第7話 怪盗の名を持つ者
「と、この5人に対してオウはクロ君に任せる。が、勝つ事よりも時間稼ぎを優先してくれ、こちらが終わればすぐに応援へ向かう。サポート役として神野さんと黒澤さんを付けよう。」
鈴姉と光が一緒に!?そんなのは危険すぎるのではないのか?何か、何か言い返さなきゃ。
「約束が違うじゃねぇか!非戦闘員のあいつらは安全の確保がされるんじゃないのか!?」
龍一がそう怒鳴る。
そうか、龍一はそういう約束でここに入ったんだったな。
「ここも安全ではなくてね。クロくんのとこは隠れる場所も多いんだ。だから、万が一の時はクロくん頼りになってしまうが。これが最善策なんだ。」
「ちっ」と龍一は舌打ちをすると椅子に腰をかける。
「そしたら、クロくんは観光でもしていてくれ、一応地下都市だからね、色々あるんだよ。龍一くんは奥に来てくれ。」
そう言って支部長は龍一を連れて奥の部屋に行ってしまう。
じゃあ、言われた通りに観光でもするかな。
×××
と言ってもまじで広いなぁ。
1日で回りきれないのがはっきりとわかる広さだった。
ついでに光たちもついてきていた。
「こんな普通な事出来る日が来るなんて思ってませんでした。」
赤崎さんがそう言って辺りを見回す。
「本当ねぇ〜、あ!あっちに温泉があるわよぉ〜!」
「え!?」
鈴姉はそう言って赤崎を引っ張って行ってしまった。
鈴姉は意外と……というか、かなりのマイペースだ。
「僕が見ておきますね。」
清水は俺らにそう伝え、鈴姉たちを追いかける。
「ったく、鈴姉は。」
「いいんじゃないかな?これが最後になるかもだしさ。」
「あ?……おう。」
光の言葉の真意に気付けなかった俺の愚かさを呪うことになる。
×××
俺と光は色んな店を回る。
少し食事をしたり、服を買ったり、色々した。
あ、お金の方は第3支部から支給されたものだからな!
決して、強盗とかはしていない。
「きゃーぁっ!泥棒よ!」
いや、だから違うって。
じゃなくて、
「泥棒!?どんな奴でしたか?」
「そ、それが全くわからなくて。気が付いたらバックを盗られていて。」
気が付いたらって。
どんな高等なすり能力だよ。
むしろ能力でも使ったんじゃないのか?
「ねえねえ。」
だが、能力だとしてそんな全く気付かれずにバックを盗れる物なのか?
「ねえってば。」
それにしても、どんな奴かわからなきゃ追いようがない。
どうする、見過ごすわけには。
「ねえ!」
「なんだよ!!!」
「お金、どこやったの?」
「……は?」
確認をするとお金を入れていた袋が消えていた。ベルトにかけていたんだぞ?
急に消えるなんて……。嘘だろ。
「私があっち見て振り向いたらなかったの。え?どこかに投げた?」
「投げるわけねぇだろ!?」
「だよね。」
目撃者が誰もいないのか?
今目の前にいるこの被害者さえ、俺への犯行を見逃していたのか。
ようするにこの付近にいる人間、全員が俺から目を背けた一瞬で犯行をこなしたのか?
いやいやいやいや。
どう考えても不可能だろ。
能力にしたって、消える瞬間くらいは。
「あれ、お尻になんか貼ってある。」
『そこから左の路地裏に……いらっしゃ〜い。』
なんだこの無性に腹の立つ文面は。
ゾッとした。
奴は、犯人は本当に誰も見ていない一瞬で盗み、俺に貼り紙まで残したんだ。
そして、貼られる事に俺が気付けていない。
何より左のを見るとそこには路地裏への道があった。
ここで盗むのを予定していた、という事なのか。
かなりレベルが高い、というか神業だ。
「光、ちょっと待ってろ。」
相手がどんな奴もわからない。
だから、光は置いて奥へと俺は歩き出す。
バサバサバサッ。
マントを羽織った1人の男がそこには立っていた。
「こんにちは、なんてお呼びすればいいですかね。7番目に見つかった7席なんで7番目と呼びますね。それでは改めて、こんにちは。7番目。」
待て、この能力、見た目、そして7席という言葉……この男は間違いなく。
「自己紹介が遅れましたね。私は、ルパン。特殊戦力7席の1人。どんなものでも確実に奪い、欲しけりゃ奪う、道具も金も地位も記憶も命も……。」
こいつは何を言ってんだ?地位や記憶や命ってどう奪うんだ。
いや、命は簡単か。
とはいえ、こいつの言ってる事はやはり変だ。
命を奪ってしまったら、それはルパンとは違うんじゃないのか?
やはり名だけのルパンって事か?
「あ、勘違いしないでくれよぉ?命もしっかり奪うんですよ、殺すんではなくね。」
殺さずして命を奪うって、それは奪うなのか?
やっぱりこいつの言っていることは理解しにくい。
「後、話の途中でーすよ?あと一つ言ってないものがあるんだぁよねぇ。」
まだ奪えるのか。道具に金に地位に記憶に命に……後はなんだ?
全部挙がってる気がするんだが。
「存在をも、でーすねぇ。」
俺はその言葉の冷たさに考える事を一瞬、放棄してしまった。




