Quinto
蒼銀の凍将
「さて、どうやって帰すかだ。」
恐らく、朝にはメイドも気づくだろう。出来れば、その前に帰したい。
「正門から朝の散歩に行ってましたってのは? 」
「ブル、あんたじゃないんだから、寝巻きで散歩って訳にはいかないだろ? 」
レインにそう言われてブルは頭を掻いて引っ込んだ。
「大変だ、お嬢っ! 」
引っ込んだばかりのブルが慌てて戻って来た。
「騒がしい奴だねぇ。どうしたんだい? 」
「外が星教騎士団に囲まれてますっ! 」
セイリウスが剣を持って立ち上がるが、ホーリーがその足にすがった。
「貴方が行っては駄目です。星剣アストリアが煌宮に無いと知ったら、教煌派が煌宮に攻め入る口実を与えてしまいます。それでは戦禍が広まるばかり。ここは、わたくしが止めてまいります。」
そう言うとホーリーは騎士団の元へ行った。
「これはこれはホーリー姫、よくご無事で。」
一団の隊長らしき男の顔を見てホーリーは気がついた。
「あなたは… 星教騎士団の方ではありませんねっ?! 」
「さよう、誰も星教騎士団などと名乗ってはおりませぬ。あぁ、この旗ですか? 」
そう言ってブルが星教騎士団と誤った原因を見上げた。
「ほんの戦利品ですよ。者共、火を放てっ! ホーリー姫を誘拐した盗賊共を始末するのだっ! 」
兵士たちは用意していた松明で次々に火を着けた。古い宿屋である。火が回るのに、そう時間が掛かるとは思えなかった。
「逃げて、セイルっ! 」
ホーリーが叫んだのと、ほぼ同時に宿屋に放たれた炎が凍りついた。兵士たちが波が退くように道を空ける中、蒼く輝く鎧を纏った一人の騎士が歩み寄って来た。
「まさか… なぜ貴様がっ! 蒼銀の凍将クライオスっ! 」
「なぜ? グラナート・セイドルフ猊下の姫君であらせられるホーリー様を星教騎士団員がお迎えに参上したまで。何の不思議があろう? 逆に問おう。帝国軍兵士が何故この場に? それも民家に火を放つなど言語道断であろう? 」
「たっ、垂れ込みがあったのだっ! それにこの宿には盗賊しかおらん。犯人を成敗しようとしたまでだっ! 」
それを聞いたクライオスは小首を傾げた。
「貴殿らの行動、見ていたが、いつの間に盗賊しかいないと確認されたのかな? 手回しが良すぎるような… 」
「き、今日のところは退いてやるっ! 戦場で会った時には覚悟しろっ! 」
相手が蒼銀の凍将では分が悪いと踏んだのだろう。兵士たちは、さっさと引き上げて行った。
予期せぬ形で星教騎士団の将と出会ったホーリーだったが…