III-Secondo
翌朝になるとセイリウスは書き上げた親書の返事をゲイルに託した。
「すまないな、サンドロス。君なら腕も立つ。手綱捌きも上手い。それに私やフローレンスが行っては騒ぎにもなる。」
「分かっている。」
クライオスにそう返すとゲイルは馬に飛び乗った。ゲイルの駈る馬は風のように駆け出していった。
「さて、今の星教騎士団にどれだけ使える兵が居るのやら。」
陰でゲイルを見送ったヘリオスが呟いた。
「殿下は無条件にグラナート猊下を信用しているかもしれないけれど、クライオスは、もっと現実的よ。グラナート猊下の和睦を受け入れる。つまり、アストリア星教の側からセイリウス殿下を認めた事になる。この国の殆どがアストリア星教徒である事を考えれば、この事実は大きい。」
アストリア帝国。その名が示す通り、煌帝の治める帝政君主国家である。政教分離であり、政のトップを煌帝、星教のトップを教煌が務めている。この2つの立場が互いに協力してきたからこそ、栄華を究めてきた。この2つが対立した事により世論は分裂し、帝国軍がセイリウスを反逆者として表した事で民意は混迷した。しかし、グラナートとセイリウスの和睦が正式に纏まれば、星教団は星剣アストリアの所在とセイリウスの煌位の正統性。そしてシャイナードが在位している事の不当性を公表するつもりだろう。そうなれば、煌帝としての正統性、国教の後ろ支え、国民から支持、全てがセイリウスの元に集まる。これは、近隣諸国がセイリウスを支持するにも正当な理由となる。シャイナードの圧力に頭を悩ませていた国々からしても千載一遇のチャンスと思われる。
「さすが、フローレンス。クライオスとの付き合いが長いだけの事はある。だが、現実的に帝国軍はシャイナードの勢力下にある。この現実は重いぞ? 」
「そう言いながら危機感を感じていると云うより、なにか楽しそうよね? 」
「まぁね。分の悪い賭けは嫌いじゃない。それに、少数精鋭で巨万の勢力を打ち倒した方が、美しいだろ? 」
ヘリオスは自分の美学に忠実であり、ブレる事はない。この点においてヘリオスは信じるに足るとフローレンスも思っていた。その頃、ゲイルは怪しげな気配を感じ取っていた。
「どうやら、気づかれたか。というよりは、帝国軍が最も危惧する事態だからな。警戒していても不思議は無いか。」
追っ手を討ち払うべく馬を止めようとした、その時だった。
「ここは任せて。行ってっ! 」
ゲイルは聞き覚えのある声に状況を察し、馬に鞭を入れた。
「さっすが、事態の飲み込みが早くて助かるわ。」
追っ手の目の前に立ち塞がったのはレインとブル、そしてカトレアだった。




