II-Sesto
「お嬢ぉ。」
「何、ブル。あんたも知ってたんでしよ? 」
レインは振り向く事もなく言った。それは涙を堪えているのか、怒りを抑えているのか、小刻みに震えていた。
「ゲイルの事は、義賊って言っても、盗人の一味に将軍が居るってのはバレると拙いって、お頭から誰にも言うなって言われてたんです。お頭の言う事は絶対でしたから。でも、セイルの事は本当に何も知らなかったんだ。」
ブルの言っている事に嘘はないだろう。そうは思っても、自分に隠し事があった方がショックが大きかった。
「セイルには… セイリオス殿下には正面から、この国を救ってくれって。あたしはあたしのやり方で義賊として信義を果たす。そう伝えておくれ。」
「お断りしやす。」
ブルはレインの意に反して断った。
「おいらはお嬢についていきやす。」
きっとセイルの元に行ったら、その間にレインは一人でどこかに行ってしまう。そう感じたブルはレインの伝言を伝えに行く訳にはいかなかった。
「フッ、仕方ないねぇ。あたしと一緒にいたって苦労するだけだよ? 食うにも困るかもしれない。それでもいいのかい? 」
「へいっ! 食うに困ったらお嬢の分まで金持ちから盗んできますぁ。」
レインにはブルの答えが分かっていた。
「まったく、物好きだねぇ。」
小さく頷くと二人はその場から消えていった。
「やっぱり、飛び出したんだ? 」
二人を待っていたのはカトレアだった。
「何? 潜入はおしまい? 」
「まぁね。あんたが煌太子と一緒に居ないんじゃ繋ぎにならないでしょ? 」
カトレアに言われてレインはセイルたちの情報網の一端を担っていた事を思い出した。それでも隠し事をされていた事実は変わらないし、今さら戻れもしない。
「どうせ、行き場も無いんでしょ? ついてらっしゃい。」
確かに帝国軍に知られた元のアジトに戻る訳にもいかなかった。カトレアについて行くと小さな人一人が入るのがやっとくらいの洞穴に入っていった。事実、ブルなどは擦り傷を作りながら、やっと入ったくらいである。鎧など纏っていては通れまい。だが入り口に対して中は広々としていた。
「さすがカトレア。でも入り口塞がれたらどうするの? 」
「ちゃんと複数、逃げ道は用意してあるに決まってるでしょ? 私を誰だと思ってるの? 」
「はいはい。カトレア様凄いっ! 」
レインは、まるで茶化したように言ったが実際、感謝もしていた。勢いで飛び出してしまったので今夜は野宿を覚悟していたのだから。




