IV-Quarto
「こいつは炎刀、海刀。いわば貴様の刀の兄弟だ。どちらの刀が優れているか、試させてもらうっ! 」
その力強さではネグロスの操る刀の方に分があった。だが、素早さにおいてはゲイルが数段上であった。疾風迅雷のゲイルの異名は伊達ではない。それでもネグロスの疾風怒濤の攻撃はゲイルを以てしても、漆黒騎士団を追うには難しかった。
「どうやら、本気でお主を倒さねばならぬらしいな。」
ゲイルは構えを変えた。
「そうだ。その構えだ。一度だけ見たことがある。疾風の迅将サンドロス無情の必殺剣… 確か… 風迅雷牙… だったな。そうでなくては面白くないっ! 行くぞっ! 」
二人は互いに相手目掛けて走り出した。そしてネグロスは突然、炎刀を宙に投げた。
「貴様は正直過ぎるのだよっ! 」
空いた手で懐から拳銃を取り出すと引き金を引いた。だが、ゲイルは構わず踏み込むと雷刀で弾丸を弾き、風刀でネグロスを斬った。
「な… バカな… 」
「貴様は喋り過ぎだ。」
単発銃の一撃は完全にゲイルの虚を衝いたかに思われた。だが、正確過ぎた狙いが裏目に出た。炎刀を手離してしまった時点で勝負は決していたのかもしれない。そして落ちてきた炎刀がネグロスを貫いた。
「この刀は処分させて貰う。風刀、雷刀の兄弟とあれば、凶刃と化すのは忍びないからな。」
ゲイルは四本の刀を持って主亡き漆黒騎士団の後を追った。その漆黒騎士団はレインたちに追いついていた。
「姉上、逃げてください。」
「何、言ってんの? あたいが、あんたの言うことを聞いてあげる義理はないわよ。」
レインは漆黒騎士団と向かい合った。
「おとなしくレイモンド殿下を返して貰おうか。」
「はぁ。あんたらの言うことも聞いてやる義理は無いの。」
「ならば力尽くで… バカな。足が凍りついたように動かん!? 」
剣を抜いた漆黒騎士団たちは全員、身動きがとれなかった。
「凍りついたように、ではなく実際に凍りついているのだ。無理に動くと足が砕けるぞ。」
そこには蒼く輝く鎧を纏った一人の騎士が立っていた。
「まさか… なぜ貴様がっ! 蒼銀の凍将クライオスっ! 」
「どうやら貴様たちの将も討たれたようだな。諦めろ。」
漆黒騎士団の後ろからゲイルが追いついて来た。漆黒騎士団たちもゲイルの手に炎刀、海刀が在るのを見て事態を察した。
「我らは漆黒騎士団。漆黒の轟将ネグロス様と共に在り、共に死するが運命。」
その場で漆黒騎士団たちは自害した。
「あんな男でも部下からだけは信頼厚かったからな。」
クライオスは死んだ漆黒騎士団たちの瞼を下ろした。




