第二話 『もうこれでいいんです』
ああ、完璧に終わった。
俺の人生は唐突に終わりを告げることになった。
最低な人間が最悪な結末を迎えることになった。
誰からも看取られることもなく、親父の愛した松の木の下で死ぬんだ。
「はあ」
溜息しか出てこなかった。
きっとバチが当たってしまったんだ。
もう自分の死を受け入れるしかないんだ。
俺は薄れていく視界の中で、もう少し真っ当な人生を送っていればよかったと後悔した。
「…めでとうございます。あなたでちょうど一兆人目でございます」
次に目を開ければ、ひとりの少女が暗闇の中でにっこりと笑いながらそう呟いた。
きっと死にたくない願望がこんな夢を見せているのだと思った。
暗闇なのに彼女の顔がはっきりと見えていることが何よりもの証拠だ。
「いえ、これは私が使っている能力なんです。周りは暗いんですけど、私だけの顔があなたに映るようにしているんです」
そう言う彼女は明らかに怪しかった。
こんな芸当は俺の頭の中の産物でしできないはずだ。
騙されてはいけない。
だが、騙されているフリぐらいはしてもいいだろう。
だってそうだろう?
もう俺はただの屍にすぎないのだから。
「へえ……じゃあ、あんたは俺から見れば異世界の住人なのか?」
少し無理矢理な会話の感じもするが、話を進めるには都合がいいだろう。
「はい、そうです。あなたから見れば、私は異世界の住人でございます」
どこかの美少女特集に載っていそうな顔の持ち主の青髪の美少女の笑顔に見惚れてしまった。
くそお、俺の想像上の産物なのにやるじゃねえか。
「で? その異世界の人が何の用だ? まさか、死んでしまった俺を慰めるためにその身体を使わせてくれるのか?」
明らかなセクハラ発言なのだが、俺の夢だからノープロブレム。
彼女に嫌われようが、俺にとっては関係ない。
「いいえ、違いますよ。ただ、あなたは一兆人目の死者として迎えに来たのです」
え?マジかよ。
ここって、まさかの天国?
じゃあ、あの娘って天使なの?
だから、あのセクハラ発言にも優しく対応してくれるんだ。
「それで、ですねえ。記念としてあなたを異世界に転生させます」
え?何それ。
「本当は選択肢もあったんですが、あなたの顔を二度と見たくないので強制的に転生させます」
やっぱ、彼女は怒っていました。
「それでは良い旅を」
そうして、よくわからない魔法陣に囲まれながら異世界転生をすることに。
最後に手を振りながら、笑顔で見送った彼女はとっても怖かった。
次の話でやっと異世界に転生します。