第七章・破滅への道
あたしはバハムートの炎に焼かれる街を見て、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。一ヶ月前に訪れた時は賑やかだったこの街も、今は見る影も無い。
「お前は選択を誤った。その結果が、これだ」
ガーランドさんが言う。その言葉は、はっきりと、あたしを責めている。
そう――これは全て、あたしののせい。あたしが、この事態を引き起こしたんだ。
炎は街を覆いつくし、空を焦がす。バハムートはその様子を満足そうに上空から眺めていたが、やがてそれにも飽きたのか、新たな獲物を探すかのように、ぐるりと見回す。目に入ったのは、街の中央にある、ひときわ大きく、美しい建物――クローリナス城だった。大きく羽ばたき、城へ向かって飛ぶ。
街は混乱状態だった。街の外へ避難する者。バハムートに立ち向かおうとする兵士達。逆方向に走る人の波が路上でぶつかる。泣き叫ぶ子供、罵声を上げる男。狂ったように逃げる女。あたしは、その様子を見ていることしかできない。
「行ってくる。何とかバハムートを止めてみよう」ガーランドさんが言った。
「できるんですか?」あたしはわずかな希望を込めて、そう聞いた。もちろんだ、と、言ってくれることを期待して。
しかし、ガーランドさんの答えは無情だった。「私にそれができるなら、とっくにやっている」
そうだ。四大魔術師の力をもってしても、バハムートを倒すことはできない。だからガーランドさんは、アレスタとあたしに、すべてを託したんだ。
「まあ、少しくらいは時間を稼げるだろう。それまでに、何とかやつを倒す方法を考えるのだな」
「何とかって……何ですか?」
「――判らん」
ガーランドさんは城へ向かって駆け出し、すぐに人ごみの中へ消えた。
どうしよう? あたしはどうすればいいの? 考える。でも、判らない。今のあたしに、一体何ができるっていうの? 教えて、アレスタ! あたしは叫ぶ。いつもあたしを導いてくれた人の名を。しかし、彼は答えてくれない。あたしの側に、いつもいてくれたあの人は、もういない。アレスタ・カミュ――彼の存在が、あたしにとってどれだけ大きかったか、今になって思い知る。
「アレスタ。あたし、ひとりじゃ何もできないよ。あなたがいないと、あたしは何もできない。だからお願い……助けて……助けてよ……アレスタ……」
でも、あたしの願いは届かない。どんなにアレスタに助けを求めても、それは叶うことはない。ただ、彼がいないという現実を、改めて思い知るだけ。彼はもういない。バハムートを倒せる唯一の希望だった彼は、もういない。
世界の破滅は、もう止められない。
そして、それは全て、あたしのせい――。
☆
「……明奈よう」
「ん? 何?」
「なんかこう、むずがゆいと言うか、ストレスが溜まると言うか……何があったの? 四章から六章の間に」
「んーっとね、ミカの記憶が――」
ヤバイ。直感的にそう感じた俺は、慌てて叫ぶ。「あーっと! いい。言わなくていい。なんかそこ、すごく重要な気がする。だから、お前の説明じゃなく、実際に読みたい」
「そう。でも、まだ見つかってないよ、四章から六章」
明奈は俺が読んでいる間に、バラバラになったページをつなぎ合わせて、とりあえず、ある程度読める状態にしてくれているのだ。残念ながら俺が読みたいと思う所は、まだ読めないようだ。
「代わりに、ハイ、これ」
明奈、そう言って新しいページの束をくれる。そこには「第二章・出会い」と書かれている。
「明奈、出会いってまさか……」
「うん。ミカとアレスタの出会いだよ」
「……もうかなりクライマックスに来てたような気がするんだけど、何でここであえて第二章に戻る?」
「いいからいいから。それ読んでる間に、悦司の読みたいとこ、探しておくから、ね」
仕方が無い。まあ、ミカとアレスタの出会いも気になるところではある。俺は第二章を読み始めた。