Intermezzo-I
煌宮では煌帝シャイナードが自室で頭を抱えていた。
「どうなされたのですか、閣下? 」
心配しているかのように妃であるレイラが声をかけた。
「事もあろうに、セイリウスが星剣アストリアを持って家出したのだ…。」
大国アストリアの煌帝とは思えぬ狼狽ぶりにレイラは少々呆れていた。
「妾たちにはレイモンドがいるではありませぬか。星剣を持ち出すなど逆賊にも等しい行い。伐って取り返しましょうぞ。」
レイラからすれば先妻の子であるセイリウスより、実子レイモンドを次期煌帝に据えたかったのだ。
「だが…、星剣はセイリウスにしか抜けぬのだ。」
これにはレイラも首を傾げた。煌族の長であるシャイナードにも抜けぬとは、どういう事だろうかと。
「この国の始祖アストリウスが用いたとされる星剣アストリアは、この帝国の名でもあり、その血を受け継ぐ者にしか抜けぬのだ。」
「では… 」
ようやくレイラも事の次第が飲み込めてきた。
「そうだ。アストリウスの血脈は吾ではなく、亡くなった先妻の方だったのだ。だから吾には星剣は抜けぬ。無論、レイモンドにも抜くことは出来ぬのだっ! 」
これは後妻に収まったレイラにとっては計算外の話しであった。
「妾たち以外に、この事を知っているのは? 」
「セイリウスの家出を知らせにきた執事の爺と教煌イグナートだけだ。」
レイラは少し考えて口を開いた。
「では爺を始末してしまいましょう。そして新たな星剣を造るのです。閣下が本物だと言えば、それが本物。誰も疑いますまい。閣下が抜けぬ星剣など無用の長物です。」
閣下が、とは言ったが本音はレイモンドが、である。
「うむ… だが爺を始末するのはなしだ。吾にとっても長年尽くしてくれた。その… 」
するとレイラは突として扉を開いた。
「誰か在る? 誰か在るか? 」
煌后の声に近衛兵が急いで現れた。
「何事でしょうか? 」
「セイリウスの執事に教煌派と内通の疑いがあります。捕らえて地下牢に軟禁するように。それと、調べはこちらで行います。余計な詮索はしないように。食事以外、近付かず話しもしないこと。長年務めた者、余計な噂の立たぬよう内密に。」
「はっ! 」
近衛兵は二つ返事で執事の部屋へと向かって行った。
「閣下、これでよろしゅうございますね? 」
「あ…あぁ。」
指示を出してからでは良いも悪いもない。
「セイリウスの家出は当面、伏せましょう。始末した後で教煌派の所為に仕立てれば逆賊も役に立つというもの。」
セイリウスの家出に途方にくれていたシャイナードには、もはやレイラの策略に乗るしか思い浮かばなかった。
次回、その頃、星教会では…