IV-Decimo
「な、何言ってんのよ? 勝ち譲るみたいな真似しないで。ちゃんと勝負しなさいよ。それに、あたいがレイラの連れ子だったら、あいつと義兄妹になってたのよ? それに、あいつの気持ちだって聞かないと…。」
突然の事にレインは戸惑っていた。
「父親も母親も違うのでしょ? 血の繋がりが全く無いのであれば星教上、問題はありません。義賊なら義賊らしく、わたくしから、あの方を奪っておいきなさい。それとも、この期に及んで臆病風にでも吹かれてのですか? 」
「だ、誰が臆病風なんか… 後悔しても知らないからねっ! 」
売り言葉に買い言葉、レインは少し緊張しながらセイリウスに近づいていった。それを見てホーリーは小さく頷くと人知れずテラスを後にした。
「ホーリー、良かったの? 」
「フローレンス… 聞かないでよ… 気持ちが揺らぐでしょ… 」
そう言ったホーリーは姉のように慕うフローレンスの胸で泣いていた。フローレンスも、それ以上は何も言わず、そっとホーリーの事を抱き締めていた。それから一週間後。
「あぁ、なんでこんな窮屈なもの着てられるの? あたしは義賊、つまり泥棒よ? ホントに煌后があたしでいいの? 」
コルセットで締め付けられながらレインが騒いでいた。
「往生際が悪いわよ、義姉・さ・んっ! 」
「カトレアっ! あんたねえっ! うぐっ。」
一足先にレイモンドと式を済ませていたカトレアに食ってかかろうとしたレインに対し、コルセットを締め上げるフローレンスの手に力が入った。
「これは失礼。妃殿下も今日ぐらいはおしとやかに願います。」
「なんで騎士団長のあんたが、こんな事、やってんのよ!? 」
「まだ、内戦終結して間もありません。かといって煌帝不在の状態は一国も早く解消せねばなりません。多くの兵を復興に回しているので妃殿下の警護を兼ねて私が参っております。」
「なんかホーリーの怨… うぎゅ… ろ、肋骨が… 」
「次期教煌として、本日の大司祭を務められるホーリーの気持ちを一番よく御存知なのは妃殿下です。覚悟をお決めください。」
フローレンスの言葉にレインも頷くしかなかった。カトレアがレインにウェディングドレスを着せるとメイクを施した。
「うんうん。これなら、何処の城に潜り込んでも怪しまれないわね。」
「あのねぇっ! 」
「お時間です。」
またもレインがカトレアに食ってかかろうとしたところをフローレンスが遮った。メイクが崩れても時間が押してしまう。フローレンスが先導し、ロングベールの裾をカトレアが持ってレインは控室を出た。




