Primo
動き出す王子の物語
アストリア帝国は煌帝シャイナード率いる帝国軍と教煌グラナートを支持する星教騎士団および属国とされた元同盟諸国軍の衝突は日に日に激しさを増していった。そんなおり、煌宮と呼ばれる宮廷に戦禍を憂いている男がいた。シャイナードの嫡男である煌太子セイリウスである。
「父上のやり方は間違っているっ! 」
帝国に在ってシャイナードに正面から異を唱える者はセイリウスしかいない。
「そのような事で吾跡を継げるか? 政に宗教を持ち出しては、纏まる物も纏まらなくなる。影響力の強過ぎる星教団は国家の為にならぬのだ。」
ゆっくりとではあるが威圧的な口調でシャイナードは語る。しかし、セイリウスも引き下がりはしなかった。
「だからといって同盟国を制圧したり星教会を弾圧して内線を起こすのはおかしい。それこそ国家、国民のためならないでしょ? 」
「いずれ、煌帝の座に就けば分かる。理想だけでは国家は繁栄できぬのだ。放っておけば教煌の影響力は拡大する。そうなる前に、叩いておかねばならぬのだ。」
「ですが父上っ! 」
「もうよい。下がれ。」
父を諌めようと異は唱えるが、セイリウスの言い分は聞き届けてはもらえなかった。セイリウスと入れ替わりに一人の女性が入ってきた。
「やはり煌太子は弟のレイモンドにあらためては如何ですか? 」
「おぉ、レイラか。聞いておったのか。」
レイラはセイリウスにとって義母にあたる。セイリウスの母アイリス亡き後、後添いとなった貴族の娘である。レイモンドはその実子であり、セイリウスの義弟にあたる。
「そう申すな。セイリウスにもいずれ分かる。」
「では、前線の指揮をさせては如何でしょう? 現実を見れば考えも改まるかもしれませぬ。」
「考えておく。」
レイラは煮えきらぬシャイナードの態度にガッカリして部屋を出た。
「戦場に出してしまえば何が起きても不思議はない。たとえ煌太子といえど敵の手に掛かったとしても… のう? 」
レイラの言葉を扉の前で控えていた一人の近衛兵士は頷くでもなく聞いていた。
自室戻っていたセイリウスの部屋を近衛兵士が訪れ、明日の出陣を伝えた。シャイナードの命令は下ってはいない。だが出陣させてしまえば自分から行くと言い出したとでもシャイナードには伝えれば済む。近衛兵士に不服を言っても、どうにもならないのでセイリウスは話しだけ聞いて返した。
「フゥ… 。そう来たか。こんな事もあろうかと用意はしてたんだ。」
そう言って開けたクローゼットの奥の箱を開けると、そこには庶民剣士の服と立太子の日に煌太子の証として授けられた帝国の名を冠する星剣アストリアが納められていた。
次回は王子の決意と盗賊と。