III-Ottavo
「それで、蒼銀の凍将がこんなところに何の用? まさか、私の出迎えじゃないでしょ? 」
「そのまさかだ。」
クライオスから返ってきたのは意外な答えだった。
「なんで? 私、そんな重要人物じゃないでしょ? 」
「我々は星教騎士団を取り込んだ事で、帝国軍と正面からぶつかる事になる。圧倒的に頭数で劣る我々にとって情報は重要な戦力だ。まぁ、殿下なら重要じゃない人なんて居ないと言うだろうけどね。」
「ぷっ、それ言いそう。やっぱり兄弟なんだろうね、レイモンドも言いそうだもの。」
クライオスは自分の馬に乗ると後ろにカトレアを乗せて走り出した。セイリウスたちは拠点を大星堂に移していた。これは国民にセイリウスとグラナートの和睦を印象づけると共に、ホーリーを父親と会わせたいというセイリウスの意向でもあった。
「そうか… ブルの遺体を探しに行ってくる。」
「お待ち下さい、殿下。」
すぐにでも飛び出しそうなセイリウスをクライオスが呼び止めた。
「我らは、もはや遊軍ではありません。お気持ちは解りますが、自重していただけますか? 」
「しかし… 」
「サンドロスが居れば適任だったのでしょうが… 。ブル殿のお顔は私でも判ります。白銀騎士団にお任せください。」
「すまない。」
クライオスは一礼をすると白銀騎士団を率いて探索に出発した。
「少数精鋭と言えば聞こえはいいが、人手不足は否めないな。今夜の警備は我ら閃光騎士団が引き受けよう。」
ヘリオスは自分の騎士団を夜間警備に当たらせた。
「私たちは… 」
「フローレンスたちは引き続きホーリーとグラナート卿の警護を頼む。」
「それなら、殿下もホーリーと一緒にいらっしゃってはどうですか? その方が私たちも目が届きますし。」
しかし、フローレンスの申し出にセイリウスは首を横に振った。
「父上ならグラナート卿を狙うだろう。でも義母上なら俺を狙う筈だ。的を分散する。なぁに当たらせた外はヘリオスが居るんだ。帝国軍も簡単には侵入して来ないさ。」
フローレンスもそれ以上は言わすに一礼をしてホーリーたちの元に向かった。ゲイルの不在で、どうしても手薄な場所が出来てしまう。その分をセイリウスは積極的に動いた。何事もなく白銀騎士団はブルの遺体を収用して戻ってきた。翌日にはグラナート自ら指揮を執り葬儀が行われた。
「義賊の下っ端にしちゃ、恵まれた葬儀だね。」
遠くの樹の上からカトレアとレインは、様子を見守っていた。
「うん。セイル… セイリウスなら、ちゃんと葬儀してくれると思ったけど、出来すぎだよ。ブルの奴、棺の中でびっくりしてるんじゃないかな。」
「行くの? 」
「あぁ。街の声を聞きながら帝国の様子を探るよ。またね。」
レインが樹から飛び降りるとゲイルと共に走り去って行った。




