Secondo
それは小さくて大きな勘違い。
セイリウスは人気が無くなったのを見計らって部屋を出た。今は煌太子の警護より星教騎士団の動向を監視すべく兵が割かれていた。
「父上には悪いけど、俺は自分の反対してる戦場に立つ気はないんでね。」
バレずに出たつもりだったが、廊下が騒がしい。
「やっべ、バレたかな? えっ?! 」
不意に腕を引っ張られて声をあげそうになったが、か細い手に押さえられた。
「静かにおし。あんたが捕まるのは構わないけど、巻き添えはゴメンだからね。」
見ればセイリウスとそう変わらない年頃の少女だった。
「君、誰? 」
少女はセイリウスの質問には答えなかった。
「その服装からすると城の者じゃなさそうだし、ご同業かい? まぁいいや。兵士が行っちまつたら好きに逃げるなり盗る物盗るなりしな。あたしゃ抜けば星散る光の刃と名高い国宝を頂戴しに行くから、邪魔だけはしないでおくれよ。」
それを聞いてセイリウスはニヤリと笑った。
「何が可笑しいんだい? 」
「そんな無駄な事しないで俺を城の外まで連れ出してくれないかな? 」
それを聞いて少女はムッとした。
「どんなに警戒が厳しくても無駄足にはしない。だから、あんたは勝手に行きなっ! 」
辺りを確認して行こうとした少女にセイリウスが声を掛けた。
「行っても無駄だって。星剣アストリアなら、ここにあるんだから。」
そう言ってセイリウスは自分の剣を見せた。
「先客かよ? 譲っておくれよ? 金ならいくらでも出すからさ? 」
さすがにセイリウスも首を横に振った。
「そりゃそうだ。どんな手を使ったか知らないが、せっかく、お宝、盗んできたんだ。それも国宝。簡単には手放せないよな。仕方ない、行くよ。遅れるんじゃないよっ! 」
少女に続いてセイリウスも走り出した。
「いたぞっ! 捕まえろっ! 」
背後で近衛兵の怒声が響く。
「面が割れると拙い。あたし予備貸すから被りな。」
そう言って少女は目出し帽を渡した。途中で破れた時の予備だろうか。近衛兵士に顔を見られるのはセイリウスとしても不都合だ。一応、ターバンのような物は持って来たが、今は巻いている暇がない。セイリウスは渡された目出し帽を素直に被った。それは今まで嗅いだことのない、いい匂いがした。
「向こうの窓から飛ぶよっ! 」
セイリウスたちは城の三階にいた。先ほどの会話から少女が盗賊らしきは判った。ならば逃げ道ぐらい用意しているだろう。もし、用意してなくとも窓の下は堀だ。死ぬことはない。そんな事を考えながら、セイリウスは少女と窓に向かって走った。
「あんた、名前は? 」
「セイ…セイル。セイル・ラティーノ。」
本当の名前を名乗りそうになって慌てて趣味の船の縦帆を名前にした。
「あたしはレイン。義賊レイン・クラウド。レインって呼んどくれっ! 」
こうしてセイルとレインは窓から飛び出した。
そして姫君の物語も動き出す。