III-Sesto
「まったく、あの坊やが… 。」
城を後にしたカトレアはレイモンドの様子を思い出していた。
「何、思い出し笑いしてんのさ、気味悪い。そんなに、あのレイモンドってのが気になるなら城に戻ってもいいんだよ? 」
外で待っていたレインが、からかい半分に声をかけた。
「前にも言ったろ。煌弟の妻なんて柄じゃないし、レイラが姑なんて耐えられないって。」
カトレアは自嘲するように言うと先を急いだ。
「別に気になるならって言っただけで妻とか一言も言ってないんだけどなぁ。」
レインの言葉に、カトレアが赤面したかのようにも見えたが、それ以上は深く突っ込まなかった。二人はブルとの待ち合わせ場所に着いたがブルの姿が無い。
「おかしいな。あたしより遅れてきた事なんかないのに。」
「レインが遅刻ばっかりしてるから… って訳でもなさそうね。」
カトレアの視線の先には黒づくめの人影が立っていた。
「レイア煌妃からレイモンド殿下に近づく不審者を警戒するよう、仰せつかっていた。特に元レイモンド殿下付メイド、カトレア。貴様の動向は要注意とな。」
「お話し中、悪いけど、この辺で大男見なかった?」
男とカトレアの間にレインが割って入った。
「あの脳筋男なら、その辺で冷たくなってるぜ。」
レインはゆっくりと得物を構えた。
「辞めておけ。今日の獲物はカトレアだ。貴様に用はない。邪魔をすると、あの脳筋男のようになるぞ? 」
「そっちに用はなくても、こっちに用があるわ。」
「は? あの脳筋の仇討ちでもするつもりか? 無理に早死にする必要もないだろう? 」
「カトレアは行ってっ。」
「そうはいかない。こっちが用があるのはカトレアの方なんだから。」
レインの目の前から姿を消したかと思うと、男はいつの間にかカトレアの背後に回っていた。そして無言で剣を振り下ろしたが、カトレアには届かなかった。
「ゲイルっ!? 」
見覚えのある背中にレインは思わず叫んだ。
「ゲイル? あんたが疾風の迅将ゲイル・サンドロスか。こんな所で手合わせ出来るとはな。」
「拙者は、ただのゲイル。義賊の用心棒に過ぎぬっ。」
ゲイルは次の一閃で黒づくめの男の息の根を止めた。
「もう少し、早く辿り着いておれば… すまぬ、お嬢。」
「べ、別に、あんたの所為じゃないさ。でも、すまないと思うんならブルを手厚く葬ってやってくれないか? あいつも一応は星教徒だったらしいしさ。」
「殿下の所に戻らないか? 」
ゲイルの言葉にレインは涙を堪えて首を横に振った。




