第2話 降り立つ者
ドールも人間と同じく心臓があり、首から上を落としてでも死ぬ。
死ぬ?というより灰になる。
基本的に出血はしないようだ。
ドールを斬った際、出血をしたとこを見た事がない。
龍一が後ろから回り込み、俺がドールの気を引く。
これがいつものパターンだ。
ドールはいつもの様に俺に気を引かれる。
やっぱりこいつらはバカなのか?
龍一が刀を使い、首をはねる。
「今回も楽勝だったな!」
「あぁ。相変わらずバカだな、こいつら。」
「そうだな!よし、戻るか。」
「ああ。」
俺らが背を向けた時、背後に嫌な予感がした。
正確には何かがいる、そういう気配だ。
俺は振り返るとそこにはドールに似た何かが立っていた。
いや、確かに見た目はドールに近い。
だが、少し違うんだ、見た目もそうだが何より雰囲気が……全く別のものだ。
「さあ、始めよう。正義と平和のために。」
「喋った!?」
やつはやはりドールではない。
今喋った、それも人と同じ言葉を。
龍一はいち早く行動し、そいつに斬りかかる。
だが、それを避けつつそいつは龍一の左胸に手を当てる。
知能まである……全く別ものじゃねぇか。
「───ミール……。」
今……なんて?
そいつがそう言い手を龍一の左胸から退けると、龍一はその場に両膝を付き動かない。
「どうした!龍一!」
呼びかけると、それに応じて立ち上がる。
でも不思議な事に龍一から力強さを感じない。
それはまるで戦意を失ったように無気力だった。
「……戦う必要、ないんじゃないか?」
「は……?何言ってんだよ!」
なんとか龍一に戦意を取り戻させようとすると、またやつが近付いてきた。
「ちっ!」
俺は距離を取る。
あの手に触れられたのが原因だと考えるのが妥当だ。
そうなるとやつに近付くのは愚策だと思う。
それに龍一が殺されていない事を考えると焦る必要もない。
もしかしたら、殺すのが目的ではない可能性もある。
それでも予想できるのは捕獲とかだと思うのが無難だろう。
確か……最初に正義と平和がどうとか言ってたな、そこから何を導き出せるか……。
今はわかんね、とりあえずあいつを倒せば聞き出せるよな。
俺はやつを中心に周り走り出す。
これで俺がいつ仕掛けるかわからないはずだ。
正直正面で見合ってても勝てる気がしないからな。
俺はやつの方へ走り込み攻撃を仕掛けようとするが足を払われ、その場に倒れ込みかける。
それをやつは支える。
さっき龍一になにかしたその手で俺の左胸を。
「しまった───。」
「ミール……。」
何も……起こらない?
とりあえず俺はやつに蹴りを入れ、そのまま距離を取る。
何も起きていない。
戦意もある、痛むところはない。
いったい何をしたんだ───。
「いったい何をした。いいや、何者だ。」
やつが俺に聞いてくる。
いや、それは俺の質問だろ。
「お前が人間ではない可能性がわかった。これより確認を始める。」
確認……?
今度は何をする気だ。こいつは。
右手を前に突き出すとやつの手のひらに青い光が集まっていく。
なんだよ……あれ。
確認、ってか殺しに来てないか?
「───スゥディヤー……。」
今度はなんだって?
それと同時に集まった青い光から無数のビームのようなものが飛び出す。
俺はそれを左へと大きく飛び避けると、そのビームはこちらに曲がってきた。
「追尾型かよ!」
そんなの限りがない、と俺は思ってしまいまともにうけてしまう。
俺の体はその青い光へと包まれたが、無傷だった。
「何も……起こらない?」
さっきから奴は何をしているんだ。
何も起こらないではないか。
───ドクンッ……。
「ゔっ……。」
急に心臓に握られるような痛みを感じた。
「な、んだよ。こ、れ……。」
苦しい……動けない。
「確認。殺害対象。」
殺害……対象?
やつはゆっくりと俺に近付いてくる。
殺される、俺の何を見て何を判断したんだよ。
やめて……くれよ。
苦しくて声は発せず、逃げる事すら出来ない。
誰か、誰か助けてくれよ。
龍一もあの場から動かない。
俺はこんなとこで殺されるのか?
こんなわけもわからないやつに……そんなの。
そんなのは嫌だ。
「お、まえ、は、なんな、んだよ!」
精一杯、声を絞り出し叫ぶ。
答えるかもわからないが、問わずにはいられなかった。
このまま何も出来ずに何者かも、何かすらもわからないようなやつに殺されるのだけは勘弁だ。
「冥土の土産、と言ったところか。私の名で良いか?」
名?……こいつには、名前があるのか?
やはりドールとは別の何かのようだ。
いや、見た目からすると親玉とかそういう可能性もあるな。
「あ、ああ。それ、でい、い。」
俺の眉間の辺りにやつは剣を向け「わかった」と答える。
「私の名はメルキセデク。お前らがドールと呼ぶものが少し進化した存在だ。」
そいつの言葉に耳を疑う事しか出来なかった。
だってそうだろう?
やつは自分を進化したドールだ、とそう言ってるのだから。




