III-Quinto
「カトレア!? どうしたんだい、その格好は? 」
レイモンドを部屋で待っていたのはカトレアだった。ただ、その格好はいつものメイド服ではなく、動きやすそうなダークパープルの出で立ちだった。
「これが本来の私。城の様子を探りに来たついでに寄っただけ。あんたの事も気になったしね。」
確かに口調も侍女姿の時とは違っていた。
「そうか。メイド服より似合ってるよ。」
「な、何言ってるの? これは… 仕事。そう、仕事着みたいなものよ。」
予想外のレイモンドの反応にカトレアも何故か動揺していた。
「メイド服も仕事着だったろ? きっと今の仕事の方がカトレアに合っているんだろうね。」
「あんた、歳上をからかうもんじゃないの。元気そうで安心したわ。それじゃぁね。」
「待って。」
レイモンドは、去ろうとしたカトレアを呼び止めた。
「何? 」
「僕を義兄さんの所に連れていってくれないか? 」
レイモンドは真顔でカトレアに頼んだ。
「はぁ? 何言ってんの? あんた本気? 」
「もちろん、本気だよ。母上は僕を次の煌帝にしたがっている。アストリア星教会とアストリア煌位正当継承者の義兄さんが手を組んだ今、僕が義兄さんと手をとれば争う理由は無くなると思うんだ。」
拳を握って力説するレイモンドだったが、カトレアを憂いた顔をしていた。
「… まだ坊やね。レイラはそんな事で諦めない。全面戦争になっても、あんたを取り戻して煌位につけようとする筈よ。この城に潜り込んで依頼、ずっと見てきたから間違いないわ。」
「そんな… 争いも収まって、カトレアと、また一緒に居られると思ったのに… 。」
膝をついて、項垂れて涙を落としたレイモンドを、カトレアはそっと抱き締めた。
「男の子が簡単に泣くんじゃないの。あんたは帝国軍を中から止めて。セイリウスは軍と教会の争いを辞めさせたいだけなんだから。兄弟で力を合わせれば戦乱はきっと終わらせられる。それで… 平和になったら、あんたの所に帰って来てもいい… かもね。」
「本当ですかっ! 」
「静かにっ! 」
いきなりレイモンドが大きな声を出して立ち上がったものだからカトレアも慌てた。時遅く、複数の兵士の足音が近づいてくる。
「どうやら、行った方がよさそうね。… またね。」
「ま、また。必ず。必ず平和な世界に。その時は… 。」
レイモンドの言葉にカトレアは頷くでもなく、ウィンクをして去っていった。と同時に扉が開き兵士たちが入ってきた。
「殿下、何事ですか!? 」
「いや、なんでもない。」
兵士たちは互いに顔を見合わせるも、それ以上は何もせず下がっていった。




