第1話 ドール
───新暦207年。
世界……地上はある者たちに支配された。
そいつらの名は"ドール"。
どこから現れたのかもわからないそいつらは、突如人々を襲った。
生き残った者は地下へ、空へと逃げるしかなかったのだ。
地下へ逃げた者たちはやがてドールに対抗するための組織を作り上げた。
それこそが"イブリース"。
その名の由来はわからず、何故かそう呼ばれている。
地上にも生存者は存在する。
その1人が俺でもある。
地上で生存する人間は俺を含め6人、誰も欠けることなく生き残る。
俺はイブリースなんかには頼らない。
×××
イブリースについてだが、普通の兵士とは別に"特殊戦力7席"と呼ばれる7人……いや、今は1人抜けているということで6人がいるらしい。
なんでも特殊な能力がある、だとか。
そして、総隊長を含め他にも何人か凄腕の戦士は揃っているらしい。
だが、何か嫌な予感がした。
だから俺はこいつらを連れてそこから逃げ出した。
イブリースの人らは万が一、俺らを見つけたら保護してくれるのだろうか……いや、そんな気はしないな。
あの人らから漂うのは、そういう裏がある危険さだ。
続いて俺らについて、だけど。
俺には詳細なそれがない。
戸籍もなく、名前もなくどこから生まれたのかわかっていない。
みんなからはクロと呼ばれてる。理由は白い髪が一部だけ黒くなってるから、らしい。
それと、黒澤 鈴音。
19歳で最年長。
みんなから鈴姉と呼ばれてる思いっきりなお姉さん肌だ。
料理などは鈴姉の担当だ。
次に、朝野 龍一、17歳。
イブリースに元々所属していたらしく、その実態も知っているが、その件については話したくないらしい。
戦闘能力は俺の次に高い。
俺と龍一のツートップが基本だ。
神野 光、16歳で俺とは同い年らしい。
俺らが地上に出る時たまたまその場にいた事から一緒にいる。
地上に戻る前から俺とは面識があった。
清水 心、18歳と赤崎 朱音、17歳。
親の離婚で姓が別になっているが兄妹らしい。
どちらもイブリースの支配下にある地下での生活にウンザリしていたらしい。
そんなこんなで地上を旅するのがこの6人だ。
地上は危なくないのか?って思う人もいると思うが生存者も0ではないらしいし、今じゃドールの数もかなり減っている。
何より最初の時はもっとやばい奴らもいた。
だからこその、特殊戦力7席なんてものだったりもするんだろう。
×××
「さて、今日はこの辺で休むか」
清水さんがそういい、その場に腰をかける。
俺はそのまま人数の確認をする。
1…2…3…4…5…6…7……。
よし、全員いるな……7?
俺は7人目の存在に気付き立ち上がろうとするが、気付くのが遅かった。
「はい、あんま騒がないでね。」
そいつは銃を俺の後頭部へと押し付け、全員にそう伝える。
俺は振り返ったはずなのに、その一瞬で後ろに回り込み銃を突きつけられたって事になる。
実力差は歴然だ。
「俺はアル。君らに少し質問があるんだ。」
「待ってくれ。あんたの質問の前に俺に一つ質問させてくれ。」
俺がそう提案すると、やつは少しも迷わずにそれを「わかった、いいよ。」と承諾する。
「あんたは、イブリース側の人間か?」
俺の予想が正しければ多分この男は……
「うん、そうだ。僕はイブリース特殊戦力7席の1人だよ。」
「やっぱりそうなのか。」
特殊戦力7席は基本的に基地内にいることは少ない、ただ1人を除いてらしいが。
そして、他のイブリース隊員もなしにこんな人が1人でいるなんてのは不思議だった。
だから、まさかなとは思いつつも聞いたのだ。
「じゃあ、今度はこっちの質問だね。君らはどうしてこんなところにいるんだい?」
「俺らはイブリースのやり方には従えない。だから地上に出てきたんだ。」
そう言い返すとアルは大きな声で笑う。
「あーっはは。君らか、君らが地上に出てったっていうおバカ達か。イブリースから連絡は入ってたよ。ま、ならいっか。ドールの仲間なら、と思ったけどごめんね。」
そして、俺の後頭部へと突きつけていた銃をしまい、アルはどこかへと向かう。
ここでいきなり戦いになったりしないだろうな、と少し不安だったからか。
力が抜けてその場に座り込んでしまった。
あれが……イブリース特殊戦力7席。
他にもあんなのが5人いる、そう考えただけでも冷や汗が止まらない。
×××
───女子入浴中。
「うふふ、朱音ちゃんのおっぱいは相変わらず綺麗ねぇ〜。」
「や、やめてください!鈴音さん!」
「どれどれ、私も拝見させてもらいましょうかなっ!」
「いいわよぉ〜。」
「光ちゃんまで!?ちょ、ふ、2人ともやめてください!あっ、ヒャァーーーーッ!」
×××
「元気そうでよかったな!」
「覗きとかやめろよ?龍一。面倒なことになるから。」
本当にこいつは何度か事件を起こしてるから俺が見張りの役目をする。
風呂のではなく、こいつのだ。
「ははっ!しねぇよ!多分な。」
「しれっと裏切るような発言してんじゃねぇよ。」
ここは危険なはずの地上だってのに、こんだけ穏やかにやってられるんだ。
もういっそ、ずっとこんな日が続けばいいのにな。
「クロくん!龍一くん!ドールだ!1体……こちらにはまだ気付いていないぞ!」
ドールの見た目は真っ白な人型の何かだ。
翼があるからか少しだけ浮いているのも特徴的である。
頭はあるが髪や顔といった概念がないようで、そんな人形のような姿からドールと呼ばれている。
一体なら問題は全くない。
今の人類は特殊な強化を施されていて、身体能力は高い。
ドールの身体能力も近しいもので数で勝ってる俺らが圧倒的に有利だ。
「行くぞ!龍一!」
「当たり前だ!」
俺らはドールへと立ち向かう。
これから起こる最悪な事を想像することもなく。




