III-Settimo
「では、カトレア殿。拙者とお嬢は別行動をとる旨、伝えてもらえぬか? 」
「ゲイル!?」
レインは驚いたが、カトレアは頷いた。
「そうね。ゲイルなら腕は確かだし、私はレイラ一派に面が割れてるし、その方がいいかもね。」
「ちょっとカトレアっ。あんた狙われてんでしょ!? 」
「油断さえしなけりゃ、伝言くらい伝えるわよ。じゃ、レインを頼んだわよ。」
レインの心配を余所にカトレアは去っていった。
「いいの? あのままセイル… セイリウスと一緒にいれば将軍に戻れたんじゃないの? 」
ゲイルはレインの言葉に首を横に振った。
「拙者は頭に拾われた身。宮仕えは性に合わぬ。それに… 」
「それに? 」
「お嬢を守る。ブルの遺志を次げるのは拙者しか居らぬ。」
レインは涙を堪えて頷いた。先代の頭が亡くなり、一味が分裂した時、レインの元に残ったのはゲイルとブルだけだった。だがブルも亡くなり、今度こそ二人になってしまった。
「あの時も言ったけど、このレイン・クラウド、たとえ二人になっても義賊の看板下ろす気はないよ。」
今度はゲイルが力強く頷いた。その頃、カトレアは、またも追われていた。
「まったく、もう。しつこいったらありゃしない。そんなんじゃ女にモテないよ? 」
追っ手は先ほど同様に黒づくめだ。カトレアが夜に行動すると読んでいたのだろう。単独で追ってくるのも目立たないようにだ。
「これから死んでく奴にモテてもしょうがない。」
「あんたら、プロでしょ? あのレイラが私の為に雇うとは思えない。狙いは殿下? 」
「プロが依頼人について語る訳がなかろう。」
「やっぱりプロなんだ。まぁ、あの女。権力への妄執はシャイナード以上のもんがあるからね。よくもレイモンドみたいな子が産まれたもんだ。きっと面倒をセイリウスに押しつけてたんだろうねぇ。」
「ペラペラとよく喋る女だ。そろそろ喋り納めにしてもら… !? 」
黒づくめの男は斬りかかろうとしたが剣が抜けない。そして足も動かなかった。
「夜だし冷えるものね。防寒しっかりし過ぎて凍りついたのに気づかなかったみたいね。」
「彼もプロだ。カトレアの話術に気をとられていた所為ではないかな。」
そこへ蒼く輝く鎧を纏った一人の騎士が歩み寄って来た。
「まさか… 蒼銀の凍将クライオスっ! 」
「夜分に婦女子を追いかけ回すのは関心しないな。君たちの情報は既に得ている。レイラの雇った暗殺集団。生かしておくには危険過ぎるのでね。」
男は氷像と化し、そのまま砕け散っていった。




