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第3話 四帝

「さらばだ。」

これで俺も終わりか。

もうダメだ、そう諦めた時に俺を襲っていた心臓を握るような痛みが消えた。

それと同じく

「クロ!」

龍一がこちらへ走ってくる。

正気に戻っているようだ。

「な……っ。龍一、お前元に戻ったのか?」

「あぁ、あいつが現れた瞬間、正気に戻ったんだ。」

龍一の指差す方向にはメルキセデクと名乗った進化したドールがいるはずだが。

メルキセデクと俺らの間にもう1人立っていた。

4枚の大きな翼に、白い鎧。

その鎧のふちを赤と黄色のフレームが付けられている。

よく見ると鎧ではなくドールと同物質の肌(・・・・・・・・・)だ。

こいつも、メルキセデクと同じ進化したドールなのか?

「何をしに来たのですか?"四帝(ジ・フォース)"の1人でもあるあなたが。」

喋り方から察するに、あの大きな翼のドールはメルキセデクの更に上なのか?

メルキセデクでも何も出来ずに殺されかけたってのに、その上がいるのか。

「これは一定範囲内の我々の力を無力化するものだ。彼らへの力を解除しろ。そしたら、これを破壊する。話はそれからだ。」

「承知しました。」

大きな翼のそいつは何かを確認し、手に持つ水晶のようなものを手の上から落とし、足で踏みつけ砕く。

「話だが、やつは野放しにする。」

「なぜですか?」

「そうした方がヤツら(・・・)を誘き出すのが楽になりそうだからだ。考えてもみろ、こいつはお前が確認したところヤツらの1人(・・・・・・)なのだろう?」

そう聞かれるとメルキセデクは小さく頷く。

「では、お前は1度戻れ、私はこの者たちに渡すものがあるのでな。」

「了解しました。」

メルキセデクは背中から翼を出し、どこかへと飛び立つ。

助かった……のか?

だが、この大きな翼のやつがいる限り安心は出来ない。

「疑問が多いだろうが、私が少しだけ解決してやろう。」

「教えてくれる……のか?敵なんだろ、あんたは。」

大きな翼のそいつは頷くが続ける。

「支障はないしな、君らを利用するせめてものお詫びだ。」

「ずいぶん律儀だな。」

フッ、と大きな翼のそいつは小さく笑い。

……笑ってるんだよな?顔が見えない?ない?

だから表情がわからない。

「律儀な生き物なのだよ、我々は。そして、さっきのメルキセデクだが、やつは一つのチームの隊長と言った立場だろう。」

それであの強さなのか!?

たかが一つのチームの隊長程度で。

「そして、その上に我々を束ねる七宝(シチホウ)という者たちがいてだな。その中でも選ばれた4人、それを四帝(ジ・フォース)と呼ぶのだ。私はその1人という事だな。」

七宝(シチホウ)…?四帝(ジ・フォース)……?

よくわからんが、とりあえずこいつがやばいレベルなのはなんとなくわかった。

こいつと戦ったら……間違いなく死ぬよな。だよな?

「今君は私と戦ったら、と考えているかもしれないけど。確実に死ぬから、やめときな。」

ゾッとした。

その言葉の冷たさに、俺は心を凍らされたようだった。

「拾った命、大事にするんだね。」

大きな翼のそいつはその翼で高く飛び上がり、すぐにもう目ではわからないところまで飛んで行ってしまった。

あ、名前は……聞けなかったな。

「クロ……なんだったんだ。」

「わかんねぇ。けど、やばいやつだよ、あれは。」

これだけははっきりしていた。

今の俺らじゃ、ぶつかっても、ただ殺されるだけだろう。

「とりあえず戻るか。龍一。」

「りょーかいっ。」

俺らは寝床へと戻った。


「大丈夫だったかい?クロ。」

「生きてるし大丈夫だろ。」

あいつらのことを言っても混乱させるだろうし、そこを伏せとく意味ではこれが一番の返事だろう。

「みんな無事でよかったわ。」

「すまんね。龍一くん、クロくん。僕は不甲斐ないから君らに任せてしまって。」

清水さんはとても申し訳なさそうだった。

「そんな事は……今回も何もなかったしな。」

「ほっんとっかなぁ〜。」

光がそんな風に茶化す。

空気を読めよ、バカ。

「冗談だよ。」

その言葉はどこか冗談とは違う、そんな感じがした。

「けど、皆さん無事でよかったですよね。」

なんだかんだ6人でやってきて今日みたいな危ない日は初めてで。

誰も欠けることなくやって来れている。

奇跡な気がするが……

「おい!神野!お前また勝手に食料漁ったな!」

「またなのぉ?光ちゃんたらぁ〜。」

「鈴姉は甘いです!光さん!しっかりとルールは守らないと───。」

「まぁまぁ、朱音……そんなに固くならないでさ。」

「うへへぇ、ごめんちゃい。」

こんな微笑ましい日常がずっと続けばいいな、そう思った。

こんな日常が続くのだったら、どれ程幸せなことだろうか。

だが、まだ何も始まっていないのだ。

楽しい日常とは脆く、簡単に崩れてしまう。


そんな全てを壊してしまうような出来事はまだ何も動き出していない。

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