III-Terzo
「なぜ、レイモンド様付きのメイドがこんな所に居る!? 」
「あら、私って有名? 貴方、見たこと無いけどレイラ派? 」
追っ手はカトレアの問いに答える事なく剣を構えた。
「ん~。まぁ、認めたようなものね。」
レインも身構える。
「数の優位が、戦力差だと思うなよ。」
「あんた、バカ? そんな事、思ってたらセイル… セイリウスに味方する訳ないでしょ? 」
レインの言うとおり、数ではセイリウスたちを帝国軍が圧倒している。だが、戦術、戦略においてはセイリウスたちの方が統率はとれており、そこに星教騎士団が加わるとなれば、数の上でも帝国軍に迫る。まして民衆の人心までも味方にすれば、シャイナードの立場も危うい。そのくらいの事までは追っ手の者も想像出来た。だが、この男も正式な煌位継承権がセイリウスにしか無い事までは知らなかった。
「煌帝陛下に逆らうなど、逆賊に与する輩には天誅を加えてやろう。」
「やる気出してくれるのね。こっちも、その方が助かるわ。下手に逃げられて私の事、報告される方が厄介だから。」
いつの間にかカトレアが男の背後に回っていた。
「メイド風情が舐め… 」
男はブルとレインの居る前よりも先に女が一人の背後に活路を見出だそうとした。これが一般民衆相手なら正しい判断だったかもしれない。だが、カトレアはそうではない。男の剣をサッと避けると手に握っていた紐を引っ張った。紐と云ってもピアノ線のような頑丈な紐だ。男は一瞬で縛り上げられて囚われの身となってしまった。
「貴様ら、俺が戻らないとどうなるか… 」
「別にセイリウス殿下とグラナート猊下の和睦はバレてもいいの。むしろ、民衆に広めてくれた方が助かるわ。私の正体がバレる方が拙いのよ。」
そしてカトレアは刃を一閃した。
「躊躇無いわね。」
「レインみたいな義賊じゃないからね。それより、早いとこ、埋めちゃいましょ。見つかると、それも厄介だから。」
カトレアは実弟サンダルフの死でさえ利用しようとした煌后レイラの姿を見ている。何を言い出すか分かったものではない。三人が男の遺骸を埋め終えた頃、ゲイルは教会に着いていた。
「よくぞ、来てくださいました。サンドロス卿。」
出迎えたのはメリクリウスだった。メリクリウスも、またゲイルの将軍時代を知る一人であった。
「昔の名は忘れてくれ。今はただの義賊の用心棒、ゲイルだ。」
「義賊… 確かホーリー様誘拐の最初に嫌疑が掛かった… 」
「あれは違う。」
「えぇ、もう嫌疑は晴れています。それより奥でグラナート猊下がお待ちかねです。」
ゲイルは奥へと通された。




