第5話 2人目
「俺が7席の……1人?そんな、俺はイブリースにいた事すらないんですよ?」
いや、待て。
特殊戦力7席は選ばれた人間が揃っているんじゃないのか?
「元から決まっているのさ、7席となる7人とは。」
「いや、だから俺はイブリースと深い関わりがまず……。」
この人は何を言っているんだ。
それにもし元から決まっていたとしたら、イブリースは人間じゃない奴らの集まりなんだろ?
俺が人間じゃない、そういう事になるじゃんか。
「生まれながらにして7席とは決まったものだった、と我々がイブリースの内部状況を観察していたら、そう感じたね。」
「いや、けど俺が人間じゃない!そういう事になりませんか!?それは。」
「そういう事だよ。」
俺は言葉が出なかった。
想像もしていなかった、自分が人間じゃない。
そんな風に言われる日が来るなんて。
「証拠は……証拠はあるんですか!?」
「あぁ、7席かどうかは証拠を出せんがね。君が人間ではない。ここに関しては証拠のようなものはあるよ。」
証拠が……ある?
俺が人間とは違う部分でもあるのか?
いや、ない。
俺本人すらそんな部分は感じたことがない。
「ドールは人を襲わないのさ。」
「は!?そんなわけ────」
「あるんだよ。現に殺られたイブリース隊員はみんな人間ではないようだ。僕の仕切る第3支部は誰も死傷者が出たことがないからね。」
「それはあんたらが奴らと……ドールと繋がってるんじゃないですか!?」
「いいや、襲われた事はあるのさ。……メルキセデク、この名に聞き覚えがあるだろう?」
メルキセデク……それは俺らを最初に襲ったドールの上の何か、だ。
やつは自分をドールの進化体、と言っていたが本当かは確かめようがない。
「彼は何かを確かめるだろう?その際、龍一くんは何もされず、君は殺されかけた、との報告を受けたのさ。これが証拠、さ。」
「わかりました。それを証拠だとして、俺に何をさせるんですか?」
もう、否定をするのも無意味だと思った。
証拠というかは何とも言えなかった。
だが、もし俺が人外で特殊戦力7席だとしたら、この人はなぜ俺を第3支部に入れようとしているのか、そこが重要になる。
「イブリースを潰すに当たって、君の戦力が重要なのさ。」
「俺が……必要?」
「ああ。まず、相手の戦力が大きく減るのは確かだ。そして、僕の睨みが正しければ君は7席でも一二を争える強さなんだ。」
俺が一二を、争う?
アルという7席の1人と以前に出会ったが、姿すら追えなかったのだぞ。
「だとして、僕が戦う相手ってのは。」
「『オウ』という名の7席だ。基本的に基地は帰ってこずに、地上に根城を作って、そこに暮らしているらしい。」
オウ……地上に1人、なんて事はないよな。
いや、俺はまだ逃げたいんだ。
今の地上にドールから襲われる人外が1人でいる。
そんなのは信じがたい。
だから、ドールに襲われない人間であるっていう淡い期待をしているのだろう。
この期に及んで、俺は人間であろうとするんだ。
情けない。
「君にその1人を任せ、残りの6人を総戦力で凌ぐ。という作戦なんだけどね。」
作戦……なんて大層な呼び方をしていいのか?それは。
「まぁこの辺もさ、検討してほしい。いい返事待ってるよ。」
そう言われ、俺は部屋から出される。
そして、龍一が今度は個別で話すようだ。
龍一には一体何の用なんだろう。
そんな事より、今は自分のことか。
イブリースの人間の大半が人間でないという事、俺が人間ではないという事、『オウ』という7席とサシで戦うという事。
整理が追いつかない、これが本音だ。
「あなたが7席の空いてる枠!?」
突如、廊下の奥からそんな声がした。
そこには1人の女の子?……歳はあまり離れてなさそうだ。
その子は声を上げるなり俺の方へと走り、抱きついてきた。
「私!ずっとあなたに会いたかったんです!やっと会えた!やっと!」
この子はいったい誰なんだ?
「記憶がないんですよね、大変でし…た、よね……?スンスン……女の、匂い。」
「ん?今なんて?」
その時だった、彼女は豹変した。
「どうして!?どうして他の女の匂いがするんですか!?私という女がいながら!」
なぜこの子がこんなに怒っているのか全く理解出来ず、困っていると
「あ、おい!レビィ!何してんだ!」
そこに来たのは、アルさんだった。
「しょうがないだろ。彼は記憶がないんだから。それに一方的な片想いだろ。」
「あ?殺すぞ、まず私に気安く触ってんじゃねぇよ。ゴミ虫が。」
誰この人、さっきの可愛い感じなお嬢さんはどこへ。
まず一人称変わってるし、口もだいぶ悪く。
「と、とりあえず、行くよ。レビィ。」
「あの、アルさん。その人は?」
「あ、この子はレビィ、7席の1人だよ。それじゃ、またな。」
やっぱ彼女も7席なのか。
だけど、俺を知っていた。
それに記憶がない?どういう事だ。
俺が7席なのと関係があると考えてよさそうだ。
そうこうしているうちに、部屋から龍一が出てきた。
「あ、龍一。話はなんだったんだ?」
「それは……言えねえ。けどな、クロ。俺はイブリース第3支部に入る。」
龍一が何を言われたかはわからなかった。
だが、これが俺らの日常を壊すスタート位置だったのは確かだろう。




