II-Terzo
「それは確かなのですね? 」
王妃レイラは実弟サンダルフの最期を、漆黒の轟将ネグロスから報告を受けていた。
「星剣アストリアを奪い、煌帝陛下の義弟を殺した逆賊セイリウスを討つのです。わらわが命令は陛下の命令。聞けば、星教騎士団のクライオスも現れたとか。もはや、内通していた事は明白。なんとしてもセイリウスを討ち、星教騎士団を討ち、教煌を捕らえるのです。」
「御意。」
勿論、ネグロスは先に手を出したのがサンダルフであることも、クライオスが既に星教騎士団を抜けている事も伝えてはいた。だが、レイラには、そんな事はどうでも良かった。レイモンドを即位させる為に、利用出来るものは実弟の死すら利用する。そして、そんな王妃の態度に翻意を示す者も現れる。
「ヘリオス将軍、どちらに行かれる? 」
「貴殿等の奸計に乗る気はないのでね。」
漆黒の轟将と閃光の麗将。二人が相反するのは異名だけではない。力こそ正義とするネグロスの剛剣に対して、美しくなければ正義ではないをモットーとするヘリオス。水と油のような二人である。
「確かにセイリウスの周りには、陛下の周りの10倍の頭脳がある。だが陛下には千倍の戦力がある。どっちに付いた方が得か、考えなくても分かりそうなものだ。」
「生憎と分の悪い賭けは嫌いじゃない。それに、少数精鋭で巨万の勢力を打ち倒した方が、美しいだろ?」
ヘリオスの言葉にネグロスが苦笑する。
「美しいか、どうか知らんが、まぁいい。今日の所は見逃してやる。」
「賢明だな。ここには千倍の戦力は無いからな。」
「次に会う時は戦場だ。せいぜい首を洗っておけっ! 」
ネグロスの言葉にヘリオスは答える事なく、その場を後にした。だが、この事態は帝国側にも教団側にも好ましくない状況となった。いかに千倍の戦力があろうと、それを動かす頭が足りなくなった帝国軍。煌帝の粗暴を諌めるという大義はあれど実の伴わなくなった星教騎士団。だが、我が子を煌帝にするという妄執に取り憑かれ、実弟の仇討ちを望むレイラには冷静な判断など望めなかった。
「ネグロスよ、もはや一刻の猶予もなりません。逆賊セイリウスを討伐するのですっ!」
「難しい事を簡単に仰る。事、此処に至っては暗殺するには警戒厳しく、もはや、戦端を開き戦場に引きずり出すしか無いかと。」
「ならば、全軍をもってセイリウス達を殲滅するのですっ!」
「お待ち下さい、母上っ! 」
割って入って来たのはレイモンドだった。




