IV-Secondo
「父上、お話しがあります。」
シャイナードの部屋に現れたのはレイモンドだった。シャイナードは注意深く辺りを見回すと静かに扉を閉めた。
「どうやって地下牢から… レイラに見つかると煩いからな。」
レイラの前では憔悴して見えたシャイナードが、この日は落ち着いて見えた。
「逃がしたのは… 爺か? 」
「いえ。姉上です。」
レイモンドの言葉にシャイナードは驚きもせず椅子に座った。
「サンドロスに預けた子は無事だったか。」
「ご存じだったのですか? 」
逆にレイモンドが驚いた。
「レイラは隠そうとしておったようだがな。それで、話しというのは… セイリウスと和解しろと言うのだろ? それは出来ん。」
「何故です父上!? 母上ですか? 」
思わずレイモンドは声を荒げた。
「いや、そうではない。星帝アストリウスがアストリア帝国を建国して千年余り。有史依頼、煌帝が星帝の血を引かなかった事はない。その秘密を星教会は公表してしまった。吾とセイリウスが和解するとなれば、煌位の禅譲は避けられぬ。」
「禅譲なされば良いではないですか。兄上ならば、きっと立派な王になられるに違いありません。」
「であろうな。だが、あやつと吾は理念が違う。吾は同盟関係を裏切り、周辺諸国を武力で制圧した事を間違いだとは思っておらぬ。力を示し国力を増し、領土を広げ、絶対的君主こそが次の千年の礎となる。その為ならば暴君、偽王と呼ばれ後の歴史に汚名を残したとしても悔いはない。セイリウスが真の煌帝であるならば、実力で奪うがいい。そうであれば貴様らの母親も納得せざるをえまい。暫く此奴の面倒を頼めるか? 」
シャイナードの声に応えるように柱の陰からレインが姿を現した。
「あ、姉上!? 」
レイモンドはレインが居た事に気づいていなかったので驚いたが、シャイナードとレインは平然と当たり前のように会話を続けた。
「だから、その呼び方止めなって。それより、あたいに預けてどうすんのさ? 」
「セイリウスは母親に似た。此奴は吾にもレイラにも似ず素直に育った。まぁ、此奴の世話は爺と乳母とセイリウスに任せっきりであったからな。此度の戦に巻き込むには忍びない。吾が勝てば、次期煌帝として。セイリウスが勝てば煌帝の補佐として身の立つようにしてやってくれ。それが頼めるのはセイリウスの知己であり、レイラの実の娘でもある貴様以上の適任は居るまい? 」
「その親心をセイルにも発揮出来なかったもんかねぇ? 」
「セイル? 」
「初めて会った時に、あいつがそう名乗ったんだ。セイル・ラティーノって。」
「そういえば彼奴は帆船が趣味だったな。それに幼い頃は自分の名前をきちんと言えずセイルと言っていたものだ。もう大昔のような気がするがな。レイラの息が掛かった者が来る前に立ち去れ。」
何かを言おうとしたレイモンドだったが、外に足音が聞こえて来たのでレインはレイモンドを連れて部屋を去った。




