Intermezzo-IV
組織が崩壊しているのは星教騎士団も同様であったが、状況は帝国軍よりも悪かった。統率のとれていた頃の将軍は誰1人残っていない。白銀騎士団はクライオスに、薔薇騎士団はフローレンスに、それぞれついてセイリウスに合流してしまった。残されたのは寄せ集め集団に過ぎない。
「メリクリウスは居るか? 」
教煌グラナートは1人の騎士を呼びつけた。
「はっ。こちらに控えております。」
「お前に頼みがある。この親書を渡してきて欲しい。」
「親書? ですか。」
メリクリウスは不思議そうに、その親書を受け取った。
「和議の申し入れじゃ。」
「帝国に和議を申し入れられると仰るのか? ならば、このお役目、辞退させて… 」
「慌てる出ない。和議の相手はセイリウス殿だ。あの方の側には、娘のホーリーも居る。取り敢えず、受け取っては貰えるじゃろう。」
「それならば承りましょう。ですが、何故、今頃? 」
「今、ここの兵に教義はあるか? 」
「失礼ながら… 。」
「じゃろう? 儂はシャイナードの行いを正そうとするあまり、道を謝ったようじゃ。星の教えはセイリウス殿の軍にこそ、正しく息づいておる。そして、セイリウス殿だけが、煌帝の資格を持っておる。つまりは、セイリウス殿の軍こそが真のアストリア帝国軍なのだ。彼ならばシャイナードのような悪政は行うまい。今、煌室で星帝アストリウスの血を継ぐ唯一のお方じゃ。ホーリーの件で関係が拗れておったが、本来、彼とは対立する理由が無い。彼が和議を受け入れてくれるならば、教煌グラナートの名に於いて戴冠式を行ってもよい。」
「それは、あの方が受けないでしょう。国を二分する事になります。」
「そうか。そうじゃな。また儂は焦り過ぎる処じゃった。ともかく、その親書を頼む。必ずセイリウス殿に届けてくれ。」
「承知いたしました。必ずや。」
メリクリウスは深々と一礼をするとグラナートの部屋を後にした。ただ、極秘の任務であるが故に教会を出るのも一苦労だ。寄せ集めの兵どもに内容を知らせる訳にもいかないし、渡す処を見られては内通者の謗りを免れまい。メリクリウスは警備の薄い深夜に、こっそりと教会を抜け出した。クライオスやフローレンスが居た頃ならば深夜だからといって警備が薄くなる事は無かった。二人が騎士団ごと居なくなっていたのがメリクリウスには幸いした。
「さて、煌帝の後継は目時がついた。次期教煌についても考えねばなるまい。」
むせ込んだグラナートの手に吐血が広がっていた。




