IV-Quinto
漆黒の轟将ネグロスの死は驚きをもって帝国軍に伝えられた。
「愚か者たちめ。何故、仇を討とうとせず自害など… 。」
収用された漆黒騎士団の様子から、その最期は明らかだった。もっともレイラが嘆いたのは戦力の喪失である。まともに機能していた二つしかない騎士団のうち一つを一夜にして失ったのである。人数としては一握りかもしれないが指示系統を失われ戦力は半減したとみてよい。
「落ち着け、レイラ。」
「これが落ち着いてなどいられますかっ! 今、直ぐにゴライアスに逆賊の討伐命令を。一刻も早くセイリウスを討ち取るのです。あの者さえいなくなれば、アステリウスの直系はいなくなり全ては陛下の手に戻るのです。きっとレイモンドも戻ってくるでしょう。さぁ、早く命令をっ! 」
レイラはシャイナードの言葉に耳を貸そうとはしなかった。
「吾はアステリウスに講和を申し入れようと思う。」
「な、何をおっしゃるんですか? 帝国の主権を手離すというのですか? レイモンドはどうなるのですっ! 」
「元々、仲のよい兄弟だ。セイリウスも悪いようにはしまい。」
「それではレイモンドに煌位を諦めろとおっしゃるのですかっ? 」
「いい加減にしろっ! 今まで、お前の望む通り、同盟国を討って領土を広げ、星教団を敵に回して来た結果だ。」
「わ、妾が悪いと仰るのですか? 」
「そうではない。子供たちの為にも二人で責任をとって戦の幕を引こう。」
「わ、妾は何も悪くない… 子供たち? 妾の子供はレイモンドただ1人… 。」
「レイラよ。レイモンドを連れて行ったのは、そなたの産んだレインだ。吾が預けた。」
その言葉にレイラは動揺した。シャイナードがレインの事を知っていた事に。煌帝自らレイモンドをセイリウスの仲間に預けていた事に。そして、次の瞬間にレイラのとった行動は衝動的であり、ネグロスの死、以上に帝国軍にとって衝撃的だった。
「レイ… ラ… 」
それがシャイナード今生、最期の一言だった。そこへ物音に気がついたゴライアスが飛び込んできた。
「陛下っ! 」
返り血を浴びたレイラの姿を見れば誰が刺したかは一目瞭然だった。
「へ、陛下はネグロスの死によって戦況が不利になった事に悲観して錯乱されたのです。当面の間は妾が国政を行い、戦が終わった暁にはレイモンドを新煌帝として戴冠式を執り行います。この国の為にも陛下をここまで追い詰めた逆賊セイリウスを討つのです。力を貸してくれますね? 」
レイラの言葉にゴライアスは明確な意思を示さずにシャイナードの亡骸を運び去って行った。




