III-Primo
一昼夜を明かしてメリクリウスはセイリウスの陣営に辿り着いた。城や教会のような明確な拠点が知られていないのは、セイリウス陣営にはよいのだが、お蔭でメリクリウスは辿り着くのに苦労した。
「セイリウス殿に、御目通り願いたい。」
メリクリウスがやって来た事が騒ぎにならなかったのは、白銀騎士団や薔薇騎士団のように星教騎士団出身の者が少なくなかったからだ。だが、だからといって、いきなりセイリウスに会わせる訳にもいかない。まず、クライオスがやって来た。
「久しぶりだな、メリクリウス。グラナート猊下を守護する貴君が遣わされたと云うことは、よほど重要事項なのだろ? 」
「うむ。ここにグラナート猊下からセイリウス殿宛ての和睦に向けた親書をお持ちした。」
その場に居た白銀騎士団がざわついた。
「静かに。」
クライオスの一言で場の空気が凍りついたかのように静かになった。
「拝見しても宜しいかな? 」
「クライオス卿ならば、御随意に。」
見ず知らずの兵が対応したのであればメリクリウスも、こうは言わなかったであろう。クライオスはメリクリウスに手渡された親書に目を通した。
「確かにグラナート猊下の自筆ですね。ですが、この内容… 星教騎士団の指揮権を殿下に禅譲するとありますが、宜しいのですか? 」
「猊下の御意志です。星の教えはセイリウス殿の軍にこそ、正しく息づいているとお考えです。そして、セイリウス殿だけが、煌帝の資格を持っている事を御存知です。つまり、セイリウス殿の軍こそが真のアストリア帝国軍なのだと仰っています。ホーリー様の一件で関係が拗れてしまいましたが、本来はセイリウス殿とは対立する理由が無いとも。」
それを聞いてクライオスは大きく頷いた。
「承知した。猊下と貴君の想いは必ずや殿下にお伝えする。貴君は一刻も早く戻られた方が良いのではないか? 」
「うむ。猊下の周りにも不穏な空気があるのも事実。」
「明日には回答をお持ちしよう。」
メリクリウスは一礼をすると、すぐさま教会へと戻っていった。
「クライオス、罠という事は無いのか? 」
「お父様は、そのような方ではありませんっ! 」
ヘリオスの言葉にホーリーが反応した。
「姫、ここは情に流されてはなりません。この国と兵と民の命が掛かっているのです。」
「いや、ここはグラナート猊下を信用しようと思う。」
遅れてやって来たセイリウスだった。
「しかし… 」
「俺は幼い頃からグラナート猊下を見ている。クライオスやフローレンスだって星教騎士団として見ている。そんな事を言ったらヘリオスだって父上の送り込んだスパイかもしれないって事になるぞ? 」
これにはヘリオスも返す言葉に困ってしまった。




