IV-Nono
「兄上っ! 」
「セイルっ! 」
「セイリウス様っ! 」
ようやく城に辿り着いたレイモンド、レイン、ホーリーが口々に叫んでいた。下からではテラスで何が起きたかは見えなかったが、ゴライアスの大剣の刃の部分だけが宙を舞っていた。
「まだ、踏み込みが甘いが… 致命傷には充分か。お見事です、セイリウス陛下。」
「えっ!? 」
セイリウスの一撃は大剣を断ち、ゴライアスの鎧までも斬り裂いていた。ゴライアスは大の字に倒れ天を仰いでいた。テラスの下からは大歓声が聞こえる。その中でセイリウスはゆっくりとゴライアスに近づいた。
「どういう事だ、ゴライアス? 」
「煌后が… 陛下を討った時点で… 覚悟を決めました。シャイナード煌帝陛下は… セイリウス様に講和を申し込まれようと… 。だが… 煌后は… 陛下の命を断ち… 陛下の遺志を断ち… 講和の道を断とうとした… これは… アストリア帝国の将として… 許されざる事でした… だが… 陛下の仇とはいえ… セイリウス様が… 義母上を討ったとなれば… 善からぬ噂が立つやもしれぬ… だから… 我は陛下の仇を討ち… 陛下が逆賊の我を討つ… これが… 愚将たる我の頭で考えた精一杯… 。」
「も、もう喋るなっ! 今、医者を… 」
呼びに行こうとするセイリウスの腕をゴライアスが掴んだ。
「言ったでしょう… 致命傷だと… ここで医者を呼ばれては… 無駄死にしないでくだされ。民の前で… 一対一で勝ったのです… 堂々となされよ… そして… 善き煌帝になられよ… 」
ゴライアスは安らかな笑みを浮かべて息を引き取った。
「バカ野郎…。本当に愚将もいいところだ。なぁ、御先祖様。こんな結末で良かったのか? 」
セイリウスはアストリアに問いかけてみたが返事は返ってこなかった。そこにセイリウスの勝利を確信したレインたちが上がって来た。
「こ… これは… 」
本当の事を語ろうとしたセイリウスを見てゲイルが無言で首を横に振っていた。ゲイルは城の方から歓声が聞こえると同時に抵抗を辞めた断鎧騎士団から事情を聞いていた。ここでセイリウスが本当の事を語れば、一人の男の命懸けの想いが無駄になる。ゲイルは、それをさせたくなかった。それに気づいてセイリウスも小さく頷くとテラスに立って国民に手を振った。テラスに上がって来た皆から涙が見えないように。そんなセイリウスの様子を見て、ホーリーがレインの背をそっと押した。
「えっ!? 」
「行ってあげてください。わたくしには、この方の舵を取るなど、出来そうにありません。この帝国の大三角帆は貴女に任せます。」
そう言ってホーリーは微笑んでいた。




