幸せな世界
――その時、私は100人の幼女に囲まれモフモフとしていた。
より詳しく具体的かつ熱情的に述べるとするならば、色素の薄く小柄でほっそりとした少女がそのあどけない相貌で以て私の周りに集い、ある者は腕に背中に体を寄せ朗らかに笑い、ある者は私の膝を枕にすぅすぅと寝息を立て、またある者は一歩二歩離れた地点から構ってほしそうな目でこちらを眺めていたので撫でていたりしたのだが、まあこれはどうでも――よくは無いな重要だ重要なことだきわめて重要なことだ。
微かに漂う甘い匂いが、楽しげな声が、肌に心地よい体温が、その至高と呼ぶべき見目麗しさと共に感覚をくすぐり、たまに交わす親愛のキス――口付けだの接吻だのという生々しい表現はこの際無粋であり、キスはキスなのである――の刹那の口に残る、先ほどあげた飴の甘さも合わされば、まさに五感の全てが幼女に融けているとも言える。
そう――私の全ては、幼女の中にあった。
幼女は私の全てであり、私の全てもまた幼女にあった。
それはすなわち私も幼女であることを意味し、幼女として持ちうる素質の全てが世界にあることも意味していた。
そこに人種だ、主義だ、などという貴賎は一切存在しない。
様々に存在するがいずれも"愛しさ"があり、麗しく、何物にも何者にも汚されることのない無垢が在った。
かわいい、愛しい、尊い――
心の中で囁きながら、傍らの長い髪を撫でると、くすぐったそうにその持ち主は目を細め、身をよじる。
その際にほんの一瞬だけ触れた肌の質感と温度に刹那的な快楽と興奮を覚えるがそれを表情には出さないのは淑女の嗜みだ。
辺りは明るく、暖かく、柔らかい風が撫ぜ、彼女らのはためく髪が、真っ白いワンピースが、その動的を表す。
世界はどこまでも、いつまでも平坦だ。いや、平和だ。
目の前の、いや全身に感じる彼女らがそれを証明し、それら全てが世界であるために世界はそうで在り続ける。
美しい、と思う。
素晴らしい、とも思う。
なだらかで、平和で、それらを至高とする様は、恍惚とすらさせる。
衣服から伸びる柔らかな肢体は未熟でありながら全ての美を体現する。
当然だ、世界はそれで充足しているのだから。
成長する存在など、老いる存在などありはしない。
当然だ、そんなモノは世界ですらない、くだらない切れ端にすぎないのだから。
私が微笑むと、彼女らも笑った。
私が軽く手のひらを掲げると、彼女らはそこに自身の手のひらを重ね合わせ、嬉しそうに笑った。
その存在だけで世界を満たす幼女たち。
成長途上の持つ美的精神を極限まで主張する体躯は、世界の在り様そのままだ。
愛しているよ。
幼女らを抱き上げ、私は口にする。
彼女たちもまた、同じように口を開き、
「おい、起きろ」
…………?
はて、と首を傾げる。
今、予想していたのとは別のナニカが聞こえたような。
聞き違いだろうか。幻聴だろうか。
たぶんそうだろう、在り得るわけがない、この至高の世界に
「起きろ、阿呆。いつまで寝ぼけてるつもりだ」
……幻聴ではなさそうだ。
しかも、野太い男声だ。
小汚い、低い声。
「そろそろ寝すぎだ。
夢に浸るのもいい加減にしろ、でないと――」
言葉と、一拍の間。
次いで――"打撃″が、私の意識に降り注いだ。