Sesto
「大丈夫か、ホーリーっ! 」
帝国軍が引き上げたのを確かめてセイリウスが降りてきた。
「何っ?! 」
セイリウスの顔を見て冷静なクライオスが驚きの表情を見せた。そしてセイリウスにだけ聞こえるように小声で話しかけた。
(何故、殿下がこのような所におられるのですか? )
(成り行きだ、成り行き。それにホーリーが拐われたとなれば助けない訳にいかないだろ? )
クライオスは戦時下、それも煌帝と教煌が敵対していようと変わらぬセイリウスの態度に内心、ホッとしていた。そして、今度はゲイルに歩み寄った。
(サンドロス、疾風の迅将と呼ばれた貴様が何故ここに? 殿下の警護でもあるまい? )
(拙者は疾風迅雷のゲイル、ただの用心棒でござる。彼もまた、姫君の幼なじみのセイル。今はそういう事だ。まぁ、彼が殿下とはな。)
どうやら、ゲイルはセイリウスが煌太子殿下とは本当に知らなかったらしい。実際、セイリウスと将軍たちの接点は少なかった。
「セイ…ル、頼みがある。」
急にクライオスは改まってセイリウスに向き直った。
「今回の件もある。しばらく姫君を預かって貰えぬか? 」
「ちょっと待ったぁっ! 」
急にレインが割って入ってきた。
「頭領のあたい差し置いて何勝手に話し進めてんのさっ! 」
「レイン、これは俺とクライオスの話しだ。これ以上、みんなに迷惑は掛けられない。」
「何が迷惑なものかいっ! 帝国のお宝、星剣アストリアと星教会の姫君連れて一人で逃げ切れると思ってるのかい? 」
そこに今度はゲイルが入ってきた。
「お嬢、落ち着け。クライオス、これはお主の一存だな? 」
「察しがいいな。だが、グラナート猊下には私から上手く説明しておく。星教騎士団から追われる事は恐らくないと思う。」
そう言いながらクライオスが表情を曇らせたのをレインは見逃さなかった。
「奥歯に何か挟まったような言い方だねぇ。ハッキリ言っとくれっ! 」
「組織が巨大になると一枚岩とはいかないのだ。この戦で急激に膨らんだため、私の目が届かない事もある。」
「やっぱり… 」
ようやく口を開いたセイリウスだったが、レインに手で塞がれた。
「やっぱり迷惑掛けられないなんてぬかすんじゃないよ?! 両軍から追われるとなれば、なおさらだよ。将軍様だってセイルと二人っきりより女のあたいが居た方が安心だろ? 」
一瞬何が安心なのか躊躇ってセイリウスとクライオスは顔を見合せ、ホーリーに目をやってから気がついた。その様子を見ながらゲイルは半ば呆れていた。
「確かに。お願いしても宜しいですかな、レイン殿? 」
「くすぐったいから、殿はやめとくれ。レインでいいよ。この義賊レイン・クラウドに任せなっ! 」
恐らくは根拠のないであろう自信を見せるレインだったが、レインが一緒ならばゲイルも一緒という事になる。セイリウスも居る。それにレインの言っていたとおり、ホーリーにも同性の相手が居た方が何かと都合もいいだろう。そんな事を思いながらクライオスは去って行った。
次回、その頃の煌宮では…