Overture
まずは内乱の「序曲」から
星帝アストリウスがアストリア帝国を建国して千年余りの時が経っていた。アストリア帝国の現煌帝シャイナードは近隣の同盟諸国を征服し、凱旋を果たした。だが、この戦果を両手を挙げて喜ぶ者ばかりではなかった。その先頭に立っていたのが時の教煌グラナートであった。
「陛下、教煌がお見えです。」
「通せ。」
形式通り、一礼をしてグラナートが入って来た。
「煌帝陛下、何故同盟諸国に戦を仕掛けられた? 」
予想通りの質問にシャイナードはニヤリと笑った。
「吾は煌帝、領土拡大、覇権を望んで何の問題ある? 」
「わしが問うておるのは、何故アストリア星教の教えに背いて同盟国に仕掛けたのかという事じゃ。」
冷静なシャイナードに向かってグラナートは語気を強めた。
「考えてもみよ。我がアストリア帝国は同盟諸国を守ってやっておるのに、奴らは貿易の名のもとに帝国の財産を搾取していた。このような不公正な状況を煌帝として看過しておれるか? 」
「それは外交努力で解決すべき問題じゃ。武力制圧など…。」
不意にシャイナードはベルを鳴らした。すかさず近衛兵が入って来た。
「教煌のお帰りだ。」
グラナートは拳を握りしめてシャイナードに背を向けた。まだ、話しは終わっていない。だが、そう言ってもシャイナードが聞く耳を持っていない事は分かっていた。
シャイナードの凱旋から1週間ほどしてアストリア帝国議会が開催された。そこには帝国軍部の将軍たちと肩身を狭くした元同盟諸国の王たちがいた。一方的な軍部の発言にも、亡国の王に反論の余地は無いかに思われた。だが、軍部に意義を唱えた者が居た。アストリア星教の枢機卿である。将軍がシャイナードの代行ならば、枢機卿はグラナートの代弁者。互いに主の主張は心得ている。二人の舌戦は熱を帯び、軍部は将軍に、亡国の王たちも法外な重税、圧政に反発して枢機卿の側についた。元々、諸王の半数以上は敬虔な星教徒であり、今回の帝国の行為に疑問を呈していた。二分された議会は騒然とし、何も決まらぬまま、議長は閉会を宣言せざるをえなかった。
「敗残者ふぜいがグラナート如きに勢いづきおって。」
議会の報告を受けたシャイナードは憮然としていた。
翌日、双方から御触書が発布された。アストリア帝国軍からは煌帝シャイナードの名においてグラナートを罷免し、星典を改変するというもの。星アストリア教団からは教煌グラナートの名においてシャイナードを煌位から訴追し、信者からも追放するというものであった。ここにアストリア帝国建国以来の内乱が勃発する事となった。
今回は主人公もヒロインも登場しない物語の前段階。今回勃発した内乱を背景に物語は進みます。