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第四章・告げられた真実

 クローリナス北の険しい山々を抜け、あたし達はようやく、四大魔術師ガーランド・カパドキアの住むという村へやってきた。

 ……うーむ。四大魔術師と言うくらいだから、どんなに立派な屋敷に住んでるのかと思いきや……目の前にあるのは、今にも崩れそうな小さな家。台風が来たら一発で吹っ飛んじゃいそうだ。ほんとにこんな所に住んでんの?

 トントン。アレスタがドアをノックする。

「来たか……入るがいい」

 中から声がした。アレスタはドアを開け、中に入る。あたしもその後に続く。

 外見はボロ小屋だけど中は立派な家……なんてあたしの期待もむなしく、中も似たようなもんだった。ただ、部屋の壁という壁全てに棚があり、本やら薬品やら得体の知れない道具やらが並べられていた。それを見ていると、偉大な魔術師の部屋、という気がしてこないでもない。

 部屋の奥には二人の人がいた。机で本を広げている黒い髪の男の人と、その側に立っている赤い髪の女の人。男の人が、多分ガーランドさんかな? その姿を見て、あたしはビックリする。杖を突いた白髪で髭もじゃのおじいさんを想像してたんだけど、どう見ても三十代くらいにしか見えない。澄んだ目、高い鼻、優しい口許。そして、肩まであるサラサラの髪と、そこからのぞくピンと尖った長い耳が、非常に印象的な人だった。

「エルサ、お茶でも入れてくれ」

 ガーランドさんは本を閉じ、そばに立っていた女の人にそう声をかける。お弟子さんかな? 燃えるような真っ赤な髪の女の人。この人も、長い髪の毛の間から尖った耳がのぞいてる。歳はあたしよりも少し上くらい。女のあたしですら見とれてしまうほどの、すっごい美人。ああ……あたしもあんな顔に産まれたかったなぁ。そりゃあたしだって、かわいくないとは言わないけど、絶対に美人ってタイプじゃ、ない。残念なことに。

 エルサと呼ばれた人は奥の部屋からお茶を三つお盆に入れて持ってくると、それを部屋の真ん中にあるテーブルの上に置いた。

「さて……アレスタ・カミュと……ミカ・バルキリアルだったか……」

 ドキ。この人、何であたしの名前知ってんだろう? 光の戦士のアレスタはともかく……。

「まあ、そう恐い顔をするな。とりあえず座ってくれ」

 ガーランドさんに言われるまま、あたし達は席につく。

「お前たちに話すべきことはいくつもあるが……まずは何が聞きたい?」

 ガーランドさんは、まっすぐあたしを見つめていた。アレスタではなく、あたしに言っている。うーん。あたしも知りたいことはいくつもある。バハムートのこと、あたしの力のこと。だけど、今はそんなことよりも、自分のことを知りたい。

「さっき、あたしの名前を呼びましたよね? あたしのことを知ってるんですか?」

「ああ、知っている」

「あ、あたしは、一体何者なんですか?」

 ガーランドさんは腕を組み替えた。

「残念だが、それを教えることはできん。だが、これだけは言っておこう――お前の記憶を奪ったのは、この私だ」

「な――!」

 バタン! 思わず立ち上がる。反動で、椅子が倒れた。

 この人が……あたしの記憶を……?

 何で? 何でそんなことを?

 あたしの記憶……あたしの大切な思い出を、何で勝手に奪うのよ!

「まあ、座れ」ガーランドさん、落ち着いた口調で言う。でもあたし、とても落ち着いてなんかいられない。

「何で! 何であたしの記憶を奪ったりしたんですか!」

 バン! テーブルを叩き、激しく詰め寄る。

「……お前の記憶が邪魔だったからだ」

 感情のない、あくまでも冷静なガーランドさんの口調に、あたしの心に黒い炎がともる。自然と手に、力がこもる。

「……よせ」アレスタが言った。

「…………」

 ふう。あたし、大きく息を吐いた。よかった。アレスタが止めてくれたおかげで、少し冷静になれた。あのままだったらあたし、この人に力使ってたかも。あたしは倒れた椅子を起こし、座りなおした。

「……お前にはすまないことをしたと思っている。だが、これは必要なことなのだ。世界を救うために」

 はあ? 世界の平和とあたしの記憶に、どんな関係があるって言うの?

「お前は今、世界で何が起こっているか、知っているか?」

 ガーランドさんの目つきが変わった。視線と言う矢に心を射抜かれたような気がして、あたし、少し気おされる。

 世界で今何が起こっているか? えーと。三年前、突如現れた邪悪な竜・バハムートの強大な力の前に、すでに五つの国が滅び、残る国も対抗する術を失い、世界は滅亡の道を歩みつつある。あたしは、知っている限りのことを話した。

「その通りだ。だがミカよ。あのバハムートが、何故この世界に現れたのか、考えたことがあるか?」

 ……そんなことは考えたこともなかったな。何でだろう?

「――この世界に、バハムートを解き放った者がいるのだ」

「――――?」

 あたしは言葉を失った。

 この世界に、あのバハムートを解き放った者?

 一体何が目的で、あんな魔物を解き放ったんだろう?

「正体は判らん。私は、《災厄》、と呼んでいる 」

「《災厄》?」

「そうだ。私は何百年も前からそいつの正体を追っているが、何者なのか、何が目的なのか、全てが謎だ。判っているのは、数年に一度この世界に現れ、災いを振り撒く、ということだけだ。以前現れた時は、アルディアの王に、人並みはずれた行動力と野心を与えた。今から八年前の話だ」

 え……? アルディアって……アレスタが滅ぼしたっていう、強大な軍事力で世界を征服しようとした、あの国?

「王が生まれ変わったアルディアは数年で強大な軍事力を持ち、次々と他国に攻め入り、世界に混沌をもたらした。これが、《災厄》の狙いだったのだろう」

 《災厄》……あたし達の知らない所で、そんなヤツが動いていたのか……。

「しかし、《災厄》の行動には不可解な部分がある。ヤツはこの地上に災いを振り撒くが、同時に、その災いに対抗する術も与えるのだ」

 災いに対抗する術? 何の事だろう?

「八年前の災い――アルディアの強大な軍事力に対抗する術は、その男――アレスタ・カミュだった」

 ――――!

 アレスタが、《災厄》の災いに対抗する手段?

「貴様も知っているだろう。アレスタは五年前、一人でアルディアを滅ぼした。それまでアレスタは、小さな街の警備隊隊長だった。剣の腕はそれなりにあったが、伝説の戦士と呼ばれるような男ではなかった。そんなアレスタの前に、突如《災厄》が現れ、絶大な力を与えたのだ。強大な軍事大国となったアルディアに、たった一人で立ち向かえるほどの力を」

 ……アレスタの過去に、そんなことが。

 アレスタを見た。悲しい目をしていた。思い出したくない過去を振り返っているような。そんな目。

 ……ん? 待てよ?

「ガーランドさん。じゃあ、もしかして、あたしのこの力……魔物の心を封じる力は――」

「そうだ。《災厄》が、バハムートに対抗する手段として、与えたものだろう」

 ――――!

 この力は、やっぱりバハムートを倒すためのもの……。

 でも……でも、そんなのっておかしい! おかしすぎるよ!

「なんで、そんな重大なことに、あたしなんかが選ばれたんですか?」あたしはまっすぐにガーランドさんを見つめ、強い口調で聞いた。

 そうよ。何でこんな力を、あたしなんかに与えたの? あたし、記憶は無いけど、どう考えたって、普通の人間。この力は強力だけど、これだけであたしがバハムートを倒せるとは思えない。アレスタと出会ったあの森の中で、ピンク狼の群れや超ヘンテコ魔獣に襲われた時、そのことがよく判った。この力だけで、あたしにバハムートは倒せない。この力、あたしなんかじゃなく、光の戦士アレスタや四大魔術師ガーランドさんに与えた方が、よっぽど役に立つのに。

「《災厄》がお前を選んだのには、もちろん理由がある。五年前、アレスタが選ばれたことと同じように。だが、それは私の口からは言えない。アレスタも、五年前のことは言わないだろう」

 アレスタを見た。恐い目で、ガーランドさんを見ていた。

「……すまん、少ししゃべりすぎたな」ガーランドさんは自嘲気味に笑った。「そうだな……これだけは言っておこう。《災厄》が、災いに対抗するために与える力には、必ず、大きなリスクが伴うのだ」

 リスク? 何のことだろう?

「五年前、《災厄》から得た力で、アレスタはアルディアを滅ぼした。しかし、その力はあまりにも強大すぎた。アレスタ自身には抑えきれず、暴走し始めたのだ。それは、アルディアの軍事力よりも、はるかに危険なものだった。放っておけば、世界は滅びたかもしれん。だが私は、その力を封じることができた」

 ガーランドさんは、大きく息を吐く。「……もっとも、いつまで封じることができるかは判らんのだがな」

 重苦しい沈黙。アレスタが世界を滅ぼす? そんなことがあるの?

「……まあ、今のところその危険は無いから安心しろ。現時点での脅威はバハムートだ」

「つまり、あたしがこの力を持つことには、大きなリスクがあった、ってことですか?」

「そうだ。私はそのリスクを回避するために、お前の記憶を奪ったのだ」

「――――」

 なんと言っていいか判らなかった。だから、黙っているしかない。

 この世界にバハムートを放った者《災厄》。

 バハムートを倒すために選ばれたあたし。

 バハムートを倒すための力。この力を持つには「リスク」が伴う。五年前、アレスタが世界を滅ぼしかけたように。だから、ガーランドさんはあたしから記憶を奪った。

 つまり――あたしの記憶には、世界を滅ぼしかねない「何か」があるってこと?

 そんなの……酷すぎるよ。

 あたしは、自分の記憶に世界を救うための何かがあると信じて旅をしてきた。それなのに、本当は全くその逆で、世界を滅ぼしかねないだなんて……。

 今まで歩いてきた道を否定されたような気がした。先が、見えなくなった。

「……あたしは、これからどうすればいいんですか?」

「もちろん、バハムートを倒すのだ。それが私の、そして、世界の望みだ」

「あたしには、荷が重過ぎます」

「判っている。だが、残念ながら、お前に頼るしかない」

 ……言い難い事を、はっきりと言うな、この人は。そういう人は嫌いじゃないけど、この人だけは別だ。あたし、絶対に好きになれそうにない。

「すでに気づいているだろうが、お前のその力だけでは、バハムートを倒すことはできない。力は強力だが、効果を発揮する範囲が狭すぎる。お前では、バハムートに近づくことすらできないだろう」

 ……判ってるよ、そんなこと。

「その為に、アレスタの力が必要なのだ。五年前、その力の大半は封じたが、それでも、私などよりもはるかに強大な力を持っている。しかし、アレスタだけでもバハムートを倒すことはできない。お前達二人の力が必要なのだ」

「…………」

 あたしはそれ以上、何も言うことはできなかった。

「……狭い家だが、今夜は泊まっていけ。一度に多くのことを話しすぎたかもしれん。一晩、よく考えることだ」

 ガーランドさんは席を立ち、しばらくして、アレスタも部屋を出た。あたしはその場に座ったまま、しばらく動くことができなかった。


 夜。あたしは家の外に横になり、ぼんやりと、空を眺めていた。星が綺麗だ。見ていると、心が落ち着く。何も考えなくていい。世界のことも、あたしのことも――。

「綺麗でしょ?」

 いつの間にか隣に、ガーランドさんと一緒にいた赤髪の女の人が立っていた。「空気が澄んでるからね。街で見るよりも、星の輝きが全然違うのよ」

「えっと……エルサさん……でしたよね」

「エルサでいいよ。ミカ」にっこりと微笑み、あたしの隣に座った。

「――ガーランド様のこと、あまり悪く思わないでね。あの人も、好きであなたから記憶を奪ったわけじゃないから……」

 ……それは判ってる。ガーランドさんは、世界を救うためにあたしの記憶を奪った、って言った。そう思うようにしている。でも、頭ではそう思えても、心はそれを許さないんだ。あたしは、おもちゃじゃない。

「あの人はね、もうずっと、《災厄》と戦ってるんだよ――」エルサがすごく遠くを見つめているように見えた。「何百年……いえ。もしかしたら、何千年も前から――」

「何千年も生きてんのか、あの人……だから、簡単にあたしの記憶を奪ったりできるんだね」

「え?」

「あたしの歳、記憶が無いから正確にはわかんないけど、せいぜい二〇歳くらいだと思う。産まれて二十年。二十年なんて、何千年も生きてるあの人にとっちゃ、ほんの一瞬の期間でしかないんだろうな。だから簡単に記憶を奪えるんだ。でもね、あたしにとっては、人生の全部なのよ。何千年も生きてる人に、二十年しか生きてないあたしの気持ちなんかわかんないだろうけどね」

「じゃあ聞くけど――あなたに何千年も生きている彼の気持ちが判るの?」

「え――?」

 急にエルサの口調が厳しくなったので、あたし、驚いて顔を上げる。すごく恐い顔で、あたしを見ていた。

「たった二十年しか生きてないあなたに、何千年もの間、正体も判らない敵と戦ってきた彼の気持ちが、判るの?」

 …………。

 言葉が出てこなかった。

 せいぜい百年しか生きることができないであろうあたしにとって、何千年を生きるなんて、想像もつかない。

「――ごめんなさい、変なこと言って」エルサの険しい顔が崩れ、さっきまでの笑顔に戻った。「あなたの言うことはもっともだわ。突然、理由も判らず、記憶を奪われたんですもの。彼を恨むのも当然よね。あなたの言うとおり、あなたにとっての二十年と、彼にとっての二十年が違うことも事実。でもね、彼は決して、たかが二十年、なんて思って、あなたから記憶を奪ったんじゃない。どうしてもそうしなければいけなかったから、そうしたのよ。あなたに恨まれることになっても」

 ……すごいな、この人。エルサ。

 ガーランドさんのこと、本当に、想っている。ほんの数分話しただけだけど、それが十分に伝わってきた。まあ、どんなに弁護されたって、あたしはガーランドさんのことは好きになれそうに無いけど、でも、この人のことは好きになれそうだな。

「……そうだね、あたしの方こそ変なこと言って、ごめんなさい」あたし、素直に謝る。あ、誤解しないでね。あたし、ガーランドさんに悪いこと言ったと思って、謝ってんじゃないよ。エルサに悪いこと言ったと思ったから、謝ったの。

「ああ、いいのいいの。ゴメン。そんなつもりじゃなかったんだけど。あたし、ダメだな。ガーランド様のこと悪く言われると、つい、ズカズカ言っちゃうのよね」

「よっぽど好きなんだね、あの人のこと」意地悪い顔で言ってみた。

「そそそ、そんなこと無いよ! 何言ってんの!」

 エルサ、見る見る真っ赤になって、ドモリながら否定する。あらら、さっきまで美人のお姉さんって雰囲気だったのに、急にかわいらしい女の子になっちゃった。カワイイ。

「あ、そうそう! これ、ガーランド様から――」まずい話題から逃れるためか、エルサは一枚の紙を取り出した。

「ん? 何?」

 受取る。それは地図だった。エイミス村に王都クローリナス。その間の森――アレスタと出会った森ね――そして、この村の位置が記されていて、そこから少し西に離れたところに、印が付けられてあった。

 エルサ、急に真剣な顔になる。「そこに、あなたの記憶がある」

「――――!」

 意外な言葉に、あたし、言葉を失う。

「ガーランド様の書庫みたいなもんかな。そこに、あなたの記憶は保管されている。握り拳くらいの大きさの、宝玉みたいなものがあるの。それに触れれば、あなたの記憶は戻るそうよ」

「で――でも! 何で、こんな物を? あたしの記憶が戻ると、まずいんでしょ?」

「彼は言ってたわ。あなたに世界を救いたいと願う強い意志があれば、例え記憶が戻っても、決して選択を誤るようなことはしない。必ず、アレスタと協力して、バハムートを倒してくれる。世界が滅びるようなことにはならないって。あなたを信じてる、ってことだよ」

「――――」

「まあ、あなたが自分を信じられないと言うのなら、先にバハムートを倒してから、行ったほうがいいわね。それは任せるわ。一晩よく考えて選びなさい。じゃあ、あたしはこれで。おやすみ――」

 そう言って、エルサは家の中に戻った。

 あたしは、手渡された地図を、じっと見つめる。

 ここにあたしの記憶がある。探し求めた、あたしの記憶が。ここに行けば、あたしの記憶は戻るんだ。

 でも――。

 あたしの記憶には、世界を滅ぼしかねない「何か」があるのだ。

 以前から感じていた不安。あたしの記憶が呼び起こされようとする時、不安と言う名の刃が心に突き刺さった。それは、このことを予感していたのかもしれない。

 あたしは、どうすべきだろう――。


 朝を迎えた。あたしとアレスタが、旅立つ時。

「じゃあ、がんばって、ミカ」

 見送ってくれたのは、エルサ一人。ガーランドさんはいない。何か調べものがあるとかで、昨日の夜からいないのだそうだ。

「ん。いろいろありがとう、エルサ。ガーランドさんにも、一応、お礼を言っといて」

 あたしは、一応、という部分を強調して言った。感謝する気にはなれないけど、いろいろ教えてもらったのは事実だから。

「ええ、判ったわ」エルサはクスリと笑った。

 そして、あたしとアレスタは旅立った。

 バハムートを倒すため――じゃない。あたしの記憶を取り戻すために。

 あたし、世界のみんなには悪いけど、やっぱり自分のことを知りたい。このままバハムートと戦っても、勝てる保証なんかどこにも無い。自分のこと何も知らないまま死ぬのだけは、絶対にイヤ。だからあたしは、記憶を取り戻したい。

 今朝、あたしはアレスタにそのことを話した。これは、完全にあたしのわがままだ。まずバハムートを倒し、その後で記憶を取り戻しても、何も変わらない。先に記憶を取り戻すのは、自信がないからだ。バハムートを倒す自信が。

 でも彼は、あたしを責めることはなく。

「これはお前自身のことだ。お前がそう決めたのなら、それでいい。例えお前の記憶に世界を滅ぼす何かがあったとしても、俺はお前を信じている。お前が世界を滅ぼすはずはない。だから行こう。記憶を取り戻しに」

 そう言って、アレスタは微笑んだ。初めて見るアレスタの笑顔。あたしは一生忘れないだろう。彼の笑顔と、この言葉を。

 あたしを信じてくれたアレスタ。

 そうだ。ガーランドさんも言ってたそうだもん。あたしに世界を救いたいと願う強い意志があれば、記憶が戻っても、世界が滅びるようなことは無いって。

 あたしは、弱い人間だ。心を封じる力があったって、弱い人間であることに変わりはない。

 でもね、アレスタと一緒なら、何でもできるような気がするの。

 ……おかしいよね、あたし、アレスタと知り合って、まだ一ヶ月も経ってないってのに。

 でも、これだけは言える。

 アレスタがあたしを信じてくれるなら、あたしも自分を信じられる。

 だから行こう。記憶を取り戻しに。

 例えそこに世界の破滅が待っていたとしても、アレスタと一緒なら、乗り越えられる気がするから。

 アレスタと一緒なら、大丈夫だから――。


      ☆


「……明奈」

「ん? 何?」

「何だか、複雑なことになってんな」

「んーそうだね。気をつけないと、その辺から、こんがらがってくるかもね」

 そのこんがらがる一端を明奈が担っているように思うが、それは口にしない。

「話をまとめると、ミカの記憶には世界が滅亡しかねないほどの何かがあり、それを避けるため、ガーランドが記憶を奪った、ってことだな」

「そ。それでもミカは、記憶を取り戻したかった。だから、ガーランドの書庫に行ったんだね」

「記憶を取り戻すところはまだ読んでないから、何があったのかは判らないが、記憶が戻ったミカは、第六章でアレスタを殺すことになる。それで、バハムートを止めることができなくなり、第七章で暴れ出すことになった。……そうか。ガーランドが心配したのはこれだったのか」

「そういうこと。判ってるじゃない。じゃ、次これね」

 そう言って明奈は新たな章を取り出した。いよいよミカの記憶の話か? それとも、バハムートが暴れた後の話か?

 明奈がくれた束には……「第一章・記憶を失った少女」とあった。

「――明奈」

「何よ?」

「今さら一章に戻る必要があるのか?」

「だってしょうがないでしょ! そこしか見つからないんだから!」

 ……何故キレる。

 まあ仕方ない。バラバラにしたのは俺だ。どうせ全部読むつもりだしな。俺は第一章を読み始めた。

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