II-Secondo
「最近、星教騎士団の悪評が増えた気がしないか? 」
不意なクライオスからの質問にフローレンスも少し考えた。
「最近は、ならず者が増えたとはいえ、言われてみれば確かに多い気がしますね。」
白銀騎士団と薔薇騎士団が抜け、大きくなった帝国軍との戦力差を埋めるため、星教騎士団はなりふり構わない採用をしていた。腕に多少覚えのある星教信者から、食いはぐれの剣士まで、様々である。それにしても、である。
「ひとつ、調べてみるか。」
「その出で立ちで? 」
クライオスの異名、蒼銀の凍将は、その鎧と剣技からきている。蒼く輝く鎧姿では目立ち過ぎるのではないだろうか。フローレンスがそう考えても無理はない。
「私を見た時の出方で、おのずと相手の正体は知れよう? 」
白銀騎士団と薔薇騎士団の星教騎士団からの離反は、まだ公にはなっていない。造反分子として討ちにくるか、敵軍将校として討ちにくるか。帝国軍でも星教騎士団でもない、ただの野盗であれば逃げ出すのが関の山である。だが、クライオスの知らぬところで星教騎士団の悪評を確かめようとする者がいた。
「星教の教えを掲げる星教騎士団に在って、あってはならない事です。わたくし、確かめてまいります。」
たとえ追われる身であっても国民に被害が出ているのであれば、ホーリーには放っておけなかった。大人数では目立つからとセイリウスと二人で出掛けた。二人は街の大通りに出ると騒ぎのする方へと急いだ。騒ぎの中心に居る、星教旗を掲げた一団を指揮する男に見覚えがあった。
「皆さん、騙されてはなりません。この者たちは星教騎士団の者ではありません。」
星教騎士団の名を汚す一団に我慢出来ず、飛び出したホーリーの顔を見て、男はニヤリと笑った。
「バレては仕方ない。だが、思わぬ獲物が掛かったようだ。者共、この者は逆賊グラナートの娘、ホーリー・セイドルフだ。捕らえよ。」
ホーリーと、近づこうとした兵士の間に閃光が走る。その閃光が放たれた方を見て、今度は男は顔をしかめた。
「今日は大漁だな。」
「義叔父上、ホーリーに手を出すな。」
「義叔父上? このサンダルフを叔父と呼んでいいのはレイモンドだけなのだよ。者共、この煌太子を騙る偽セイリウスを殺せっ! 」
「しかし… 」
セイリウスの顔を知る兵士は顔を見合わせた。
「えぇい、わしがやるっ! 」
「なりませぬっ! 」
馬上から槍を振り下ろそうとしたサンダルフの前にホーリーが飛び出した。次の瞬間、閃光がサンダルフを捉えていた。
「遅かったか?! 」
遅れてきたクライオスが争いの輪に飛び込んで来た。
(クライオス殿、殿下を逃がしてください。)
「何? 」
(私には家族がいる。今、殿下の為に出来るのは、貴殿とつばぜり合いをして追っ手を遅らせるくらいの事しか出来ぬのです。)
(事情は分かったが、私とつばぜり合いを演じるには役不足だ。)
クライオスは飛び退いて兵士と間を空けると、一瞬にして氷壁を築き上げた。確かに蒼銀の凍将と一兵士では力量が違い過ぎる。後で、この兵士が疑われないようクライオスは退路を確保した。
(どうか、ご無事で。)
そんな事を祈って振り向いた兵士を一本の剣が貫いた。
「このネグロスの目を欺けると思ったか。まさかサンダルフを一撃で倒すとはセイリウスも腕を上げたものだ。」
そう言うとネグロスは残った兵士たちを引き連れて引き上げていった。
実弟の死に王妃レイラの怒りと哀しみがセイリウスに向けられる




