとしたスタイル。

 この金髪さん、とんでもなく優れた容姿の持ち主だった。

 オッパイがないこと以外は。


「おい、まだなのか? もうじき混乱が解けるぞ」


 失礼な視線を目の前の胸にそそいでいると、前にいる三人のうちの一人が振り返り、金髪さんへ声をかけてきた。


 ファンタジー系の映画で見たことのある、皮っぽい材質の胸当てを身に着け、金髪さん同様帯剣している、サラリとした水色の髪の、これまた雪のように白いお肌の、きれいな顔立ちの人。


 ただしこちらは男性。

 高身長のイケメンさん。

 綺麗な二重まぶたと髪と同色の瞳を持ち、甘いマスクと眼差しは、世の女性を魅了すること間違いなしだろう。


 イケメンさんは、フェロモンダダ漏れの視線を金髪さんから僕へ移し、頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺め、


「……フッ」


 鼻で笑ってから、前へ向き直った。

 感じワル……。


「ダメだろそいつ。もうほっといて、アタシらでやりゃあいいよ」


 今度は、イケメンよりも大きく一歩蚊に近い場所にいる、ぼさっとした赤い髪の頭に、赤い龍が刺繍された黒いバンダナを巻いている、眼光鋭いワイルド系の美女が、首だけをこちらへ向け言ってきた。


 この人は、自分の身の丈ほどもある大剣を、身に着けた肩当てに置くようにして担いでいた。

 あと、赤いビキニ姿だった。


 日に焼けた褐色の肌と引き締まったウエストがとてもセクシーだ。赤髪さんも僕を見てきたが、さして興味がないようですぐに首を戻した。


「こんなことなら、さっさと倒しておけばよかったですね」


 そして残る一人、赤髪さんの隣にいる、首や腕まで隠すタイプの黒いウェディングドレスのような服装に、黒いつば広の帽子をかぶった、長い黒髪の人が、体を後ろへ向けてきた。


 全身黒ずくめだが顔も黒いベールで隠れており、手は黒い手袋、足は丈の長いフレアスカートのため素肌がまったく見えなかった。


 手に持っているひょうたん型の傘だけが紫色だ。声と見た目から判断するに、女性なのは間違いないと思う。


 黒ドレスさんもこちらへ顔を向けてきたが、やっぱり僕に興味がないのかすぐに体を前へ戻した。


 それにしてもまぁ、なんとも変わった人達だ。

 コスプレ趣味の仲間かなんかだろうか。


「ちょっとどうすんのよ? そいつにやらせんの?」


 まだいた。

 姿は見えないが子供のような甲高い声が聞こえた。


「ずっとキョトンとしてるし試すまでもなくハズレでしょ?」


 その声の主は、きっと僕について言ってるんだと思う。


 試すって何?

 ハズレってどゆこと?

 てゆーかこの人たち誰?

 何者?

 何でコスプレしてんの?

 そもそもどうして僕の部屋にいきなり現れたの?

 どうして部屋が森になってんの?


「……って、夢だか幻だかの住人に理屈なんてないよね。ハハハ」


 あーあ、早く目ぇ覚めないかなぁ。もしくは病気治んないかなぁ。それまでビューティーな金髪さんと、会話でも楽しんでようかなぁ。


「うぅぅぅ~~~~~っ」


 などと考えていると、お隣から唸り声が聞こえてきた。

 そちらを見ると金髪さんが下唇を噛みながら顔を俯けていた。


 お腹でも痛いのかと思い声を掛けようとすると、金髪さんは、ガバッと顔を上げ、碧い瞳でこちらをニラみ、僕の背後へ素早く回り込み、


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」


 例のセリフを叫んで僕の背中を押し始めた。

 巨大な蚊へ向かって。


「ちょっ!? 何やってんの!? ストップ! ストーーーップ!」


 と言っても止まってはくれず、


「やめてっ、つってんでしょっ、ぐぬぬぬぬぬっ」


 足を突っ張らせて踏ん張るが思いのほか力が強く、結局そのままグイグイと押され続け、変な三人の横を通り過ぎたところで、もひとつおまけに、


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ」


 金髪さんが叫び、


 ドゲシッ


 僕の背中を蹴飛ばしてきた。


「どわぁっ!?」


 蹴られた僕は、コけそうになるのをなんとかこらえようとするも叶わず、ヘッドスライディングをきめるように、地面にズザザザザーッと滑り込んでしまった。


「あたたた」


 蹴られた背中をさすりながら上半身を起こし、


「ちょっとあんた! いきなり何すんのさ!?」


 おもいっきり抗議した。しかし、


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」


 僕の背中に蹴りくれた金髪さんはこっちを無視して、またもやアホみたいに定型文を叫んで前を指差していた。

 何なんだこの人は……。


「まったくもう……」


 立ち上がり手についた土をパンパンと払った。


 ……ここってホントに夢か幻の世界なのか?

 素手で触れ裸足で踏みしめる、朝露に濡れた土や草の感触は超リアル。

 森のニオイもするし、蹴られた背中は痛いし、さっきからプゥ~ンって音も……


「あ」


 すぐさま音のするほうへ体を向けた。


 視線の先では、先程も見た巨大蚊が、周囲の草や枝葉を羽風で大きく揺らしながらフワフワと飛んでいた。


 その距離約十メートル。

 だが、蚊のサイズが大きいからか、実際の距離よりも近くにいるように感じられる。


 こんなのに襲われたらシャレではすまない、と思ったが、


「……ん? 何だコイツ?」


 巨大蚊は、同じ場所を行ったり来たりしているだけで、こちらには、まったく気がついていないようだった。


 ……ふむ。

 確かさっき、友達のいなさそうなイケメンが、混乱がどうのこうの言っていた。

 それってこの巨大蚊のことを言ってたのかも。

 何らかの方法で判断能力を奪ってるってことだろうか? だとしたら今のうちに……。


 体の正面は蚊へ向けたまま、一歩づつ、今さらだけど音をたてないようそ〜っと後ろへ下がる。

 慌てず、騒がず、ゆ〜っくり、ゆ〜っくり、


「さっさとイケ! バハムート!」


 水色ヘアーのイケメンが空気を読まずにいきなり叫んだ。


「ちょっ!? シーッ! シーッ!」


 人差し指を口に当て、静かにするよう伝える。が、


「早くイケよ! バハムート!」


 赤髪赤ビキニさんも同じく叫ぶ。で、


「イクのです! バハムートさん!」


 真っ黒ドレスさんも叫び、


「イキなさいよ! バハムート!」


 見えない誰かさんも叫んで、


「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」 


 やっぱり金髪さんも叫んだ。

 しばらく森の中に、イケイケ叫び続ける五人の声が響く。


 ……ダメだコイツら。全員頭おかしい。


 だいたいイケって何なんだ?

 まさか巨大蚊と戦えってわけじゃないだろうし。


 それに、どうしてみんな僕のいじられネームを知ってるんだ?

 いや、夢か幻なんだから知っててもおかしくはない。

 そうそう、夢か幻なんだよ。


 だから、巨大な蚊がいようが怖がることはない。たとえ、動きを止めて、こちらを向いていたとして……も……


「……」


 蚊の動きが止まっていた。止まっていると言っても、空中で停止飛行をしている状態で、その巨体の正面に僕をとらえていた。

 とらえられていた。


「……し、正気に戻っちゃったかな?」


 多分そうだろう。

 僕が右へ移動すると、巨大蚊はそれに合わせて体を左に向け、左へ移動すれば、やはり右に向けてくるし。


 ……これ、マズイだろ。

 超ロックオンされてるよ。


 相手は自分よりはるかにデカい蚊。

 そんなのに襲われたら一瞬で血を吸い尽くされてしまう。


「ち、ちょっと、みなさん」


 助けを求めようと四人を見る。


「……」


 全員後ろの方へ避難していた。

 悪魔かこいつら……。


 そんな悪魔のうちの一人である金髪さんが、蚊のいるほうを見て口を「あ」のカタチにした。

 理由を察してすぐに視線を蚊へと戻した。


 僕の血を吸う気まんまんな巨大蚊は、一旦地面に降りて、羽を激しくバタつかせ、体を前に傾け……


 ビュッ


 弾かれたように、僕目がけて飛んできた。


「ハ、ハハ……で、でもでも、こ、ここって現実じゃないから、し、死なないから、た、助けなんていらないし、こ、怖がることも、よ、避ける必要も……って、無理!」


 伏せして避けた。

 現実であろうがなかろうが怖い。

 避けて当たり前。


 巨大蚊は、しゃがんだ僕の上を突風のように通り過ぎていった。


「あ、あぶねぇ~……」


 体当たりのような突進だった。今の一撃をくらっていたら、血を吸われる前に槍のような口針に刺されてお陀仏だったろう。


「か、蚊ってあんな攻撃したっけ? フワフワ飛んできて体に止まって血をチューチュー吸うんじゃないの?」


 不思議に思いながら立ち上がり、蚊が飛んで行った先へ目をやる。

 巨大蚊は、七~八メートル程離れたところにある立派な木の幹につかまり動きを止めていた。


 だが、すぐにまた羽をバタつかせ、宙に浮き、ホバリング状態のまま、僕に照準を合わせてきた。


「なんでこっち向くの!? どうして僕を狙うのさ!? あっちに四人も固まってるでしょ!? 人間が! 四人も!」


 通じるわけもないだろうが、巨大蚊へ向かって大声で文句を言った。


 巨大蚊の攻撃を避けた結果、四人のいる場所は、僕のいる場所より少しだけ蚊との距離が近くなっていた。なのに狙いは僕。


 なんで?

 あっち四人いるから?

 強そうだから?

 てゆーか僕が弱そうだから?

 動きが鈍そうだから?

 簡単に血を吸えそうだから?


 ……全部当てはまるんだろうな。


 だってあっち剣とか持ってるもん。

 防具とか着けてるもん。

 僕パジャマだもん。

 そらこっちくるよ。


 見た目で判断ができるのかどうかわからないが、生物の本能的なもので品定めした結果、こいつなら余裕でいけると思われたのかもしれない。

 今のはなんとか避けることができたが次はどうなるか……。


 こりゃもう助かる方法は一つしかない。


「おーい! おーい!」


 四人に呼びかける。

 あの変人達に助けてもらうしかない。


「おーい! 助けてー! 本気でヤバい! 本気でヤバいから! お願い! このとーり! 頼んます!」


 両手を合わせて懇願した。

 が、それを聞いた四人のウチの赤髪ビキニは、ノーリアクション。無表情でただこっちを見てる。

 真っ黒ドレスは、僕と同じく両手を合わせてる。ご愁傷様ってこと?

 金髪ガーターベルトは、「イッケーーーッ! バハムートーーーッ!」。

 彼女はアホなのかもしれない。


 で、そこそこ期待していた水色のイケメンは、両腕をそれぞれ左右へ広げて、肩をすくめ、ハの字眉毛で目ん玉上向けて首を左右に振っていた。

 言葉にするなら「ヤレヤレ、何言ってんだか。どうして僕がお前を助けなければならないんだ?」ってとこだろう。


 あいつスゴイな。

 ゼスチャーだけで、こんなに人をイラつかせることができるなんて。


「四人いて誰一人助ける気はないってか……」


 だったら、自分でどうにかするしかないんだけど……助かったら憶えてろよ。

 とくに水色のイケメン。


 頭の中から人でなし四人を追い出し、巨大蚊に意識を集中させる。


 しかし、あらためてその姿を確認するが、勝てる気も、策も湧いてこない。

 焦る気持ちと一緒に、諦めの気持ちも生まれてきてしまう。


「何か……何か助かる方法は……」


 それでも、と思い必死に考えと首を巡らせる。

 すると足元に、昇り始めた太陽の光をキラリと反射させるモノが。

 筒型で、赤と白でカラーリングされ、文字が書いてある……


「あ! コレ!」


 僕は、急いで見つけたモノを拾い上げた。

 初めまして!

 お目を通していただきありがとうございます!

 描写表現不足な点は多々あるかと思いますが、せめて誤字脱字のないようこれからがんばってまいります!

 どうぞよろしくお願いいたします!

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