Quarto
思わぬ再会
盗賊が雇った五狼月も裏社会では、それなりに名の通った剣士たちであった。だが、ゲイルの代わりとして大金を払って五人も雇ったという事は、一人一人の腕前もまた、それなりであった。三人で斬りかかるもゲイルが二刀を一閃しただけで崩れ落ちた。
「安心しろ、峰打ちだ。」
一方のセイリウスも、やはり剣を一閃すると、こちらは相手の剣を文字通り切り落とした。
「アストリアは峰がないから悪いけど剣を斬らせて貰ったよ。」
こうなると盗賊たちも敵わないのは明白だ。
「覚えてやがれっ! 」
月並みな捨て台詞を吐くと気絶した剣士を担いで姫君を残して逃げ去った。
「剣も見事だが腕も相当だな。 」
ゲイルは二本の刀を鞘に収めながら言った。
「でも逃がしちゃって良かったのか? 」
「あたしらは義賊だよ。殺しはやらない。」
セイリウスの質問に答えたのは戻って来たレインだった。
「殺さなくても、ホ… 姫さん返すまで捕まえとくとか。多分、あいつ等、こっちを誘拐犯に仕立ててくると思うけど? 」
「そ、そんな盗人仁義に外れるような… 」
レインの視線にゲイルもブルも合わせたように首を横に振った。
「だよねぇ… どうしよ??? 」
「御心配にはおよびません。わたくしが皆さんの無実を証言いたします。ねぇ、セイ… 」
「え? セイル、姫さんと知り合い??? 」
「セイ…ル? 」
姫君がセイリウスの袖を掴んだのを見てレインが目を丸くした。
「へへ… ちょっとネ。」
そう言うとセイリウスは姫の肩を抱えて少し離れて背を向けた。
「ホーリー、俺が煌太子って事は伏せといて貰えるかな? 名前もセイルって事で… 。」
するとホーリーは笑顔で頷いた。
「セイリウス様の事、きっと、この戦乱を終わらせるために何かお考えですのね? 」
「そ、そうなんだよ… へへ。」
ちょっと戦争が嫌で煌宮を抜け出したとは言いづらかった。
「申し遅れました。わたくし、煌皇グラナートの一人娘でホーリー・セイドルフと申します。ホーリーとお呼びくださいませ。」
「は、はぁ… 。セ、セイルとは、どのようなご関係で? 」
ホーリーが軽く会釈をしたものだからレインもかしこまってしまった。城だの、教会だののお偉いさんが行事事以外で平民に会釈などあり得ないと思っていたからだ。
「幼い頃から、教会に礼拝にいらしてましたの。ちょっと、やんちゃなお兄ちゃんでした。」
そう言って視線をセイリウスに投げ掛けた。ホーリーの言っている事に嘘はなかった。
「お、幼なじみって奴ね。な、なるほど。と、とりあえず、これからどうするか考えましょ。」
ぎこちないレインの様子を見てゲイルは苦笑した。とりあえずは、誘拐犯として星教騎士団に売られる前にホーリーを返す事が先決であった。
次回、ホーリー返還計画