スプリンガー物語
大学時代に書いた小説です。熊大SF研究会「天動説」から出していただいた「宇宙帆船レース」の冊子に収録してもらったお話です。当時プレイステーションのソフトの「アストロノーカ」に触発されてできたお話でもあります。数年前学校図書館司書補をしたときに、絵本をその学校の図書室に置いて来ました。
ボクはスプリンガー。陽気な生きものさ。
惑星サンダーソニアで生まれ育ち、今日まで生きてきたけど、最近 《ちきゅう》という惑星から《にんげん》という生きものたちが大勢やってきた。
興味がちょっとわいたので、《にんげん》たちが住みついた場所の近くに見に行ってみた。
するとどうだろう!
畑が作られていて、見たこともない野菜がたくさん植えられていた。
ボクはさっそくおしょうばんにあずかった。
もう、うまいのなんの(げっぷ。)
またちょくちょく寄らせてもらおうと思って、その日はお家へ帰っちゃった。
次の日。
畑へ行ってみたら、落とし穴が掘ってあった。
危ないなぁ、とりあえずよけとこうっと。
そして野菜をむしゃむしゃ食べてごきげんでお家へ帰った。
そんなふうにして数日たったある晴れた日。
いつものように畑へ行くと、あちこちに変なテーブルが置いてあって、その上に大好物の野菜がのせてあった。
ボクはちょっと首をかしげつつ、テーブルにぴょんととびのって、野菜を食べた。
あっ。
ボクが気づいた時は後の祭りだった。
何か透明で固いものがドーム状にボクをおおっていて、逃げられなくなっていたんだ。
「やったぁ、ついにつかまえたぞ、この野菜ドロボーめ」
待ち構えていたのかすぐに《にんげん》がやってきて言った。
ボクはこれからどうなるんだろう?
泣きそうになって《にんげん》をみつめていたら、その《にんげん》は困ったような表情をしてため息をついた。
「殺すのはなんだかかわいそうだから、しばらく様子をみて飼ってみるか」
その《にんげん》の言葉の意味はよくわからなかったけれど、どうやらボクは助かったみたいだった。
ボクは特別製のかごに入れられて《にんげん》の家の中へつれて行かれた。
「こいつが落とし穴にひっかからなかったのは、羽がついてて、おまけにぴょんぴょんとびはねる習性があるからだったのかぁ・・・」
その《にんげん》はボクをじろじろ見た。
いやん。そんなにみつめちゃ。
ボクは恥ずかしくてしかたがなかった。
そこでおかえしに《にんげん》を観察してみた。
ボクらスプリンガーは雌雄同体なんだけど、《にんげん》にはオス・メスの区別があるようだった。
ボクのことをつかまえた《にんげん》はオスのようだった。(一人暮らしの男やもめ、って感じかな。《にんげん》に言わせると。)
ボクがみつめ返すと、《にんげん》はなんだか嬉しそうだった。
待っていたら、大好物の野菜をもってきて食べさせてくれた。
「こいつが食うのはうまいやつだけなんだよなぁ・・・。今度の野菜品評会に出すやつを決めるのに、いくつか試作品を食わせてみよう」と、その《にんげん》は言った。
どうやらボクはペット兼実験用に飼われることに決まったらしい。
しばらくボクのお家だった所には帰れそうにないけど、いいや。ここだってずいぶん居心地良さそうだから。
翌日の朝。
ボクは卵を一個産んだ。
あたためなくても置いておくだけで一週間もすればボクそっくりの子どもが生まれるはずなんだけど・・・、その一個は《にんげん》の食卓にのぼったようだった。
毎日必ず卵を一個産んじゃう習性が、ボクらスプリンガーにはあるんだ。
かわいいボクの子どもたちは適度に天敵に食べられていないと、ネズミ算式に増えていってしまう。
だから《ちきゅう》からやってきた動物の口にあうかどうかはさておいて、《にんげん》に卵をとられてもあんまし気にならなかった。
「どうだろう、卵がかえるまで一個だけ様子をみてみようかな」
ボクを飼っている《にんげん》がそう言って、ある日一個だけ孵卵器のような所に保管していた。
一週間後に生まれたボクそっくりのスプリンガー二世は、他の《にんげん》の家にひきとられていったらしかった。
「よし。こいつは使えるぞ。みてくれがかわいいし、食用の卵も産むし、えさは野菜ですむし。増やしてペットとして売ればサイドビジネスでもうかるかもしれん!それで金がたまったら、嫁さんでももらうか・・・」
《にんげん》はボクを見ながらにんまり笑った。
ぱくぱくむしゃむしゃ。
ボクは野菜を食べまくった。
ころん、ころん。
卵は毎日一個ずつ・・・のはずだったのに、ある日突然二個生まれちゃった。
「成長促進剤を使った野菜は、食べてるほうにも影響が出るみたいだなぁ・・・」
何日か続けて二個ずつ卵を産んでいたら《にんげん》がそう言った。
《せいちょうそくしんざい》って何なんだろう?
別の日。
《にんげん》がいつもの三倍の大きさの野菜をもってきてボクにくれた。
味は同じなんだけど大きいのなんの、って。
さすがのボクも食べ残しちゃったくらい。
ところがその大きな野菜を食べたあとに、ボクの卵からかえった子どもたちが、普通の大きさの三倍で生まれてきちゃった。
さぁ大変。
普通のサイズのかごの中で三倍大のスプリンガーがどたばたとびはねまくる。
《にんげん》は途方にくれた様子だった。
「この前の成長促進剤の野菜も、今度の三倍大の野菜も、人体に影響がでたらいけないので市場には出せそうもないな・・・」
一か月後。
「俺は農業にむいてないみたいだから転職することにしたよ。・・・おまえたちを放してやるからどこでも好きな所へ行っていいぞ。さぁ、お別れだ」
《にんげん》はボクたちを野に放った。
みんな思い思いの方向へ飛んでゆく。
ボクももとのお家に帰らなきゃ。
野性に戻ってからはまた天敵に襲われないように、毎日食べものを探して生きていくんだなぁ・・・。
やっぱり《にんげん》に飼われていた時の方がましだったかなぁ・・・。
けどしょうがないね。
「ばいばい」
ボクは空の上から《にんげん》に言った。
それは《にんげん》と暮らしていて覚えた《にんげん》の使う言葉だった。
おしまい