II-Primo
世間的には、ホーリーの誘拐事件もセイリウスの家出も表沙汰にはなっていなかった。無論、お互いの政治的判断によるものである。その為、双方から追われる覚悟をしていたレインの一味は、助かってはいた。だが、あくまでも表面的な事は判っている。レインたちの調べで、帝国側は義弟のレイモンドを煌太子にしようとしている事、教会側は白銀騎士団、薔薇騎士団が離反した事が判っている。
「たいした情報網だな。」
「これくらい、朝飯前だよ。それより、これからどうする? 」
頭領のレインとすれば、義賊としての仕事もしたいが、引き受けた以上、ホーリーの安全も守らなければと考えている。以前の大所帯なら不満も出るだろうが、幸い、残った面子には、その心配が無かった。
「ちょっといいか? 」
ゲイルがセイリウスを連れ出した。
「どうした? 皆に聞かれると拙いのか? 」
「お嬢たちに正体がバレるのは拙かろう? 」
ゲイルの言葉にセイリウスも頷いて席を外した。
「おそらく、次の帝国軍の狙いは殿下の暗殺。ここは姫君と共にクライオスの元に身を寄せた方が良いかと。」
「父上が俺を暗殺? ないない。」
セイリウスもさすがに、実の父が自分の命を狙うとは思えなかった。
「狙っているのは妃のレイラ。暗殺となれば漆黒の轟将ネグロスが動くはず。いかに拙者でも、殿下と姫やお嬢たち全ては守れませぬ。」
「義母上か… 。義弟のレイモンドを王位につけたいんだろうな。」
「家出などするからだ。煌位継承権放棄でもすれば良いものを。」
「こいつ、抜いてみな。」
そう言ってセイリウスはゲイルに星剣アストリアを渡した。渡されたゲイルが、いくら力を込めてもびくともしなかった。怪訝そうな顔をしてセイリウスに返すと、セイリウスはいとも簡単にアストリアを抜き放った。
「実は、こいつを抜けるのは俺しかいない。持って居なくなりゃ、偽物でも作るかと思ったんだけどな。」
それを聞いてゲイルも不思議に思ったのか、尋ねた。
「それは、現煌帝シャイナードも? 」
「もちろん。星帝アストリウスの血統は母上から継いだものだ。」
「ならば、シャイナードは煌帝ではなく摂政ではないか?! 」
「俺がガキの頃の事だからな。多分、煌帝の重圧を掛けたくなかった親心じゃないかと思うんだ。」
「それで、星剣と殿下の存在が邪魔になったのか。」
ゲイルもレイラがセイリウスを暗殺しようとする理由が腑に落ちた。この戦局を一変させかねない事実にゲイルは思案を巡らせていた。
セイリウスの思いを他所に局面は動き出す