II-Quinto
カップを運ぶ途中、レイラがやって来た。カトレアはいつも通り、端によってレイラが通過するまで頭を下げる。レイラはカトレアの正面まで来ると足を止めた。
「レイモンドの様子は? 」
「変わった様子はございません。」
「大事な時期です。くれぐれも監視を怠らぬように。」
「承知しております、煌妃陛下。」
「ホーリーをレイモンドの嫁にとも考えていましたが、状況が変わりました。貴女を、どこかの王族に養女に出して娶らせる事も考えておきます。期待してますよ。」
レイラはカトレアに一瞥もせずに通り過ぎていった。
(そんな安い餌には食い付いたりはいたしませんよ? )
そんな内心は微塵も見せずにカトレアは下がっていった。
「カトレア、あんたから呼び出してくるなんて珍しいわね? 」
そうカトレアに声を掛けてきたのはレインだった。
「そろそろ、レイラの目が厳しくてね。」
「嘘おっしゃい。あんたがレイラの視線なんて気にする訳ないでしょ? 」
「まぁね。なんか、ホーリーの代わりにレイモンドと結婚とか言われてさ。そろそろ潜入も潮時かなって。」
「なぁに? 玉の輿じゃない。」
「やめてよ。煌弟の妻なんて柄じゃないし、レイラが姑なんて耐えられないって。」
「えっ!? 煌太子じゃなくて煌弟? どういう事? 」
「えっ… まさか… ヤバっ。城の情報纏めといたから、後で読んで。じゃあねっ! 」
城内では公然であったセイルがセイリウスであるという事実。これをクライオスたちが居る中でレインが知らないというのはカトレアにとって想定外だった。案の定、戻るとレイラは詰め寄った。
「セイルっ! あんた、煌帝の息子って本当なの!? 」
「セイルにも事情が… 」
止めようとしたゲイルの手をレインは振り払った。
「ゲイル、カトレアの報告書に書いてあった。あんたも疾風の迅将サンドロスって言うそうね? 」
辺りを見回すが、誰一人、驚いた様子は無かった。
「へ… へぇ… 知らなかったのって、あたしだけなんだ? 皆して、知ってて黙ってたんだ。仲間だと思ってたのに… バカみたい。あんたたちなんかと一緒にやってらんないわっ! 」
レインは飛び出して行った。
「お嬢っ! 待っておくんなせぇ。」
ブルがその後を追って行った。騙すつもりは無かったにせよ、一人だけ知らなかったのは相当にショックだったのだろう。暫くすれば冷静になって戻って来る。誰もが、そう思っていた。
飛び出したレインの行き先は・・・




