II-Quarto
「レイモンド、貴方が来る場所ではありません。」
「ですが母上… 」
「貴方は部屋に戻りなさいっ! 」
「… はい。」
レイモンドはレイラの剣幕に圧され自室へと戻っていった。
(このままじゃ、いけない… 。)
冷静な判断力はあっても、それを実現する力がレイモンドにはなかった。父のような地位も、母のような実権も、義兄のような人望も。あらためて自分の無力さをレイモンドは痛感していた。
(このままでは母上と義兄上も戦争になってしまう。どうすれば… 僕が居なくなれぼ… いや、それでは母上を諌める者が居なくなってしまう。そうなれば母上は何をするか分かったものではない。地下の爺に… いや、地下牢には近づけたものではない。)
「レイモンド様。何かお悩みですか? 」
それは、お茶を運んできた侍女のカトレアだった。レイモンドは姉のように慕っていた侍女に頭を下げた。
「頼む。暇を出された振りをして、義兄上に言伝てを頼めないだろうか? このままでは、この国がバラバラになってしまう。」
それを聞いたカトレアは首を横に振った。
「残念ですが、それは無理というものです。」
「何故だ? 」
「今、城の出入りは将軍以上の地位になければ、自由には出来ません。暇を出されても牢に入れられるか、あるいは… 。」
「そんな… 」
「これだけ離反を招いているのです。内通者に敏感となっているのでしょう。それに人事権はレイラ様がお持ちです。レイモンド様が暇を出す事は出来ません。」
「そんな… 僕は何も出来ないのか… 。」
レイモンドは頭を抱えてしまった。
「そもそも、私はレイラ様よりレイモンド様の監視を仰せつかっております。迂闊な事は打ち明けないでください。今のも聞かなかった事にしておきます。」
「か、監視!? 」
レイラにとってはレイモンドを王にするのが夢である。レイモンドに何かあれば全てが無駄になってしまう。星教騎士団との内乱状態になっていなければ父、煌帝シャイナードさえ殺していたかもしれない。レイモンドは本気で母親に狂気を感じていた。
「大丈夫ですよ。セイリウス様は聡明なお方です。レイラ様の思惑など、とうに、お気づきのはず。それに、名だたる名将の多く、それに従う心ある者たちもセイリウス様の下に集っております。ホーリー姫もまた、セイリウス様に身を寄せていらっしゃるとの事。流れは確実にセイリウス様に傾いております。それに、何より星剣アストリアの御加護がついていらっしゃいますから。」
「カトレア… 君はいったい何者なんだ? 」
いつも城内では側に居て、レイモンドよりもはるかに外の状況を把握しているように思えた。
「いやですわ。私はレイモンド様の侍女ですよ。」
カトレアはそう言い残して空いたお茶のカップを下げていった。




